“青柳商店の清”から“王道・二枚目のロミオ”へ
大野拓朗 88年東京都出身。10年『キャンパスター★H50』でグランプリを受賞し、映画『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』で俳優デビュー。NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』、情報バラエティ『Let's天才てれびくん』のメインMC等で活躍中。主な出演作に、大河ドラマ「花燃ゆ」、終戦記念ドラマ『ラストアタック~引き裂かれた島の記憶』主演、ミュージカル『エリザベート』、舞台『ヴェニスの商人』などがある。(C)Marino Matsushima
NHK朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』前半で、ヒロイン一家が転がり込む製材問屋「青柳商店」の跡取り息子、清を演じたのが大野拓朗さん。ヒロインをときめかせるほどの容姿ながら、自慢癖や気障な態度でドン引きさせてしまう……それでもどこか憎めず、最後には人間的な成長を見せる青年を演じ、注目を集めました。
その彼が17年1~3月、人気ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』にロミオ役で出演。“世界で最も有名なラブストーリー”のシェイクスピア戯曲を現代的感性で“ライヴ・ショー”化したフレンチ・ミュージカルで、日本版は演劇性豊かな演出(小池修一郎さん)が特色です。10年の初演以来、若手俳優の登竜門として上演の度にセンセーションを巻き起こし、今回が3回目の上演。オーディションで大野さんはじめ、ほとんどが今回初出演というフレッシュなキャストが選ばれました。
12年の『エリザベート』でミュージカルに初出演した大野さんは、実は大のミュージカル・ファン。9月5日に行われた製作発表記者会見では熱のこもった歌声を聞かせるだけでなく、「この4年間、毎日『ロミオ&ジュリエット』を夢見てきました」と熱烈な“はまりっぷり”を語り、取材陣&オーディエンスを驚かせました。大好きだからこそ、中途半端には取り組みたくなかったというミュージカルへの、満を持しての再挑戦。その意欲のほどをうかがいましょう!
“喜怒哀楽”が凝縮された、壮絶なミュージカル
製作発表でロミオのナンバーを熱唱する大野さん。(C)Marino Matsushima
「有難うございます!」
――“世界で一番好きなミュージカル”とおっしゃっていましたが、それほどまでに愛する理由は?
「初めて観た時に、僕の感性にびびっと合ったんです。涙あり幸せあり喜び、哀しみと全てが詰め込まれた物語で、『世界の王』というアップテンポのナンバーは爽快で物凄く盛り上がるし、ロミオとジュリエットが結ばれるシーンでは物凄く幸せを感じる。喜怒哀楽が凝縮された壮絶な世界観が、とても分かりやすく伝わってくるのが魅力ですよね。
衣裳や舞台美術、音楽も素敵で、特に音楽の魅力は大きかったです。例えば“好きだなあ、このミュージカル”と思って観ていても、全てが好みの曲ではなかったりするものですが、その点、『ロミオ&ジュリエット』はクラシカルというより、フレンチ・ロックが主体の若い層になじみやすい音楽で、全曲が好き。この作品に出会った時、これは凄いことだと思いました。聴いていて耳心地がいいし、4年前に『エリザベート』に出演後、一日も欠かさず……例えば地方にロケに行く時にも車の中でずっと……好きで歌い続けていたんですが、それでも全く飽きなかったんです。今もレッスンしていてすごく楽しいし、もっと上手くもなりたい。この作品に出会えたことに、幸せを感じています」
――様々なミュージカルにも触れて来た中でも、本作は別格だったのですか?
