中古住宅、なかでも築年の古い中古住宅は売りづらいといわれています。売り手にとっては、少しでも高く売りたいところですが、住宅や設備の老朽化、旧式の間取りに加え、長く暮らしてきた生活感が色濃く残って、買い手から見ると魅力的に見えにくいからです。

そこで、さくら事務所では、仲介の際にコンサルティングを行い、必要最低限の加工を施した上で売り出すという仕組みを構築しました。まずは、具体例を見ましょう。

解体したまま売り出すほうが高く売れる?

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写真提供:さくら事務所 解体前のLD(右が和室) 

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写真提供:さくら事務所 解体後のLDと和室の部分


写真は、東京五輪や築地市場の移転で注目される豊洲エリアにある、築35年のマンションで、約120平方メートルの住戸です。キッチンダイニング、リビング、和室などの壁、床、天井を解体して、このままでこれから売り出そうとしています。あまり考えられない売り方ですが、そこには大きな理由があるといいます。

コンサルティングを行った田中歩さんに、その理由を伺いました。

売却の相談があったときには、高齢のご夫婦の家財道具や生活用品が大量にあって、物があふれている状態に。すでに高齢者向けの施設に移られて、2年半ほど空き家の状態になっていたところ、お子さんからさくら事務所に売却の相談が入ったということです。

ご夫婦がお子さん2人を育て上げた住まいは、広くて角住戸という条件の良さにもかかわらず、5LDKの間取りのままでどの部屋も小さく仕切られ、壁が多くて採光や通風を遮っていました。

住まいの最大の魅力である「開放感」を理解してもらうために、最低限加工するならば、リビングを中心としたスペースを解体するのがよいと、田中さんは考えて提案をしました。買い手を「古いマンションを買って、希望通りにリノベーションしたい若い世帯」に想定してのこと。買い手にとっても、リノベーションのイメージがつきやすく、解体費用の負担を減らせるメリットがあるといいます。

間取り図

5LDKの間取りの一部(黄色の部分)を解体した(間取り図提供:さくら事務所)

眺望

バルコニーからは運河や高層マンションが臨め、さらに開放感を演出してくれる

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ほかの居室は家財道具や生活用品を処分して、掃除をした状態


「ありのまま」「ピカピカ」のデメリットを回避

一般的に、住まいは生活感の残った「ありのまま」で売ることが多いです。そうなると、時間をかけて価格交渉をしながら売却活動を続けることになります。「ありのまま」を気にしない買い取り再販業者に売れば、早く売ることができますが下取り価格になってしまうので、いずれの場合も高く売ることはあまり期待できません。

売り手が先行投資をして、「ピカピカ」にリノベーションしたうえで売り出す、という方法もあります。この売り方は、先行投資の金額が大きくなります。買い手がリノベーションを高く評価してくれればよいですが、気に入らなければ、期待した金額では売れないということになり、売り手は大きなリスクを抱えることになります。

では、一部を加工して売るのはどうでしょう?田中さんによると、リスクを抑えてより高く売れる可能性が探れるといいます。お金の面について、詳しく検討してみましょう。

加工にかかる100万円は後払いで、リスクを減らす仕組みに

一部を加工して売り出す場合は、売り手の先行投資を抑えることができ、リスクも小さくなります。この物件の場合では、売り手が負担する「加工費」は、家財道具や生活用品の処分費用と解体工事費用の合計約100万円です。

この加工費のほかに、一般的に発生する「仲介手数料」とこの仕組みならではの「コンサルティング料」がかかります。コンサルティング料は、固定額にするか成約価格で変動するかを売り手が選べる仕組みです。例えば固定額にした場合は、加工費100万円+コンサルティング料15万円の115万円といった金額を、一般的な売り方より多く負担することになります。変動する場合は、高く売れればコンサルティング料が増えますが、安くしか売れなければコンサルティング料はかからず、仲介手数料の一部が還元される仕組みです。

気になるのは、どこまで高く売れる可能性を探れるかです。「この物件を買い取り再販業者が下取り価格で買った場合、いくらで売れますか?」と聞いてみました。田中さんの予測では、「3500万円~4000万円」だといいます。一方、一部加工して売り出す価格は「5100万円」の予定といいます。「ありのまま」で早く売れる金額よりも、1000万円程度高く売れる可能性があると考えられます。

また、加工費は売却が終わるまで支払う必要はなく、それまではさくら事務所が立て替えることで、さらに売り手の負担を軽減する仕組みを取っているそうです。

本当に高く売れるのか? 先行事例の2物件の場合は…

もちろん実際に高く売れるのかが、大きな課題になります。売り出し価格が高くても、成約した価格が低ければ、意味がありません。豊洲の物件はこれから売り出しなので、結果はまだわかりませんが、この仕組みで成約した事例がすでに2物件あるのだそうです。

1事例目は、目黒区にある築21年の中古一戸建て。ありのままで売る場合の査定価格は7800万円~8000万円でしたが、徹底的なクリーニングと部分的な改修(LDKの天井や壁の壁紙の張り替えや塗装、玄関の修繕など)の加工に約100万円をかけた結果、8750万円で成約したという事例です。

2事例目は、世田谷区の築41年の中古マンション。5LDK+Sの開口部に面する3部屋とLD部分を解体するなどして、加工費を300万円かけて改修した結果、ありのままの査定価格が3000万円のところ、3800万円で成約したということです。

同じような売り方をする仲介会社はほかにも登場するか?

仲介する会社としては、1物件ごとにかなり手間のかかる売り方となるので、「さくら事務所として利益が十分に出るのか」も気になりました。田中さんによると、会社の規模として固定費がそれほどかからないので、手間をかけても売り手の利益を追及する売り方ができるといいます。

ただし、「一度に多くの物件を扱えないので、同じような売り方をする競合他社が現れて、プレイヤーが市場に増えてくれるといいと思っています」と田中さん。地域密着型の仲介会社や建築・設計部門のある仲介会社などなら、可能性があるかもしれません。

さくら事務所では、この新しい売り方を「No.8」と名付けています。その由来は、シューベルト交響曲第8番=「未完成」。さらに、8を横にした∞=買い手にとっては無限大の可能性がある、にかけているということです。

ちなみに、買い手側に特に条件はありません。一部加工した未完成の状態ではありますが、通常の中古住宅と同じような購入プロセスを取ります。今回の豊洲の物件のように一部解体した状態であれば、買い手がリノベーションをすることになりますが、自由に会社やプランを選ぶことができます。


さて、築年が古いとか、空き家の状態になっていたとか、これからの中古住宅はさまざまな課題を抱えている事例も多くなるでしょう。今後は売り方に知恵を絞ることの重要性が、増してくると思います。今回の物件はどんな買い手が見つかるのか、興味深いところです。
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