二度の二世帯同居で経験した煩わしさ
私の実家は福岡市にあり、幾度か転居しましたが大学時代に上京するまでずっと市内に住んでいました。二世帯同居の一度目は小学生の途中まで父方の祖父母と、中学生からは母方の祖父母とです。どちらも介護の必要性や収入の問題などがあってのことでした。一度目は土間がある普通の古い住宅。お風呂がなく、毎日銭湯に通っていたこと、おじいちゃんが花屋さんをしていたということが、幼い頃の思い出として残っています。そして、二度目の住まいは二世帯住宅のはしりといえるものでした。
二度も二世帯同居を経験する家族というのはなかなかまれではないでしょうか。で、その生活の中で、私の家族は介護だけではなく、嫁姑問題などにも直面しました。当然その中には煩わしい家族関係がありました。
ですから、母は感情的、ヒステリー気味に私と弟に愚痴をこぼしたり、八つ当たりをしていたものでした。父はサラリーマンで息抜きをすることができましたが、母は専業主婦でしたからそうした機会に恵まれなかったからだと思います。
ちなみに、母は2010年に他界した父と犬も含め、断続的ではありますが、30年ほどにわたり介護生活を送ってきました。介護制度が今ほど整っていない時代からずっと介護を経験してきたというのはすごいことで、そうした意味で私は母を尊敬しています。
ただ、そんな同居生活の経験は、子ども(私と弟)に良い影響を与えなかったのではないかと、私個人としては感じています。というのも、今に至り私は離婚してその後独身生活を続けていますし、弟は42歳になりますが、未だ独身生活を謳歌しています。
結果的に、息子二人が何とも親不孝な人物に成長してしまったというわけです。同居生活の中で窮屈さを感じ、家族を持つより一人でいることの自由さ、気楽さの方が貴重に感じるようになってしまったと思われます。
人格形成、結婚観や女性観にも影響!?
少なくとも、確実に私の人嫌い的でひん曲がった性格の形成にはつながっていると思いますし、また「ヒステリックな人と一緒に暮らすのは絶対イヤ」などという、結婚観・女性観にも影響しているはずです。まあ、こんなことを母に面と向かって言うとはできませんが。えらいことになってしまいますから。二度目の二世帯同居をした住宅は、玄関と浴室を共有するスタイルだった。浴室は1階にあったが、祖父母夫婦の寝室に至る動線上にあり、受験勉強で遅くに帰宅していた私と生活時間の違いから、よく文句を言われていた(写真はイメージ。こんなに良いお風呂ではありませんでした)
これもちなみにですが、弟は今、実家から数分のところに住む、いわゆる「近居」の状態で、時々様子を見に行ってくれますから、母の一人暮らしが許されるのだと思います。
かつて感情的になることが多かった母が、最近は打って変わって穏やかになっているのを見て、「それだったらいいんじゃない」とみています。近所の同年代の方々を自宅に招いて楽しく生活しているみたいです。
話は大きくそれましたが、このような経験をした私は、少なくとも二度目の二世帯同居がもっとより良い環境だったなら、田中家の今は違ったかたちになっていたのではないか、と改めて考えるのです。
つまり、母が介護にあまり疲れないですむような住環境だったり、父や親、子どもたちと適当な距離感を保てるような設計上の工夫がある住環境であったなら、母はもちろん、私たち子どもももっと幸せな暮らしができていたのではないかと思うのです。
住まいというのは、それくらい人の人生や人格形成に影響するもの。ですから、もしこれから二世帯、あるいは多世帯の居住を考えている方は、是非ともそうしたノウハウをしっかりと生かした住まいづくりを行っていただきたいと強く思うのです。
独立型の二世帯同居と一体型の二世帯同居
さて、二世帯住宅という言葉が誕生したのは1975年のこと。旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)が最初に使い始めました。それ以来、40年ほどが経過しましたが、同社だけでなく様々なハウスメーカー、住宅事業者がこの居住スタイルで商品開発や提案を行いながら、ノウハウを蓄積してきました。それらの中にはインターネットなどで公開されているものもありますから、参考にしたいものです。例えば、その旭化成ホームズですが、同社の二世帯住宅研究所による調査結果が先日発表されました。それが皆さんのこれからの住まいづくりに役立つと思われますので以下で少し紹介します。「独立二世帯住宅のくらしとは」という内容です。
独立二世帯住宅というのは、親世帯と子世帯のそれぞれに玄関と水回り空間(キッチン、浴室、トイレなど)が設けられ、生活空間を分けて暮らす居住スタイルのこと。調査では、玄関・水回り空間を共有する「一体同居住宅」と比較しています。田中家の二度目の二世帯同居は、後者の方に属します。
それによると、独立二世帯住宅の同居に対する満足度は93.6%となり、一体同居住宅(71.3%)を上回っていたとのこと。その理由は、親・子世帯の距離感にあるようです。独立二世帯住宅では、「母・義母とよく話をする」 が73.2%、「気軽に子供の世話を頼める」が77.1%にとなっており、そこからは親・子世帯間の良好な関係が見えてきます。
一体同居住宅で暮らす人の87.3%が「同じ家に住んでいる感覚」を持っているのに対し、独立二世帯住宅で暮らす人は70.1%が「別々の家に住んでいる感覚」を持っているともいいます。
一体同居住宅は、毎日一緒に夕食をとるの暮らしのスタイルです。一方、別々の家という感覚で暮らす独立二世帯住宅では、「日常の夕食」を一緒に食べる頻度は72.1%が「月1日以下」となっています。
このことから、誕生日やクリスマスといったイベントについては、両世帯が集まって交流を楽しむなど、独立二世帯住宅の生活をしている人たちは、ケースバイケースで集まることで同居の暮らしを楽しんでいるという実態がうかがえます。
40年以上にわたり積み上がった知見を生かそう!
同居というと、一般的に両世帯、あるいは片方の世帯がもう片方の世帯に依存するという印象がありますが、独立二世帯住宅ではそんな感じではないようです。親世帯が子世帯に「家事」を頼る割合は1.9%、「経済的」にも3.8%と低いとのことです。さて、このような調査結果を見て、私は思うわけです。両親や祖父母がこんな情報を知っていたら、あるいは住宅を建てた工務店の人たちが二世帯同居のノウハウに通じていたら、どんなに良かっただろうと。
二度目の二世帯同居をしたのは1980年代の半ばでしたから、まだ二世帯住宅のノウハウがまだあまりなかった時代です。致し方ないことですが、田中家は両世帯が必要以上にベッタリとした関係の中で生活しストレスを感じざるをえない住まいとなってしまったのです。例えば、母は毎日、朝昼晩と家族全員の食事など家事全般を行っていました。
かたや現在はそうならなくするためのノウハウが数多く存在するわけです。二世帯同居の知見を皆さんは活用できる環境にあるわけですし、できるだけ活用すべきなのです。
ただ、この調査はあくまで独立二世帯住宅の視点で構成されているだけで、絶対に独立二世帯住宅にすべきというわけではありません。家族にはその数だけライフスタイルや関係性、想いがありますし、敷地の状況や予算など条件は様々です。
また二世帯同居には動線や生活音、プライバシーなどの問題も重要です。住宅展示場の二世帯仕様のモデルハウスなども参考にしながら、より良いあり方を慎重にあり方を模索するべきでしょう。
ところで、こうも考えるわけです。仮に私が再婚して二世帯同居をすることになったら三度目となるわけです。それもまたすごいことではないでしょうか。全くそんな兆しはありませんが……。