『ロミオ&ジュリエット』観劇レポート第二弾
若者たちの純粋な“暴走”と大人たちの
“憎しみ”が生み出す悲劇
『ロミオ&ジュリエット』撮影:田中亜紀
東京公演も中盤を折り返し、熱気溢れる赤坂ACTシアター。この日は開幕以来、まだ3回目の初日キャストということで、改めてダブルキャストの組み合わせの多様さに驚かされます。またクラシック・バレエ、ストリートダンス、コンテンポラリー等のダンスがかなりの密度でないまぜになりつつも、左右対称など、全体的な構図のバランスが取れた美しい振付を連日こなすダンサーたちの体力にも感嘆させられる中で、前回公演に続くロミオ役の古川雄大さんは、いまや“座長”の風格。冒頭のモンタギュー、キャピュレット両派のいさかいに姿を見せず、仲間たちに探されるのをよそに客席通路から(意表をついてポニーテールの)彼が現れると、場内の不安定な空気が和らぎ、観客たちから一瞬にして物語の“芯”としての信頼を得ていることがうかがえます。そんな彼が、ジュリエットに出会うことで初めて芽生えた感情に揺さぶられ、若さゆえの一途さで突き進む。長身を時に折り曲げ、不器用なまでになりふり構わずジュリエットを愛し抜こうとする姿が、本作の悲劇性を高めています。ジュリエット役の生田絵梨花さんは、少女の可憐さと大人の女性の芯の強さを併せ持つ声が特徴的で、繊細だが強さを秘めた古川さんの歌声との相性が上々。
『ロミオ&ジュリエット』撮影:田中亜紀
ロミオの盟友、ベンヴォーリオ役の馬場徹さんは、歌であれ台詞であれ、言葉をきっぱりと観客に届け、ベンヴォーリオ自身は気づいていないのかもしれない知性を覗かせます。彼がマーキューシオを始めとする若者たちをうまく先導してさえいれば、もしかしたら悲劇は起こらなかったかもしれません。そしてティボルトを挑発し、悲劇の発端となってしまうマーキューシオ役の平間壮一さんは、シャープな動きの中にも社会や自分自身に対するフラストレーションを持て余している風情をうまく漂わせ、シニカルな台詞ばかりを吐いていた彼が死を意識した時にロミオにかけた言葉「ジュリエットを愛し抜け」で、初めて素直な感情を吐露する瞬間が悲痛です。
『ロミオ&ジュリエット』撮影:田中亜紀
敵対するキャピュレット家のティボルト役・渡辺大輔さんは明朗で堂々たる声質。アグレッシブな台詞・ナンバーを発する際にも正義の空気を携え、敵対する二つのグループ双方が自認する己の正当性を感じさせます。また主人公や街の人々の背後に現れ、踊る“死”を初演以来演じている大貫勇輔さんは、鋭くも滑らかな動きにいっそうの磨きが。とりわけロミオが後の運命を予感するナンバー“僕は怖い”で、彼に寄り添い、連動するような“二人で一人”の動きを静謐に、時に空間を切り裂くように踊り、目を奪います。
『ロミオ&ジュリエット』撮影:田中亜紀
また
第一弾レポートで言及が漏れていたパリス役の川久保拓司さんは、見目麗しい外見のお坊ちゃまではあるが、聡明なタイプではないらしいジュリエットの求婚者を嫌味なく表現。本作で唯一“蚊帳の外”におり、両家の対立に巻き込まれていない存在の軽やかさをほどよく演じています。
『ロミオ&ジュリエット』撮影:田中亜紀
いっぽう、若者たちの熱量に劣らぬ声量と表現力でドラマの基盤をしっかりと固めるのがヴェローナ大公役・岸祐二さん、キャピュレット卿・岡幸二郎さんを始めとする大人キャストたち。大人たちは終盤、あまりにも大きな悲劇を目の当たりにし、それを招いた自分たちが“罪びと”であることを自覚、初めて復讐の連鎖から抜け出そうとします。女たちが、男たちが歌い、進み出る、その言葉と行動の重さ。古今東西、今に至っても世界のどこかで争いが絶えない中で、人間は永遠にその“性”から逃れられないのか、希望はあるのか。作り手たちのそんなメッセージが託されているかのような、今回の『ロミオ&ジュリエット』です。