ポケモンGOとAR

ポケモンGOの図

ポケモンGOのARという側面について考えてみたいと思います。

リリース以来、世界中を巻き込んでの大ブームとなっているポケモンGO。リリースされた最初の月のダウンロード数世界一や、同じく最初の月の収益額世界一など、5つの記録がギネスブックに登録されるなど、おおよそこれまでの常識では測りきれない大きなムーブメントを起こしています。

ポケモンGOがゲーム業界にもたらした驚きや発見というものは本当に多く、様々な角度から知見を得ることができます。そのうちの1つに、これまでで最も成功した「AR」、日本語でいうと「拡張現実」を使ったゲームであると言えるでしょう。しかし一方で、ポケモンGOはARによって成功したゲームではないという意見もあります。ポケモンGOの中で重要な技術は、ARとは別のものだという意見です。

簡単に言うと、ポケモンが自分の周りに出没するという体験は、ARの技術によってもたらされていない、ということです。さて、このことはARというものについて広く考えた時に、とても興味深い知見をもたらします。

そもそも、ARってなあに?

ARゲームズの図

ニンテンドー3DSに最初から収録されている「ARゲームズ」もARを使った遊びでした

ARはAugmented Realityの頭文字をとったもので、Augmenteというのが、拡張、補強、補完というような意味がありますので、日本語訳すると拡張現実と言われます。人が普段見ている、感じている現実世界に、コンピューターによって情報を重ねることによって、現実を拡張していく技術、というのがARです。現実世界の映像にリアルタイムでCGなどの映像を重ねるものが良く知られていますが、聴覚や触覚など、様々な知覚情報を拡張する試みがあります。

VRとARはどう違うのか、ということが言われることがありますが、ゲームで言えば、ゲームの世界に入ってしまうことができるのがVR、現実の世界にゲームが融合していくようなものがAR、というと分かりやすいかもしれません。

ポケモンGOでは、ポケモンを捕まえる時に、スマートフォンのカメラで撮影されている景色にポケモンがリアルタイムで合成されて、あたかも現実世界にポケモンが現れたかのような演出を楽しむことができます。これはいわゆるARの技術だと言えるでしょう。現実世界が拡張されて、ポケモンがいる世界のように見える、というわけです。

もっとも、ポケモンと現実世界の映像を合成しているのは演出の範疇です。ポケモンGOのより本質的なゲームシステム、歩いていると自分の近くにポケモンが現れる、という点については、ARの技術とは言い難いかもしれません。

ARの技術ではない部分が、現実を拡張したかのように見せている

ポケモンGOの図

地図上にポケモンが現れるというのは、ARの技術とはちょっと違うようです

ポケモンGOには、確かにARモードということで、ポケモンと現実の世界の映像をリアルタイムに合成していますが、それがポケモンGOが成功した重要な技術かと言うと、疑問点があります。ARモードはオフにすることができますし、オフにすることでプレイに支障はありません。

一方で、ポケモンGOで自分の位置情報と、周辺地図の情報に、ポケモンがいる場所の情報が重ねて表示されることは、確かにこれまで一般的にARと呼ばれるような技術ではありません。現実世界に知覚情報を付与している、とは言い難いでしょう。

ただし、その事実を踏まえつつも、ポケモンGOによってもたらされた様々なことを考えると、これは現実が拡張されたと言うに相応しい現象が起きています。大げさに言えば、この世界は拡張されてポケモンのいる星になってしまいました。

ポケモンのいる星になるとどうなるのでしょうか? ポケモンを探すためにお散歩をして健康になる人々がいます。レアなポケモンが出るという噂の公園に大量のポケモントレーナーが押し寄せます。ポケモンを探すことに夢中になって、歩いている時に人とぶつかる人が出てきます。敷地内でポケモンを探すことに迷惑して、ポケモンが出ないようにして欲しいと言う人もいます。

とても楽しいこともたくさんありますし、トラブルも多く起きています。それぞれの是非を問う声もありますが、この記事においては、デジタルの世界にいるポケモン達が現実の世界に干渉して様々な出来事が起きているというところが、注目していただきたいポイントです。

人々のふるまいを変える力

ポケモンGOを遊ぶ人の図

休日に公園に行くと、ポケモンを探しているらしい人がたくさんいます。ある意味で、とても不思議な光景です。

こういった様々な現象は、ARとは無関係なものだ、別物だ、と考えるのもひとつの考え方ではありますが、その体験の中にARの技術がもたらすものと近い価値があることを一旦認めてみると、色んなことが分かりそうです。

人々に「あなたの近くにポケモンがいるよ」という情報を捕まえる方法とセットで用意してみたら、世界中の多くの人がポケモンが周りにいることを前提として行動をはじめ、そしてそれはポケモンを捕まえない人にも間接的に大きな影響がありました。

それらの現象を支える技術は、ARが目指してきたものではないんですが、逆に言えば、現実の世界に情報を付与し、人のふるまいを変えてしまうような方法論には、必ずしも完全に人間の知覚とデジタルの情報を融合するテクノロジーが必要とは限らず、ポケモンGOのようなアプリケーションで、人々の世界は拡張されてしまうことがある、ということが言えるかもしれません。

では、ポケモンGOのどこにそんなパワーがあったのでしょうか?

現実が拡張されていく未来

ポケモンGOを遊ぶ人の図

ポケモンがいる世界になって起きた様々なできごとは、ARと社会の関係において参考になることがたくさんあります(イラスト 橋本モチチ)

ポケモンGOが起こした現象を観察して分かることは、ARの技術が発達して、世の中にどうやってインパクトを与えていくのかということを考えた時には、現実世界に対してどのような方法で情報を付加し拡張していくのかというだけでなく、現実世界になんの情報を付加して、それによって人々はどうなるのか、ということを考える必要がありそうだということです。

ポケモンGOに関して言えば、プレイヤーの想像力を借りている部分がとても大きいようにも感じます。ポケモンシリーズが長年かけて築いてきた世界観、そのイマジネーションを元に、このアプリを手にして「本当にポケモンが捕まえられる!」とワクワクした人は少なからずいたんじゃないでしょうか。その結果、夢中になってポケモンを捕まえる人達が現れたのです。

これは単に有名なタイトルを使ったからうまくいった、というだけの単純な話ではありません。ポケモン関連商品のどれもが、ポケモンGOのような熱狂を巻き起こすかと言えば、全くそんなことはないでしょう。むしろ、全てのポケモン関連商品の中にあっても、ポケモンGOは明らかに特別で異質な存在です。自分の近くにポケモンが現れて捕まえることができるという体験が、想像力を大いに刺激し、価値を高めています。

現実の世界に情報を加えることで、人々に大きな価値をもたらす可能性が分かりました。その結果、人々のふるまいが大きく変わり、社会に対して干渉する力を持つことが分かりました。その為に必要なことは、現実世界に情報を付加する方法論よりも、どんな情報を与えるかということの方が重要になる場合があるということも分かりました。そして、それらの現象は社会にとって未知のものであり、1つ1つ解決していかなくてはいけない混乱も起こるということは、多くの人が感じていることでしょう。

おそらくポケモンGOは、これまでで最も多くの人類を、しかもいっぺんに、拡張した現実に触れさせた装置となったと思われます。そこから生まれる驚きや発見、問題や混乱も含めて、ARの未来について考える手掛かりがたくさん潜んでいるように思います。

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