ほぼすべての契約者から飛び出した「質問」とは?
損害を受けた住宅すべてに立ち合い調査が実施される
清水 興味深いですね。どういったことですか?
Iさん 私たちは、お客様の損害が小さな場合でも、ご自宅に伺い損害を確認しています。ご被害の程度を確認したうえで全損、半損、一部損あるいはお支払いに至らない損害のいずれかに認定し、保険金がいくら支払われるかを説明します。
清水 はい、そうでした。
Iさん そこで「半損というと、この家はもうダメってことなのでしょうか?」とか、「一部損というのは、この家は早急に修理が必要ということでしょうか?」などとしばしば聞かれるのです。一部損で壁に少し亀裂があるといった程度でも、安全性を非常に気にかけていらっしゃる方は多かったですね。おそらく居住者の視点から被害を見て、「この家はどうなのか? 住み続けて大丈夫なのか?」と心配していらっしゃるのだと思います。
清水 熊本県内では余震などでの二次災害防止のために自治体が「応急危険度判定」を行い、1万5000件を超える建物が「危険」とされステッカーが貼られましたよね。こういった感覚で判定を聞かれているのかもしれないですね。
Iさん そうですね。損害が生じた家は、車でいうところの「事故車」とか、「傷物」といったイメージを持たれるのかもしれません。ただ、自治体が行った「応急危険度判定」と、損害保険の損害確認は別の観点で行っているものです。そのため、「一部損」などの区分は、保険金の支払額を決めるためのものであり、住宅がダメになっているかどうかを指す基準ではないとお話ししました。
清水 大切な住宅ですから気になりますよ。
Iさん 今回の損害確認で私が同行していた鑑定人は建築士の資格を持つ方でもありました。そのため、鑑定人が「修理の方法にはこんな方法があります」とか「この亀裂で住宅は倒れないですよ」などと、建築の観点からお客様の質問に答えることもでき、お客様がほっと息をつかれたことも多々ありましたよ。
清水 本当に聞きたいことが聞けたということなのでしょうね。
Iさん みなさんが住まいに求めるものは、何よりも「安心」ということなのです。ですから被災した後に、自分の住宅の安全性や修繕の方法について、より具体的に聞きたくなるのが当然だと思います。やはり、誰でも安心して住み続けたいですからね。
清水 なるほど。平時から住宅の安全性に十分に配慮して、そのうえで必要な準備を進めておければ、被災時の心配も減らすことができますね。
分譲マンションの共用部分こそ地震保険が重要
マンションの共用部分の修繕には多額の費用が掛かる
Iさん この5年くらいに建てられた新しいマンションについては、比較的損害は少なかったように思います。ただ建物に被害がなかった場合でも、専有部分の家財について損害確認に伺うことは多かったですね。高層マンションは大きく揺れるため、建物は大丈夫でも家財がめちゃくちゃになるケースがあるのです。
清水 よくわかります。私の自宅も高層マンションですが、東日本大震災のときは食器棚や本棚などの家具がどれも倒れて、食器などがほとんど割れてしまいましたから。築年数の経過したマンションはどうでしたか。
Iさん 建物自体に大きな損害が生じていて、多額の修理費が掛かるであろうケースもあり、住民の方が途方に暮れていました。マンションの修繕には大変な費用がかかりますので、資金繰りが大きな問題となっていました。
清水 修繕積立金が十分に貯まっている状態で地震が来るとは限りませんし、だからと言って、住民の追加負担は難しい場合もあると思います。ローン返済中の世帯もあるでしょうし、年金暮らしで貯蓄を大きく減らせない世帯もいるでしょうから。
Iさん そうなると、修繕に向けた合意形成も難しくなります。その困難と深刻さを見て来た者として、分譲マンションの共用部分はやはり地震保険が必要だと思いますね。
清水 一戸建てではその後の方針を自分で決められますが、分譲マンションではそうはいかない。地震による被災に限った問題ではないのですが、マンション住民の合意はとても難しい問題です。せめて財源だけでも確保されていれば、前向きな検討が可能になると思います。
Iさん そうですね。現地では「管理組合で地震保険に加入しているものだとばかり思っていた……」という住民の声も聞きました。やはり平時から、自分でしっかり確認しておくことが必要だと思いました。
清水 最近のマンションは免震とか超高層など複雑な構造のものも多いですよね。損害確認はどう行うのですか?
Iさん マンションの損害確認は、そのための十分な知識や経験が必要になります。一般の住宅とは構造が違いますが、それでもある程度目視で判断することが求められます。そのため、経験豊富な損害調査員が行うことになりますね。
清水 そうなると、マンションの多い東京などの都市部で地震が起きると、損害確認に時間がかかってしまう可能性もありますね。
被災地を目の当たりにしたIさんが、多くの方に伝えたいこと。次のページでお伺いしました。