『マハゴニー市の興亡』
9月9日~22日=KAAT神奈川芸術劇場 ホール(9月6~7日プレビュー)【見どころ】
『マハゴニー市の興亡』写真提供:KAAT神奈川芸術劇場
享楽的な日々を夢見てマハゴニーを訪れるも、とんでもない運命に巻き込まれてゆく主人公ジム役に山本耕史さん。ほかマルシアさん、中尾ミエさん、上條恒彦さん、古谷一行さんら、存在感溢れるキャストに加え、音楽監督をジャズ・ピアニストのスガダイローさん、振付はストリートダンスの振付コンテストで高い評価を受けているRuuさんが担当。強烈な個性の持ち主たちが、“難解”と言われるブレヒト&ヴァイル作品をどう料理するか、注目されます。
またステージ上に「市民席」が設けられているのも、本公演の大きな特色。かつて舞台を客席にぐるりと囲まれた青山円形劇場で出演・演出を重ねた白井さんが「舞台と客席との境目をなくしたい」との思いで発案したこのシートは、“物語世界の中にいる気分”を味わえるのが大きな魅力です。これからチケットを購入されるなら、まずこの市民席を探してみては?
【山本耕史さんミニ・インタビュー】
主人公ジムを演じる山本耕史さん。76年東京生まれ。10歳で『レ・ミゼラブル』ガブローシュを演じ、TV、映画と並行して舞台でも活躍。最近のミュージカル出演作に『メンフィス』等。舞台は「自分の出発点的な場で、自分の才能を全部開いて、真っ向から立ち向かえる場」なのだそう。写真提供 KAAT神奈川芸術劇場
「出演を決めるにあたっては、もちろん作品が“いいな”と思うこともあるし、共演者にとても仲のいい方がいらっしゃるから……というのも、少なからずあります。今回の『マハゴニー市の興亡』は初めて触れる作品でしたが、僕がとても信頼している白井晃さんが演出されるということだったので、ではお願いしますとお答えしました。
ブレヒト、クルト・ワイルという『三文オペラ』の作者コンビによる作品で、確かに難易度的にはすごく高いですね。いわゆるミュージカルの“音楽に乗せて人物の心情を歌う”という形式ではなく、演劇の中に音楽がある“音楽劇”。ワイルの音楽がもともと歌いやすくはないのに加えて、今回はジャズ・アレンジがなされていて、歌い手としてはすごく大変です。ただ、そういう難しさを乗り越えた歌唱のほうが聴き手にいっそう深く伝わることも、作品によってはあると思います。僕らにとっては(挑戦しがいのある)いい“壁”になっていますね」
『マハゴニー市の興亡』稽古より。写真提供:KAAT神奈川芸術劇場 撮影:伊藤大輔(SINGO)
「昨日2回目の通し稽古があって、外枠はだいたい出来上がったのですが、今はそこからどう焦点を絞ってゆくのか、際立って表に出てくるのは何だろう、と想像しながら稽古をやっています。物欲、食欲、性欲と、汚さを含めた人間の様々な面が並べられていて、それぞれがどん欲に生きているけれど、結局、人生は儚い。誰しも(その儚さは)平等だと言いたいのかな、という気もしています。
『マハゴニー市の興亡』稽古より。写真提供:KAAT神奈川芸術劇場 撮影:伊藤大輔(SINGO)
――今回、舞台上には“市民席”というシートが設けられる予定ですね。
『マハゴニー市の興亡』稽古より。写真提供:KAAT神奈川芸術劇場 撮影:伊藤大輔(SINGO)
【観劇ミニ・レポート】
『マハゴニー市の興亡』写真提供:KAAT神奈川芸術劇場
『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』
『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』撮影:桜井隆幸
【見どころ】
印象派を代表する画家の一人、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。絵画に情熱を注ぎながらも世間に認められず、狂気に駆られてゆく彼と、献身的な弟テオの愛と葛藤を描く韓国ミュージカルが、日本人キャストによって初上演されます。
ヴィンセントの死からまもなく、彼の個展を開こうとするテオが美術館館長との対話のなかで、兄との日々を思い出す。ヴィンセントは絵画に命がけで取り組むものの、周囲の人々は酷評。ただ一人、彼の才能を信じたテオは求めに応じて送金し、彼を励まし続けるが……。
『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』撮影:桜井隆幸
【テオ役・入野自由さんインタビュー】
入野自由 東京都出身。声優として活躍する一方、近年は『屋根の上のヴァイオリン弾き』『宝塚BOYS』『HEADS UP!』等舞台にも積極的に出演。声優界では誰もが知る存在ながら、舞台俳優としては「まだまだこれから」と率直に、思慮深く語る姿に大きな器を感じさせます。撮影:桜井隆幸
「韓国版を観て、映像が効果的に使われていて、音楽もとても心地良い作品という印象を受けました。ただ、二人芝居ということで、演じる側としては相当ハードルの高い作品だとも思いましたね。ですが、僕自身ここ数年で舞台経験が増え、その楽しさも怖さもわかってきた今ならできるかもしれない、挑戦してみたい、と思えたんです」
――日本版ではヴィンセントとテオの兄弟愛はどう描かれそうでしょうか?
『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』撮影:桜井隆幸
妻子がいて、母親にも仕送りをしている彼が、兄と700通近くの手紙をやりとりして、そのうえ金銭面の援助もしているというのは、よほどの思いがないとできないことですよね。僕自身は一人っ子なので、なかなか掴みにくかったのですが、きっとテオは兄と一心同体という感覚を持っていた。そういうものを表現できたらと思っています」
――今回、ご自身の中でテーマにしていることは?
「本作は“今”と“回想”を行き来する構造ですし、僕はテオに加えて3役を演じる予定で、声優としてはまだしも、俳優としてここまで切り替えの多い役は初めてです。そんな中でも“嘘”をつかず、(声だけでなく)体も使いながらその時、その時の役を表現することがテーマですね。
『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』撮影:桜井隆幸
『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』撮影:桜井隆幸
「もともとこの世界に入ったきっかけが、劇団四季のミュージカルを3,4歳の頃に観たことでした。僕が騒がずにじっと観入っていたり、テーマ曲を歌っていたのを見て、興味があると感じた両親が、児童劇団に入れてくれたんです。その後有難いことに声優の仕事が増えていきましたが、数年前、自分が憧れる俳優さんたちと臆せず作品を創っていきたい、もっとスキルアップしたいと思い、舞台にも挑戦し始めました。まだまだ道半ばですが、(声優として培った)声や言葉の説得力は自分の強みというか、自信を持ってなければいけない部分。それプラス体(の動き)をどう使っていくかが、今の課題ですね。
稽古場では、今回初めて同じ作品に出演する(橋本)さとしさんの躍動感、情熱的なお芝居に見入っています。感情を素直に音楽に変換して、そこに言葉を載せる姿。ああいうふうに自分もできたらなあと憧れつつ、今は稽古に臨んでいるところです」
【観劇ミニ・レポート】
『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』撮影:桜井隆幸
*次頁で『ミュージカル・ライブ イチラス!』ほかの作品をご紹介しています!