圧倒的な美声が響きわたり、
繊細な表現が観る者の心を掴む
『オペラ座の怪人』稽古場レポート
『オペラ座の怪人』稽古より、歌手としてデビューしたクリスティーヌが幼馴染であることにラウル子爵が気づくシーン。(C)Marino Matsushima
25日の初日まで残すところ2週間あまりとなった2017年3月10日、『オペラ座の怪人』横浜公演稽古取材会が行われました。あざみ野の稽古場に赴くと、キャストが列を作り、順番にサウンドチェック。ご自身の台詞や歌を一節ずつ発し、マイクがきちんと音を拾っているか、確認しています。つい最近、劇団四季のあの演目、この演目でお見掛けしたばかりのキャストも少なくなく、改めて皆さんの引き出しの多さを実感。
『オペラ座の怪人』稽古前に自然に列をなし、お一人ずつサウンドチェック。(C)Marino Matsushima
吉田社長のご挨拶に続いて本公演のスーパーバイザー、北澤裕輔さんの進行により、まずは第一幕第一場“シャリュモー作歌劇『ハンニバル』リハーサル”のシーンがスタート。本格的オペラの世界に観客を誘いつつ、劇場の新しいオーナーを現在のオーナーが迎え入れるという設定で、本作の主要な登場人物を8分ほどで手際よく紹介してゆく、巧みな幕開けです。オペラ座で上演されるオペラの稽古とあって、当然ながら出演者は劇団きっての美声揃い。目の前に立ったアンサンブルの方の揺るぎない声に、カメラを構えるこちらは圧倒される思いです。
『オペラ座の怪人』稽古より冒頭の劇中オペラ「ハンニバル」。間近で見ると生首はかなり怖い。(C)Marino Matsushima
続いては主役の歌手カルロッタが降板すると言って去り、代役に推薦されたクリスティーヌがはじめおずおずと、そして次第に自信を持って歌う「スィンク・オブ・ミー」。昨年は『ウエストサイド物語』マリア役で美しいソプラノを聴かせてくれた山本紗衣さんが、可憐に、抜群の安定感で歌声を披露します。最後の超・高音は幅広のしっかりとした美声で聞かせ、この方、相当喉が強い!と感嘆。後半、実際の舞台シーンへと繋がってゆくと、ボックス席で観ている設定のラウル子爵役の席には昨年、トニー役を演じていた神永東吾さんが座り、一瞬『ウエストサイド物語』の世界がよぎります。
『オペラ座の怪人』稽古をまとめるスーパーバイザーの北澤裕輔さん。(C)Marino Matsushima
そしていよいよファントムが登場する第二幕第七場『ドン・ファンの勝利』から、「ザ・ポイント・オブ・ノーリターン」。劇場に現れるだろうファントムを捕獲しようと劇場側の人々が罠を張り巡らせるなかで、大胆にも主演歌手に変装したファントムがヒロインを演じるクリスティーヌに迫るというスリリングなシーンです。ファントム役・佐野正幸さんの艶やかで力強い低音と“夢見る少女”から今や覚醒したクリスティーヌの声が、劇中オペラを通して絡み合う様は本番さながらの迫力。今回は稽古ということでマスク無しのファントムの表情を初めて観ることができたのですが、後半の佐野さんはクリスティーヌへの愛の告白を前にしてふと戸惑い、強引さを取り戻し、クリスティーヌのリアクションに大きく傷つく過程を繊細に表現。この細やかさがあればこそ、マスクに隠されていても観客はファントムに感情移入せずにはいられないのだ、と納得出来ました。
『オペラ座の怪人』稽古では指揮者がずっと指揮棒を振っています。(C)Marino Matsushima
その後、「予定にはありませんでしたが」と北澤さんが『ハンニバル』の台詞部分をやりましょうと言うとカンパニーは迅速に対応、カルロッタの歌唱中に皆が怪人の気配を感じ、パニックが起こるくだりが演じられます。北澤さんは始終柔らかな敬語調ながら“もっと良くなる”ための指摘を各役に的確に送り、メンバーたちも即座に反応。見る見るうちに細部が磨き上げられてゆく様子に、本番では一点の曇りもない『オペラ座の怪人』の決定版を見せてくれるのでは、と期待がいや増したのでした。
*次頁でファントム役・佐野正幸さん、クリスティーヌ役・山本紗衣さん合同インタビューをお届けします!