2.5次元ミュージカルの人気作『刀剣乱舞』
最近話題の2.5次元ミュージカル。日本2.5次元ミュージカル協会によると、その定義は“2次元の漫画、アニメ、ゲームを原作とする3次元の舞台コンテンツの総称”で、歌や音楽を伴わない作品も含まれるのだそうですが、All Aboutミュージカルでは歌唱を“含む”作品を取り上げます。
2.5次元ミュージカルの聖地と呼ばれるAiiA2.5 Theater Tokyo 写真提供:日本2.5次元ミュージカル協会
小ぶりの劇場で上演される作品から『デスノート THE MUSICAL』のような大掛かりな作品まで規模は様々、内容も様々ですが、現在、人気オンラインゲームを原作とする話題のミュージカル『刀剣乱舞』の第三弾が、“2.5次元の聖地”と言われるAiiA(アイア)2.5 Theater Tokyoで上演中。筆者も大いに楽しんだこの公演の魅力を、キャストの一人・太田基裕さんインタビューとともにたっぷりご紹介します!
ミュージカル『刀剣乱舞』とは?
シリーズ第三弾にあたる、ミュージカル『刀剣乱舞 ~三百年(みほとせ)の子守唄~』
同名のオンラインゲームを原案としたミュージカルで、2015年にトライアル公演。オンラインゲームは「名だたる刀剣が戦士の姿となった“刀剣男士”を収集・育成・強化し、歴史改変をもくろむ敵を討伐して行く刀剣育成シミュレーションゲーム」ですが、ミュージカル版ではこのゲームの登場人物たちが、オリジナル・ストーリーで活躍。16年5~6月の1作目「阿津賀志山異聞」では文治5年の奥州平泉、9月の2作目「幕末天狼傳」では幕末、今回の第三弾「三百年(みほとせ)の子守唄」では戦国時代を舞台に戦う、刀剣男士たちの姿が描かれました。
演出は劇団・善人会議(現・扉座)出身の茅野イサムさん。華麗な舞台は観客を魅了、16年のCDシングルデビュー時にはオリコン デイリーシングルランキング1位獲得。16年12月の東京、大阪でのライブではのべ5万人を動員、17年2月にはインドでの「INDIA GAMING SHOW」に出演、5月には中国での公演も予定され、海外からも熱い注目を集めています。
ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズの魅力
- “歴女”も嬉しい?!「日本史」世界で躍動する物語と演出
ロビーで販売しているグッズ。手前から、一番人気だという缶ケース入りフレークシール、6色にチェンジできるペンライト、缶バッチのガチャガチャ、シュシュ。(C)Marino Matsushima
“歴史修正主義者たちが歴史を改変しようとタイムスリップ、過去の人々を攻撃する。彼らの野望を阻止するため、刀剣に宿る付喪神「刀剣男士」が集められ、立ち向かう”というのが、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズに共通するコンセプト。歴史上の人物も多数登場、歴史好きにはたまりません。また最大の見どころである立ち回りでは、例えば平安時代に作られた名刀「石切丸」は、神社暮らしの長かった大太刀ということで神主的な所作をするなど、それぞれ役柄に合わせた動きがつけられているのも特徴です。
ミュージカル『刀剣乱舞 ~三百年(みほとせ)の子守唄~』刀剣男士役の皆さん。左から、大倶利伽羅役・財木琢磨さん、蜻蛉切役・spiさん、にっかり青江役・荒木宏文さん、石切丸役・崎山つばささん、千子村正役・太田基裕さん、物吉貞宗役・横田龍儀さん。(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
刀剣男子役のキャスティングはオーディションで決定。それぞれの刀剣のイメージに合うだけでなく、役のエッセンスを咀嚼し作り上げられる若手が選ばれているそうです。今回の「三百年の子守唄」の太田基裕さん(『ジャージー・ボーイズ』)、spiさん(『ラディアント・ベイビー』)のように一般のミュージカルでも活躍する方から、大きな舞台は初めての方まで、顔触れは多彩。そんな彼らが一体となり、激しいアクションにも妥協せず“全力”で演じる姿は清々しく、好感を抱かせます。
- 本編(ミュージカル)+ライブで世界観にどっぷり浸れる
