スタンダードモデルをポテンシャルアップし続けた先に
プジョーのモータースポーツ部門であるプジョースポールがチューニングを施したハイパフォーマンスハッチバック。270psの308GTi270byプジョースポール(436万円)と308GTi250byプジョースポール(385万円)をラインナップする
あれはパリだったか。モーターショーで初めて2トーンカラーのプジョーを見た時、ルノーのスポーツイメージを随分意識して始めたな、と思ったものだった。アチラが黄と青なら、コチラは赤と黒。もっとも赤と黒の大胆な色分け(クープ・フランシュというらしい)は、日本人のボクたちに、とある有名なタイヤブランドを思い出させてしまうけれど、それはそれでスポーティなわけだから、いずれにせよ狙いは外していなかった、というべきだろうか。もっとも、あまりの大胆な色分けに、ボクはA印のタイヤより、動物のオカピーを思い出してしまったけれど。
それはともかく、一風変わったスペシャル路線をシトロエンに任せたプジョーは、スタンダードモデルのポテンシャルアップに努め、その結果として、スペシャルなスポーツ仕様を新たに“byプジョースポール”という名でラインナップすることに成功した。その第一弾が308GTi by PEUGEOT SPORTで、エンジンチューニングの違いによって250ps仕様と270psの2種類を用意する。ちなみに、クープ・フランシュは308GTi 270の専用オプションカラーだ。
ベースとなった308シリーズは、新開発のEMP2プラットホーム採用により、このクラスのスタンダードモデルであるVWゴルフに迫るポテンシャルを実現した、プロのあいだでも評価の高いモデルである。それを、プジョースポールがスポーツモデルに仕立て直した。ルノースポールという偉大な先例もあって、フランスメーカー製チューンドカーというと、クルマ好きからの注目度も概して高い。”なんちゃってスポーツ”仕様なんかでは決して認められない環境だから、プジョーも満を持してデビューさせたであろうことは、容易に想像がつく。
踏めれば踏めるほど、やっぱりクルマは楽しい
果たして“オカピー”は素晴らしい完成度を誇っていた。
前後左右のアンダーエアロパーツはいずれもごく控えめなデザインになっていて、大胆な色分けといかつい270専用19インチホイール以外に、これといって強力なスポーツ仕様であることをアピールしない点が、まずはツウ好みで嬉しい。強いクルマに子供っぽい演出などいらない。これでフツウのボディカラーを選んだなら、尖った仕様であることは、クルマに興味のない奥様などシロウトさんにバレないだろう。もっとも、室内は270の場合、彫りの深いバケットタイプで、漆黒のインテリアに赤いステッチも走るから、硬派なイメージが自然と強調されてしまうわけだけれど。
270psの1.6L直4ターボエンジンに組み合わされるのは、3ペダル6速ミッションのみ。アルミニウム製のシフトノブとペダルに早くも心が浮き立つ。
走り出したとたん、改めてベースとなった308シリーズの造りの良さに感嘆した。ボディの強さや足元の軽やかさ、しなやかなでかつニンブルな前アシの動きと、気持ちよく追随する後アシなど、基本のポテンシャルはゴルフに並ぶ。乗り心地もスポーツモデルをことさら意識させる硬さではない。最新のスポーツ系走りのモードをしっかりと掴んだ仕上がりだ。
2000回転で早くも最大トルクの330Nmを発揮する。すっと踏み込めば、ガツーンと力が湧き出るわけだ。MTの場合、自分で変速の頃合いを決めるわけだから、切れ目のない強力なトルクフィールを思う存分に味わえる。270の場合、5500回転以上まで、フラットな最大トルク特性を持つ。250だと同じく最大トルクは330Nmながら4000回転を越えたあたりで数値が下がっていく。+20psよりも、このトルク特性の違いの方が、ドライバーに与える印象に大きな差を与えるはずだ。
これだけの力がフラットに続くから、2000~5500回転のどこで繋いでも、ガツーンと腹に衝撃的な加速フィールが味わえる。変速の瞬間には、ハンドルを握る腕に思わず力が入ってしまうほどだ。
感心したのは、ブレーキフィール。270には専用の4ピストン&大径ディスクが与えられている。がっつり踏んでも、ふわっと踏んでも、望んだままに減速するから、ブレーキを踏むことも楽しい。
それゆえ、ハンドリングもファンだ。減速からのコーナー立ち上がりに余裕があり、しかもトルセンLSDのおかげでグリップがしっかりと保たれているから、ためらうことなく右足をプッシュし続けることができる。踏めれば踏めるほど、やっぱりクルマは楽しいものだ。
グランドツーリングカーとしても優秀だった。高速域での乗り心地の良さは特筆できる。まるでドイツ車のようである。