駅から車で2時間。初来訪の地に移住。M・Jさん(静岡県浜松市S町)
Mさんの自宅があるのはこんな山と川のある町
初めて遊びに行った、浜松駅から車だと2時間ほどもかかる、たいていの人は読めないだろう町の一軒家に一人で住んでいる独身男性がいる。とはいえ、日常的には日本全国を飛び回り、自宅に帰るのは月に3回くらいというM・Jさんだ。
仕事の手応えを求めて転職、引っ越し
Mさんは現在、モノ作りの調整役とでもいうような仕事をしている。「最近の商品は多様な専門性が求められます。たとえば、プラスチックで作った箱の中にソフトが入っていて、それがパソコンと繋がるとしたら、箱にも、ソフトにも、パソコンとの連携にもそれぞれに専門家が要りますが、ひとつの会社で全部やるのは難しい。私達の仕事は必要に応じて人を集めてクライアントの課題を解決すること。日本各地の専門家とプロジェクトごとにチームを組んで仕事をしています」。
以前は2年間コンサルタント会社におり、仕事は朝7時から夜3時というハードさ。加えてタスクは降ってくるだけで、やることはエクセルの表をいかにきれいに整えるかとおいうこと。給料はそれなりに高かったが、全体像の見えない末端の仕事であり、仕事をやっているという感覚がおかしくなりそうだったとMさん。
S町の様子。一度の来訪で居住を決めるかと言われると、う~ん、人によるのだろう
「やっていることの手触りが感じられない仕事はツライし、人が決めたことを同じように続けるのは生理的にダメ。逆に自分で物事を決めて結果を出していくのが好き。そんな時、以前からブログで気になっていた人が一緒に働く人を募集していた。すぐに連絡を取り、その人が住んでいるS町に移住することを決めました」。
パソコンと自由を使いこなすということ
そのS町は浜松市からだと車で2時間。ただ、車利用にすると仕事ができないため、実際には豊橋から飯田線を利用、1時間半かかるそうである。豊橋から東京はやはり1時間半なので、計3時間。それほど遠くもない気がするが、乗換に20分、本数が少ないなどの理由もあり、月に15日はあちこちのホテル暮らし。帰宅は月に3回くらいで、その折には4日くらい滞在しているという。旅の空の下で仕事をし、自宅ではのんびりという暮らしというわけで「パソコンさえあれば仕事ができる」を地で行っており、それができればどこであろうと好きなところに住めるわけだ。ただ、ここで付け加えておきたいのは物理的にはパソコンさえあれば仕事ができる状況にいる人は少なくないものの、それが実際にできる人は多くないということ。「会社内にいると場所的な制約以上に他に人がいることで強制力が働く。でも、在宅で、あるいは外の好きな場所で仕事をするとなると、自分でルールを作ってそれに従って仕事ができる人でないと、成果は挙げられない。自由はそれを使いこなせる人でないと意味がないんだと日々反省しています」。
誰も見ていなくても自分でスケジュールをたて、自律的に働く。言葉で言えば簡単だが、世の中にはそれができない人もいる。その意味では働き方と同時に、その人の性格、職業観などがこうした働き方、暮らし方、好きなところに住むという選択が可能かどうかを左右してもいるのだろう。
住まいが不便な場所にある分、効率化も
人の数が少ないことのメリットは他にも聞いた。東京は人間が多すぎるということか
天竜川の支流沿いにあるS町は谷あいにあり、言い方は悪いが浜松市でも僻地。そのためか、逆に市内でS町に住んでいると言うと、エッジが効いている人と思われるとMさん。
「変わっていると思われるのか、珍しがって人を紹介されること多いです。東京の仕事でも遠い場所に住んでいるからと、スケジュールを合わせてもらえることが多く、東京に住んでいないが故の希少性はあるのかなと。自分としては移動に時間を取られるので、逆に使える時間にはより集中するようになりました。最近では新幹線内でもコンセントのある席を取れば仕事できますしね」
一緒に働く人とのスカイプやFacebook等のコミュニケーションツールを利用しているが、要所要所では直接会うことも大事にしているとも。要はメリハリということだろうか。ツールだけでもない、リアルだけでもない付き合いは可能というわけである。
働き方と住む場所、暮らし方は本来リンクしているものだと思うが、これまでは働き方にそれほどのバリエーションがなく、住む場所、暮らし方もそこからおのずと決まるもののように思われていた。だが、働き方が多様化している今、住む場所、暮らし方の選択ももっと多様になって良い。Mさんはそうした好例ではないかと思っている。
【まとめ】なぜ東京に住んでいるのか、考え直してみるのも面白い
今回は1年前に見かけた「東京を捨てようと思う」という呟きに触発され、東京以外に住むことを選んだ人たち5組を取材した。どれが、どこが良い、悪いではなく、いろいろな考え方があることがお伝えできていれば幸いである。そして、翻って、今東京に住んでいる人は、どうしてここで働き、住むことを選択したのか。実際にはそれほど考えて選択したわけではなく、なんとなく東京という人も少なくないはずで、だとしたら、今の選択、それ以外にあるかもしれない選択をちょっと立ち止まって考えてみても面白いのではないかと思う。また、今回は単身者中心だったので、機会があればファミリー、シニア層の声を集めてみたいと思っている。
■その他の脱東京事例はこちら
東京を手放して無人島へ。村上健太さん(愛媛県松山市)
「吉祥寺に住みたい」と「石巻に住みたい」は同じ。天野美紀さん(宮城県石巻市)
どこでもできる仕事だから、ペルー時々長野。柏木珠希さん(長野県)
海を楽しむ週末移住から起業、完全移住。河瀬豊さん、愛美さん(静岡県熱海市)