第一部のミュージカルは今回、約2時間15分。これだけでも充分に本作の世界を堪能できますが、休憩後には約40分間の「ライブ」もあり、一度のお出かけで観劇とライブの双方が楽しめます。ライブでは作品の世界観は保ちつつ、若干、俳優自身の個性も垣間見える演出で、ペンライトの光が溢れる客席は大盛り上がり。
- よりどりみどりの「刀剣男士」と“和の世界”がもたらす、無限の可能性
AiiA 2.5 Theater Tokyoでは海外からの観客向けに、他言語の字幕メガネサービスを提供。一回の公演で多い時には8人程度が利用しているという。写真提供:日本2.5次元ミュージカル協会
ミュージカルでは毎回、原作であるオンラインゲームのキャラクターの中から6名程度の「刀剣男士」(彼らは人間ではなく“刀剣”であるため、正確には“6振り”)が登場しますが、原作には62(17年1月現在)もの「刀剣男士」が存在するため、物語の時代設定に応じてさまざまなキャラクターが登場可能。今後の新作でも多彩なストーリー展開が考えられます。また日本史を舞台とし、日本ならではの立ち回りが堪能できるユニークな内容は、海外の人々にとっても大きな魅力。既に上海(第二作)、インド公演(第三作)が成功、5月には第三作の中国・珠海公演も控えています。“クール・ジャパン”の代表作として、今後さらに海外進出が本格化するかもしれません。
シリーズ最新作・ミュージカル『刀剣乱舞 ~三百年(みほとせ)の子守唄~』観劇ミニ・レポート
ミュージカル『刀剣乱舞 ~三百年(みほとせ)の子守唄~』より。(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
プロジェクションマッピングは使えど、基本的には階段のみの、シンプルな裸舞台。この空間で今回、展開するのは“歴史修正主義者”たちに命を狙われた徳川家康を守ろうと、未来からつかわされてきた6振りの刀剣男士たちの物語です。それぞれ歴史上の人物の姿を借り、身寄りを失った赤子、後の家康を育てる彼ら。桶狭間の戦いなど歴史上の出来事を差し挟み、生き馬の目を抜く戦国の世を生き抜いた家康は、晴れて天下を取りますが、後半は家族内で確執が生まれ……。
ミュージカル『刀剣乱舞 ~三百年(みほとせ)の子守唄~』より。(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
大河ドラマとしては“超高速”の展開ではありますが、生身の人間たちの葛藤を目の当たりにして心揺さぶられる刀剣男士たちの姿は真に迫り、エンディングで彼らが歌う子守唄「瑠璃色の空」は不思議な感動を呼び覚まします。
ミュージカル『刀剣乱舞 ~三百年(みほとせ)の子守唄~』より。(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
思慮深く優しい石切丸(崎山つばささん)、クールなルックスとは裏腹の“イクメン”ぶりを見せるにっかり青江(荒木宏文さん)、中性的な妖艶さで目を奪う千子村正(太田基裕さん)、どっしりと安定感ある姿に誠実さをにじませる蜻蛉切(spiさん)、身のこなしが軽く愛嬌のある物吉貞宗(横田龍儀さん)、他者とのなれ合いを嫌う孤高の大倶利伽羅(おおくりから)(財木琢磨さん)と、キャストもそれぞれのキャラクターを明確に表現。
ミュージカル『刀剣乱舞 ~三百年(みほとせ)の子守唄~』より。(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
休憩を挟んでの第二部「ライブ」では、第一部の世界観を保ちつつ、先ほどとは異なる衣裳で6人が登場。彼らの“地”が覗くコーナーなども織り交ぜつつ激しく踊り歌い、観客の多くもペンライトを振って場内が一体に。途中、彼らが客席通路に降りて歌い、客席を沸かせる一幕も。最後には衣裳の一部(おへそを見せるほどの露出度の方も)を脱ぎ、爽やかな開放感が劇場空間に満ちる中で、公演はお開きとなりました。
千子村正役・太田基裕インタビュー
「演じる役を愛してほしいという気持ちで、指先の形まで工夫して演じています」
太田基裕 87年東京生まれ。ミュージカル『テニスの王子様』『弱虫ペダル』等の2.5次元ミュージカルで活躍する一方、『ジャージー・ボーイズ』『スカーレット・ピンパーネル』『手紙』と一般のミュージカルや映画、テレビドラマ等で幅広く活躍。6月開幕の『黒子のバスケ』にも出演予定。
――まずは一般のミュージカルと2.5次元ミュージカルがどう違うのか、演じる立場から教えていただけますでしょうか?
