アドバイス1 今すベきは再就職と家計の黒字化
ご相談、拝見しました。将来に向けて、今、すべきことは速やかな再就職と家計の黒字化、これに尽きます。日本円にして年収800万円の仕事を辞められたのですから、それなりの事情があったのだと思います。ただし、次の就職先は決めずに退職されたようです。そうなれば、その間は貯蓄を取り崩す生活になります。貯蓄は550万円ほど。まとまった額ではありますが、生活費にして2年弱、22カ月を過ぎれば底をつく金額です。もちろん、すべてを使い切らないとしても、将来に向けての大事な貯蓄です。できる限り減らしたくはありません。
したがって、再就職については収入面が前職より下がることは避けたいですが、ある程度のスピード感も必要ということになります。ともあれ、今は何より再就職が最優先であり、新たな投資活動はリスクを抱えるため、控えるべきです。
再就職し、一定の収入を得られれば、家計管理はそう心配はないでしょう。生活費は住宅コストが目立って高いですが、その他の家計支出はかなり抑えていることが伺えます。その点からも、必要に応じて節約ができる方なのだと思います。
アドバイス2 投資は余裕資金で行いたい
今後のライフプランについては、投資、とりわけ不動産投資に大きく頼った印象を受けます。イギリスの不動産価格が高騰していても、それは同時に大きなリスクも抱えています。余裕資金で回していくならまだいいですが、景気に大きく左右される商品に、生活資金や老後資金を大きく組み込んでしまうことは避けなくてはいけません。その意味で、日本のアパートを結局購入しなかったことは、とても良かったと思います。イギリスの今後の住宅市場については専門外ですが、少なくとも日本の先行きは明るいとは言えません。アパートやマンションを1棟などといった大きな投資を、個人が安易に手を出すのはあまりにもリスキーです。
維持コストを支払いながら、投資分を回収するまで高い入居率を10年、20年と継続していくのは、優良物件でも容易なことではないからです。それが地方ならなおさら。相談者の状況を考えれば、今後も日本国内への不動産投資は控えるべきだと思います。
アドバイス3 老後資金のベースは「貯蓄」が基本
老後については、貯蓄とともに、今後も不動産投資を続け、 その売却益を老後資金に充てるというプランを描かれているようです。それ自体、間違ってはいません。インフレになれば現金は目減りしますし、その対策としては投資を行う、結果として、貯蓄も投資も希望どおりになる可能性ももちろんあるわけです。ただし、その方法をとるなら、資産配分と今後の状況を絶えず頭に入れておくことです。現在、貯蓄と投資の割合はやや投資が上回っていますが、これが上限だと思ってください。投資と比較すれば貯蓄の増え方は物足りないでしょうが、一方で現金を積み立てていく作業が、老後資金づくりには不可欠なのです。
老後も現在と同程度の生活レベルを維持したいとのこと。65歳でリタイアし、その生活費を月25万円とすれば、90歳までの老後生活は25年間。結果、トータルで7500万円が必要になります。公的年金がどの程度受給されるかは不明ですが、仮に15万円とすれば25年で3000万円の不足。65歳までにこれを用意できるかどうか。今からなら、月9万4000円貯蓄すれば、手持ちの貯蓄と合わせて届く金額です(支出予定の250万円を差し引いた貯蓄額で試算。投資分については考慮せず)。これが老後資金の基本的な考え方です。
年齢的にはそろそろこういう試算をして、毎月どの程度の貯蓄が必要かを意識しておくといいでしょう。退職金制度がなければ、なおさら月々の貯蓄がポイントになります。とは言え、先の試算は比較的健康で、予期せぬ大きな支出がなかったケースでの金額です。
要介護になる、施設に入る、あるいはもっと生活費が欲しいなど、老後資金が増える要素は誰にでもあるのです。そういった部分は投資の利益で補うこともできるでしょうが、ベースはあくまでリスクを取らず現金で貯めていく。老後になってからの投資の損失はなかなか取り戻せません。不動産投資にしても、定年時が高値のピークとは限らないのですから、下降線をたどり始めたら、前倒しで売却することも必要でしょう。そして、定年後も投資を継続することは構いませんが、その比率を徐々に下げ、現金保有に切り替えていくべきだと思います。
相談者の方にもし「パンをかじるだけの生活」が待っているとすれば、それは投資による大きな損失を出した場合が、確率としては高いと考えます。一方、一定の収入に対しては、十分に家計管理ができる人です。したがって、必要以上に将来を不安視するのではなく、どんな投資をするにしてもそのリスクヘッジさえしっかりしていけば、そういった生活は回避できると思います。
教えてくれたのは……
深野 康彦さん
取材・文/清水京武 イラスト/モリナガ・ヨウ
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