なぜ分譲住宅が住まいづくりの参考になるのか?
分譲住宅を参考にする際のポイントを紹介する前に、その前提として住宅展示場などのモデルハウスについて少し述べておきます。モデルハウスというのは、ものにもよりますが大抵は建物の規模が大きく、必要以上に豪華に見えるのが一般的です。東京都台東区にある住友林業による4階建ての分譲住宅。しばらくモデルハウスとして活用された後、販売されるもので、内部は狭小敷地に建つ建物としてリアルサイズの提案で満ちあふれている(クリックすると拡大します)
その一方で、分譲住宅は現実的な規模の建物であることが一般的。それは販売することを目的とするという大前提があるからです。このため、モデルハウスに比べて、住まい手にとってリアルな設えであることがほとんどです。
また、違う見方をすると、分譲住宅にこそハウスメーカーの住まいづくりに関する実力やモノの考え方がわかりやすく反映されているといえます。例えば、わかりやすい例をあげると階段があります。
傾斜が緩やかで、手すりや踊り場が設けられている分譲住宅なら、注文住宅であっても同じような設えになるはず。また、2階以上にあるトイレにも、トイレットペーパーを収納できるスペースがあると、その分譲住宅を供給するハウスメーカーは住まい手の暮らしをしっかりと考えていると、考えられます。
安さが魅力の一般的な分譲住宅の場合、ないことがほとんどなのです。用を足していてトイレットペーパーが切れていたら不便この上ないですよね。ない場合は、そうした生活の困りごとに無頓着なハウスメーカーが建てた分譲住宅である場合が多いのです。
家族の居場所、友人やご近所との交流が楽しめる間取り
というわけで、以下で分譲住宅の間取りの工夫を中心に、参考にすべきポイントをご紹介していきます。まず最初に紹介するのは、トヨタホームとミサワホームが共同で開発している「7 DAYS VILLA(セブンデイズヴィラ)」という千葉県印西市で開発中の分譲住宅地の建物です。【写真1】はミサワホームによる建物のLDK。手前にLDKより一段高いスペースが設けられています。スタジオのようなLDK全体が見渡せる気持ちの良い空間です。ここには親がパソコンの作業や家計簿付け、子どもが宿題など多目的に活用できるデスクが設けられています。
このようなスペースがあることでLDKに家族の居場所が増えます。ちなみに、このスペースは階段の途中にあるのですが、階段の傾斜が急にならないように安全性を高める工夫ともなっています。
【写真2】は同じ建物の2階の様子。主寝室から撮影したものですが、奥にウォークインクローゼット、その奥には子ども部屋があります。なぜ、このような間取りにしているのか、皆さんには分かりますか。
このようにウォークインクローゼットを配置することで、家族の衣類などを一ヵ所にしまうことができ、主婦の家事時間を短縮することができます。そんなより良い暮らしを実現するための気づきをこの分譲住宅の中から発見できるわけです。
【写真3】はトヨタホームの建物。ダイニングに続く、テラスにアーデンチェアとデスクが設けられていることに注目してください。子の建物の中にはリビングがあるのですが、このテラスも第二のリビングとして活用できるようになっているわけです。
天気の良い日には、ここで家族で食事をしても良いですし、ご近所の方々と集まってお茶を楽しむなどといった活用のあり方も考えられます。実はこのような空間づくりの実例は、展示場のモデルハウスでもよく見られますが、こちらの方がよりリアリティを感じられるはずです。
家事動線・時間を短縮する主婦に優しい設計の事例
今度は場所を変えて、アキュラホームと中央住宅(ポラスグループ)、高砂建設が開発している「浦和美園E-フォレスト」(さいたま市緑区)という分譲住宅地の中から、注文住宅にも参考になる事例を紹介します。ちなみにこの分譲住宅地は、さいたま市が浦和美園地区で推進するまちづくりプロジェクト「スマートホームコミュニティ整備事業)」に参加しているもので、埼玉県住まいづくり協議会に加入する上記3社のハウスメーカーが開発しています。
【写真4】はこのうちアキュラホームによる建物の内部です。脱衣所から浴室までを撮影した1枚ですが、脱衣所に洗面化粧台や下着などを収納できる棚に加え、室内干しができる設えがあることが分かります。
雨の日でも室内干しができればありがたいですし、何より洗濯に関する一連の行為、洗う→干す→しまう、などという行為のほとんどを一ヵ所でできるようになっているわけです。主婦にとっては家事時間の短縮が期待できるのではないでしょうか。
この脱衣所・浴室は、キッチンスペースの背後にあり、動線も短くなっています。ということは、食事の用意と洗濯関連の作業をほぼ全てコンパクトな動線の中でできるということになります。このような家事時間・動線を短くする主婦の使い勝手に配慮した設計の実例をリアルサイズの中で確認できるのも、分譲住宅ならではの魅力です。
最期に、同じ分譲地で開発中の中央住宅の建物【写真5】をご紹介します。こちらにも前述したミサワホームの建物のように、LDKに段差を設けたスペースが設えられています。そこにはデスクが用意され、同じような活用法が期待できます。
違うのはある程度大きめのスペースになっており、タタミスペースとなっていることで、幼い子どもの遊び場にもなるよう配慮されています。壁際の棚にはオモチャや絵本などをたくさん収納できそうです。
注目していただきたいもう一つのポイントは、段差が階段2段分であること。この段差は座ることも想定されていおり、家族はもちろんのこと、友人やご近所さんを招いてパーティなどの集まりを行う際に彼らの居場所となります。
一般的なプランの建物では、ソファやダイニングテーブルが居場所に集中しがちになるわけですが、それ以外にも居場所ができるというわけです。人を招くことが好きな方の場合、このような設計の住まいだと住まいの満足度が高くなるはずです。
今回ご紹介したのは、分譲住宅の中で注文住宅を検討する方にとって参考になるものの一部に過ぎません。色々な分譲住宅に足を運び、歩いてみて、素材を肌で感じて、設備も実際に使ってみることで、皆さんの住まいづくりのアイデアや発想の幅が大きく広げることができるはずです。
また、ハウスメーカーにはモデルハウスや分譲住宅のほかに、施工現場見学会や工場見学会などといった見学すべき場所や機会を用意している場合があります。そうしたものを見学、体験すること自体も住まいづくりの満足度を高める要素になりますから、興味がある方はぜひ参加されてみてください。