食と健康

ベジタリアン・ヴィーガンの子供は健康か?栄養面で注意すべきこと

【管理栄養士が解説】ヴィーガン、ベジタリアンなど菜食主義の食事は生活習慣病予防に効果があると言われています。一方で、食べ物を自分の意志では選べない小さい子どもの食生活としては注意が必要です。栄養上の影響と問題について解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

菜食主義の種類……ベジタリアン・ヴィーガンの違い、その他の菜食主義も

ベジタリアン・菜食主義と子供の栄養状態の注意点

健康になりたいと始めたはずの「ベジタリアン」で逆に健康を害している人がいるようです。「野菜を食べる」ことはよいことですがそれだけでは栄養は足りません。


<目次>
最近は「健康ブーム」も手伝い、ベジタリアンの方も増えているようです。ベジタリアンは日本語で「菜食主義者」のこと。こう聞くと、野菜だけを食べているような印象を受けますが、ベジタリアンにもさまざまな種類があります。

■ヴィーガン(純菜食)
米、パン、麺などの穀類や豆、野菜などの植物性食品のみを食べます。肉、魚、卵、乳類などの動物性食品はまったく食べません。

■ラクト・ベジタリアン
植物性食品に加えて、牛乳、乳製品(チーズ、ヨーグルトなど)は食べます。肉、魚、卵は食べません。

■ラクト・オボ・ベジタリアン
植物性食品、牛乳、乳製品と卵は食べます。肉と魚は食べません。欧米のベジタリアンの多くは「ラクト・オボ・ベジタリアン」です。

■ペスコ・ベジタリアン
植物性食品、牛乳、乳製品、卵、魚を食べます。肉を食べません。牛乳、乳製品、卵は食べない人たちもいます。

■ボーヨー・ベジタリアン
植物性食品、牛乳、乳製品、卵、魚、鶏肉は食べます。牛肉、豚肉を食べません。

このうち、「ペスコ・ベジタリアン」「ボーヨー・ベジタリアン」は国際ベジタリアン連合でベジタリアンと認められていません。栄養的な観点から見てもこの2つは「好き嫌い」として対応できる範囲。さほど大きな問題は起こらないと思って構いません。

欧米に多い「ラクト・オボ・ベジタリアン」や「ラクト・ベジタリアン」に関しても、上手に食材や料理を選べば、そこまでの大きな問題にはならないと思います。

ただし、「ビーガン」と呼ばれる植物性食品しか口にしないタイプで行う場合には、栄養についてそうとうしっかり考えて実践する必要がありそうです。
 

子どもへのベジタリアン強制は虐待?

大人が自身の良心に従ってベジタリアンを実践している分には、健康を害さない限り、周りがとやかく言うことではないのかもしれません。しかし、食事を自由に選べない子どもたちへの影響は大きいものがあります。

たとえば、2016年8月、イタリアで親による子どもへのビーガン強制を禁止する法案が提出されました。法案を提出したのは保守政党フォルツァ・イタリアのエルヴィーラ・サヴィーノ議員。イタリア国内で親にビーガンを強制された子どもが病院に運ばれた事件が大きく報道されていたことを受け「発育途中の子どもがビーガンになると、鉄、亜鉛、ビタミンB12、ビタミンDなどの不足を招き、その結果神経系の病気や貧血症になる恐れがある」と指摘。法律を提出したというのです。このような法案が提出される段階でイタリアの食卓に異変が起きていることは間違いないでしょう。
 

子どもの成長に必要な栄養とその役割

子どもには栄養バランスのよい食事が大切です。子どもの栄養を考える際に大切になるのは「成長途中」であるということ。成長にとくに必要な栄養素は、
  • たんぱく質 (筋肉や血液等、体をつくる主原料)
  • カルシウム (骨や歯の主原料)
  • 炭水化物 (筋肉や脳の活動源)
  • ビタミン (栄養素が上手に身体に取り込まれるための潤滑油になる、免疫力が上がる)
  • 鉄、マグネシウムなどのミネラル (筋肉や血液をつくる)
などが挙げられます。

専門家向けにはなりますが、詳細は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」に、各年齢で必要な栄養素の量が記されています。

一般向けには「乳児・幼児・子供の栄養管理」リスト内の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧下さい。
 

菜食主義では不足してしまう子どもの成長に必要な栄養素

ここまで、子どもの栄養について復習して、気づいたことはないでしょうか。

そうです。「たんぱく質」「カルシウム」は植物性食品からは摂りづらいのです。私たちは「たんぱく質」「カルシウム」の多くを肉、魚などの動物性食品から摂取しています。もちろん、大豆などにたんぱく質は多く含まれているので、植物性食品からたんぱく質を摂ることはできます。しかし、毎食「豆腐」「大豆の煮物」ばかりでは子どもの肉や魚の味を知る機会を奪うことになります。食べなれない食材は「食べず嫌い」につながりやすく、成人後の生活に悪影響を与えることもあります。

すなわち、成長に必要な栄養素を動物性食品に依存しているといっても過言ではないのです。正直に言うと、動物性食品を使ったとしても1食ですべての栄養素が満遍なくそろうメニューは、プロの栄養士であっても作ることができません。そのためにも、さまざまなメニューを組み込んで、いろいろな食材を食べることが推奨されるのです。

このように、食材にしばりを設けていない状態でも栄養のバランスをとることがたいへんなのに、「植物性食品以外はNG」などと、不利な条件をわざわざ付け加える必要があるのでしょうか。大人であれば自己判断でというところかもしれませんが、自分で判断ができない子どもにとっては生死を分ける問題と言っても過言ではないようにも感じます。

とはいえ、親はビーガンなので子どものためだけに肉を焼いて食べさせるのも好き嫌いを助長してしまいかねません。宗教的なものや信念もあるかとは思いますが、上手に折り合いをつけて、子どもが栄養不足にならないよう工夫してください。

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