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親が子どもの個性を理解する大切さ……個性別の対応とは
はじめて海を前にした幼児にも、様々な個性が現れます。
例えば、生まれて初めて海辺に立った幼児を想像してみてください。大喜びで水の中へと走っていき水しぶきをあげる子、少しずつ水際へと近づきおそるおそる足を浸す子、打ち寄せては引く波に圧倒されビーチに座り込む子、親の身体にしがみついて泣きわめき決して水際に近寄ろうとしない子。
こうして、様々な個性が現れるものです。それでも多くの親が、「はじめての海」にキャッキャッとはしゃぐ我が子の姿を期待し、海に出かけるのではないでしょうか。そこで、「座り込む子」や「泣き叫ぶ子」を前に、がっかりしたり、イライラしてしまうこともあるかもしれません。
親子間の葛藤は、多くの場合、子供の「~したい/ ~したくない」という気持ちと、親の「~して欲しい/ ~して欲しくない」という気持ちの「かけ違い」から起こるものです。もし、子供の個性から発せられるサインを考慮することなく、親の意向のみを一方通行に当てはめるなら、親子間の葛藤は積み重なり、子育てはより苦しいものとなっていきます。
子供の個性を理解するとは、その子がすんなりできることと、その時点ではまだ難しいことを理解することでもあります。そうして、養育者自らが、その子に期待することを見直し、その子に合ったハードルを調整することが可能となります。すると、親子間の葛藤も減っていくというわけです。
冒頭の「はじめての海」を楽しめない幼児も、「そんな引っ込み思案でどうするの!」と背中を押し過ぎたり、「せっかく来たんだから!」と無理やり水に浸すよりも、その後も何度か海辺を訪ねることで、次第に波の音や砂の感触にも慣れ、海を楽しめるようになるでしょう。
個性とは、「優劣」のあるものではなく、それぞれ「いい面」や「気をつけたい面」があり、「違う」だけのことです。子供の個性を理解することで、その子の「いい面」を伸ばしてやりたいですね。では、どんな「個性のタイプ」があるのか、みてみましょう。
子供には「3つの個性タイプ」があります
子供の個性を尊重するには?
1.外界に慣れやすいタイプ
周りの物事に対し穏やかな反応を見せ、順応性があり、新しい状況に出合っても、引きこもるよりは、踏み出していきます。
乳児期には、早いうちに規則的な食事や就寝スケジュールを確立し、新しい日課や、新しい食べ物や人々にも、比較的早く慣れる傾向にあります。大きくなるにつれ、ルールやゲームを素早く学び、新しい活動にもスムーズに参加でき、学校にも容易に適応します。約40%の子供が、養育者にとってこうしたあまり「手のかからないタイプ」に当てはまるとされています。
2.外界にゆっくりと慣れるタイプ
周りが気がつかないような細部まで敏感に感じ取るためもあり、新しい物事に出合うと、行動に踏み出すのに時間がかかる場合があります。「シャイ」とみなされることもあるでしょう。 約15%の子供が、この個性タイプに当てはまるといわれます。
3.外界に慣れにくいタイプ
新しい物事や思い通りにいかないことに対し、ところかまわず癇癪を起こすなど、強烈に反応する傾向にあります。乳児期には、定期的な寝食スケジュールを確立するのが難しく、日々の生活リズムや、新しい食べ物や人々に慣れるのにも時間がかかることもあります。約10%の子供に見られるといいます。
残りの約35%の子供は、上の1.2.3のタイプにすっぽりと当てはまるというよりは、それぞれの傾向を合わせ持つとされています。
公園や児童館など、子供が集まる場を思い出してみてください。一定数の割合で、こうした「個性のばらつき」が見られるのではないでしょうか。皆が皆、周りの状況にすぐさま慣れ、さっと楽しそうに遊び始めるわけではありません。
そして、「少数派」でもある「ゆっくりと慣れていく子」や、「慣れるのが難しい子」にも、それぞれ伸ばしてやりたい「いい面」があります。
1.「外界に慣れやすいタイプ」への対応法
子供の個性に合わせた対応を心がけることで、親子間の葛藤も和らぎます。
また「手のかからない子」についてひとつ気をつけたいのは、その子が、養育者の意向や気持ちを敏感に感じ取り、自分の欲求や感情を引っ込めることで、扱いやすい「いい子」を演じてはいないか? ということです。「どんな気持ち?」「どう思う?」など、たびたび声をかけるようにし、その子自らが表現したり、自主的に選択できる機会を与えてやりましょう。
2.「外界にゆっくりと慣れるタイプ」への対応法法
さっと行動に移せないのも、すぐに話し出せないのも、周り大多数が気がつかない細部までも、強烈に感じ取る「感受性の豊かさ」を持っているためです。一見、「静か」に見えるかもしれませんが、様々な感覚や情報の溢れる「活発な内面世界」を持っているものです。将来、芸術関係や研究分野の道に進むかもしれませんね。対応法の鍵は、できる範囲で、その子が自身のペースで環境に順応するのを許してやることです。周りが無理強いし、早く行動するようプレッシャーをかけ過ぎるならば、内面へと引きこもりがちな性質に拍車をかけることもあります。
とはいえ、「嫌がるから」と新しい物事を試す機会を取り除くのではなく、慣れない状況でも、少しずつ前へと踏み出す姿勢を励ましてやりましょう。例えば、新しい食べ物を受けつけない場合でも、その後一切食卓にその食材をのせないようにするのではなく、何度か食事に加え、徐々に慣れるようにしていきます。
3.「外界に慣れにくいタイプ」への対応法
「こうと決めたらこう!」という「意志の強さ」が長所です。大声で泣きわめいての癇癪といった強烈な反応に、親もつられて感情を爆発させてしまったり、何度「だめ!」といい聞かせても「やり抜く力」が強いため、こちらも「怒りのボタン」を押されっぱなしということもあるでしょう。将来、周りに迎合することのない頼もしいリーダーになるかもしれませんね。対応の鍵は、まずは一貫した態度を取ること。「~したい/ したくない」といった意志を強く持っていますから、時と場合によってこちらの意向がコロコロと変わるようならば、「どうせこれもあれもいいんだろう」と、境界をどんどんとこえてきます。また罰を用いても、より重い罰へとエスカレートせざる得なくなっていきますから、罰を与える状況にならないよう、「予防」に力を注ぎましょう。細かなルールを決め「できないこと」を咎め続けるよりも、「他者や自分に危険なことはしない」など、最低限守るべきルールを明確に設定し、「できていること」をこまめに認めてやり、温もりのある良好な関係を築くことが、最も効果的な「予防」です。
また「やり抜く力」が強く、取り組むことを邪魔されるのを好みませんから、指図を受けたらすぐに次の行動へ移るようなことを期待せず、「あと何分残っているか」を、前もって何度か知らせてやるなど工夫していきましょう。
最後に、親自身の個性タイプを理解することの大切さも覚えておきたいです。例えば、ママが新しいことにもどんどん挑戦したいタイプで、子供さんが慣れるのに少し時間がかかるタイプの場合も、「私はどんどん先へいきたいタイプだけれど、この子はちょっと違うのよね」と気づき、その子に合ったより適切な対応ができるようになるでしょう。子供、そして親自身の個性を理解することで、親子間の葛藤を減らし、子供を健やかに伸ばしてやりたいですね。
参考資料:
‘The Origin of Personality’ by Alexander Thomas, Stella Chess and Herbert G. Birch Scientific American, pp 102-109, 1970
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