「僕の立場では、それほどの違いは感じませんね。ミュージカル『テニスの王子様』で舞台デビューして以来、2.5次元ミュージカルが多かったので、昨年『ジャージー・ボーイズ』『スカーレット・ピンパーネル』と一般のミュージカルに出させていただいて、逆に一般のミュージカルはどう違うのだろうと不安があったのですが、実際にやってみると、それほど違うものではないことが分かって安心しました。もちろん、稽古期間が一般のミュージカルでは歌稽古2,3週間の後に本稽古が1か月あるところを、2.5次元は1か月で凝縮してやったり、2.5次元ではそれぞれ、原作のキャラクターがあるのでそれに寄せて演じたり、ヘアメイクにたっぷり時間をかける(本作では俳優自身ではなく専任のヘアメイクが担当)というお約束があったりしますが、物語やキャラクター(登場人物)の心をしっかり伝えるという、ベースの部分は同じなんです」
――ヘアメイクや衣裳の力を借りるとしても、“キャラクターに寄せる”というのは大変な作業なのでは?
ミュージカル『刀剣乱舞 ~三百年(みほとせ)の子守唄~』より。(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
「外見的に徹底的にこだわって寄せる方もいますし、ゲームと同じ声を出される方もいますね。僕の演じる千子村正というキャラクターは、ゲームではたくましい筋肉質な体格で、時間的にこの体を作るのは無理だと思ったので(笑)、今回は“妖刀”という設定を手掛かりに、自分なりの工夫を加えていきました。演じる役をお客様に愛してもらいたいので、キャラクターの持っている要素をどうふくらませて表現しようかと、公演中も日々、試行錯誤しています。初日からどんどん変わっている部分もありますね」
――本作は“刀剣”の物語ということで立ち回りが見どころですが、キャラクターごとに、例えば神道の宮司の所作を取り入れた動きなど、殺陣も個性が異なるのが面白いですね。
ミュージカル『刀剣乱舞 ~三百年(みほとせ)の子守唄~』より。(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
「そうなんです、キャラクターの背景に合わせて、殺陣の先生がそれぞれに合う立ち回りを考えてくださいましたが、僕はあまり立ち回り経験が無かったので最初は大変でした。間違えると危険ですから、気も抜けませんしね(笑)。僕の演じる千子村正という刀は“妖刀”という設定なのですが、それを表現するために最近、こだわっているのが指づかい。以前、(『ジャージー・ボーイズ』演出家の)藤田俊太郎さんからうかがったのですが、藤田さんの師匠の蜷川幸雄さんは、シェイクスピア劇の演出で、俳優の指の形や動きに非常にこだわっておられたそうです。人間の神経が最も集中するのが指先だ、と。僕も刀をさばきながらちょっとした指の形や動きで“妖しさ”を表現できれば、と毎日いろいろなことを試していますね)」
――最近は太田さんはもとより、2.5次元ミュージカルから一般のミュージカルに進出される方もたくさんいらっしゃいますね。
ミュージカル『刀剣乱舞 ~三百年(みほとせ)の子守唄~』より。(C)Marino Matsushima
「スタンスは皆、それぞれだと思います。2.5次元の世界でトップを目指している方もいれば、一般のミュージカルや映像に興味のある方もいるかもしれません。僕はあまり決め込まず、一つ一つ、楽しそうな作品に参加させていただきながら自分を磨いて、最終的にどこに辿り着けるのか、自分でも楽しみにしていたいと思っています」
――ミュージカル・ファンの中には“2.5次元”にちょっと興味があるけどなかなか踏み出せない!という方も多いかと思います。
「あまり先入観を持たず、まずは気軽にいらしてください。御覧になってみると気になるキャラクター、気になる俳優さんがいらっしゃるかもしれないし、本作のように後半がショー形式になっていて、ペンライトを振って楽しめるものもあります。先日、『手紙』でご一緒した女優さんが観にきてくださったのだけど、“2.5次元って初めてだったけどすごく新鮮で面白かった”と楽しんでいただけたようでした。動画配信等のチャンスもありますが、僕としてはまずは生の舞台を御覧いただきたいです。ライブは全然違いますよ!」
*公演情報*
ミュージカル『刀剣乱舞』 ~三百年の子守唄~ 4月14~23日=AiiA 2.5 Theater Tokyo、5月19~21日=珠海大劇院(中国・珠海)