製作発表にて。(C)Marino Matsushima
なんでもないシーンで、泣けてくるんですよ。最初にはまった作品が(市村さんがゲイクラブのスターを演じる)『ラ・カージュ・オ・フォール』なのですが、レストランで主人公たちが席について、楽しそうに歌ってるシーン、あの光景がとても生き生きとして楽しそうで。なんて幸せな空間なんだろう、エンターテインメントってこういうことなんだな、と思った瞬間に涙が出てきました。ミュージカルって一言でいえば“日常を忘れられる空間”なんですよね。
そんな中でも『ロミオ&ジュリエット』が僕にとって一番なのは、シェイクスピア戯曲が原作だから、というのもあります。役者をやっているからには、シェイクスピア劇にはやっぱり触れたい。原作の戯曲を読むと、バルコニーでのロミオとジュリエットの逢引のシーンなんて、愛の言葉がとてもおしゃれなんですよね。ミュージカル版では、そういった台詞は歌詞に凝縮されているけど、一つ一つの言葉や行間に、原作の美しさをちりばめて行きたいです」
“妄想系ロマンチスト”の共感ポイントは?
製作発表にて。(C)Marino Matsushima
「そうですね、もともと妄想するのは好きでしたね(笑)。学生時代はめちゃくちゃ奥手で女の子とは話もできなかったけど、“プロポーズはどういうふうにしよう”とか、妄想するのは好きで(笑)。高校時代には、男たちだけで集まって、“恋と愛について語ろう”みたいなこともやっていました。恋とは“砂のお城を作ること”で、愛はそれを“守っていくこと”なんだよな、みたいに。(文学青年というわけではなく)バスケ部の仲間たちでの集まりだったんですけど、進学校だったこともあって、頭で考えるのが好きな連中だったんですよね」
――いろいろな男子が登場する中でロミオ役を選び、オーディションを受けたのは?
「やるからにはロミオに挑戦したいなという思いがずっとありました。まっすぐ、ど真ん中を行きたいですね。原作を読む限りでは、ロミオは“若いな”と感じます。まっすぐで、“バカ”がつくほど純粋なんだな、と。一匹狼っぽい雰囲気もあるけど、それでも周りのみんなに愛されてしまうほど、めちゃくちゃいい奴なんだろうと思います。仲間のベンヴォーリオやマーキューシオも、決して彼を見捨てないですしね」
――その純粋さゆえに、彼は最後には愛に殉じてしまいます。大野さん的には共感できますか?
「恋愛に関してはさておき、役者という仕事に対して僕は同じ気持ちなので、共感できますね。もしもこの仕事を辞めざるを得ない時にはそうなってしまうかもしれない、と思う程、僕は一途にこの仕事を愛しています。役者って、ものすごく楽しい仕事ですよ。“わがままな娘(こ)”でね、一筋縄ではいかないし、理解できて来たかなと思うと、ぷいっとどこかに行っちゃう。一生懸命追っかけています(笑)」
――ご自身の中では、今回どんなテーマをもって取り組もうと思っていらっしゃいますか?
「『エリザベート』以来のミュージカル挑戦です。4年間、いつかまたミュージカルにという思いを抱えながら自主的に稽古を積み、他の作品でも経験を積んできて、その経験値全てをもって、ロミオの熱い5日間をまっすぐ演じられたらいいなと思います。この思いをしっかり表現できるよう、技術もしっかり身に着けていきたいですし、(演出の)小池先生に抜擢していただいたので、本番で120点200点とって恩返ししたい。そして観に来てくださった皆様にも、200パーセント300パーセント楽しんでいただけるような公演にしたいですね。
製作発表では演出・小池修一郎さんから大野さんはじめ、キャストの一人一人に期待の言葉が。(C)Marino Matsushima
そういう探究であったり、考えることが本当に好きなんです。こんなに喜怒哀楽の出せる役をやらせていただけるのが、本当に楽しみですね。公演一回ごとにものすごく消耗するかもしれないけれど、観てくださる方の心にずっと残る作品にしたいので、全力で頑張りたいです!」
*次頁では大野さんの“これまで”をうかがいます。バスケ部で活躍していた大野さんは大学時代、ひょんなことから演劇に遭遇。たちまち魅了され、無心に追いかけ始めたのだそう。