“人類存続の鍵”を求めて絶望と戦う
勇者たちのミュージカル
『ミュージカル バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~』観劇レポート
『ミュージカル バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~』(C)GEKKO
謎のウイルス感染によって“奴ら”(=ゾンビ)が異常発生、人類存亡の危機を迎える中で、人々はわずかな可能性に賭け、抗体を探し求める。記憶を失ったヒロイン、リサは仲間たちを鼓舞し続けるが、訪れた米軍基地で驚愕の真実を知り……。
『ミュージカル バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~』(C)GEKKO
世界的に人気の同名サバイバルホラーゲームを出発点として、人類存亡の危機に立ち向かう人間たちのドラマを丹念に描いた意欲作。半円形状の舞台が物語のスケール感を表し、ストーリー上の重要な要素として「音楽」が登場、“ゲームのミュージカル化”という一見、奇抜なプロジェクトに充分な説得力が与えられています。
『ミュージカル バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~』(C)GEKKO
内容が内容だけに緊迫した場面が多く、聞き逃せばストーリー理解に影響しうる単語もあるため、集中力が試されますが、筆者の観劇日、客席は固唾をのんでことの成り行きを凝視。特に2幕は長尺(85分間)ですが、壤晴彦さん演じる飲んだくれの軍医がつぶやく“人間万能主義批判”が胸に刺さり、人間と或る動物の接触のシーンでは音楽と映像を駆使、幻想的な光景が“人知の及ばぬ奇跡”を確信させます。
『ミュージカル バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~』(C)GEKKO
矛盾をはらみながらも必死に種の存続、そしてあるべき世界を考え、話し合い、そして戦う人間たちを、出演者たちは真摯に熱演。特に主人公役の柚希礼音さんは清々しい立ち姿でストーリーを牽引、時に差し挟まれるダンスシーンでは以前、演出家ハロルド・プリンスが彼女を評して「美しいダンサーだ」と語っていたことが思い出されます。相手役の渡辺大輔さんは落ち着いたたたずまいに医師のインテリジェンスを覗かせ、音楽を“司る”青年役・海宝直人さんも清潔な持ち味と伸びやかな歌声で活躍。前述の壤晴彦さんに圧倒的存在感、“戦闘機マニア”の男役・有川マコトさんは飄々とした演技で作品のユーモア部分を担います。ダンサーのYOSHIEさんが膝から下をぐるぐる回すなど、奇妙な動きを取り入れて行う“奴ら”の表現も効果的。
『ミュージカル バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~』(C)GEKKO
いっぽうではヒロインに思いを寄せる青年役・平間壮一さんが切ない役どころを好演しているだけに、立ち回り等、もう少し見せ場のある役に膨らませてもいいのでは、などという思いもよぎりますが、そんな欲を抱けるのもオリジナル・ミュージカルだからこそ。日本発のユニークなプロジェクトとしてさらなる発展を遂げ、世界的な注目を集めていって欲しいと思えるミュージカルです。