食と健康

バターコーヒーのダイエット効果は?管理栄養士の考察

バターコーヒーを知っていますか? 昨年出版された『シリコンバレー式ダイエット』という本の中で、健康によく、ダイエットに効果があると紹介され、人気になっています。作り方はコーヒーにグラスフェッドバターを入れて攪拌するだけ。非常に簡単です。手軽で簡単に作れるバターコーヒーですが、本当にダイエット効果は望めるのでしょうか?

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

ダイエット効果は本当? 話題のバターコーヒーとは

コーヒー

有機コーヒーにグラスフェッドバターを混ぜて作る「バターコーヒー」。ダイエット効果があるとセレブにも人気のようですが、実際のところどうなのでしょうか?

バターコーヒーを知っていますか? オーガニックのブラックコーヒーに、牧草のみを食べて育った乳牛の乳から作った「グラスフェッドバター」というバターを入れて作るコーヒーです。コーヒーとバターをしっかり攪拌すればよいだけ、と作り方はいたってシンプル。ブームの火付け役となった『シリコンバレー式ダイエット』の本によると、コーヒーに含まれるカフェインが消費エネルギーを上げることに加え、グラスフェッドバターに含まれる中鎖脂肪酸は消化吸収がよくエネルギーになりやすいことから、ダイエット効果や健康増進効果が望めると書かれています。
 

グラスフェッドバターとは…日本では品薄? 代用品は?

ところで、バターコーヒーを作るのに欠かせない「グラスフェッドバター」とは何でしょうか? グラス(grass)は草、フェッド(fed:feedの過去形)は食べた―「草を食べたバター」。もうお分かりですね。牧草を食べて育った乳牛の乳でできたバターです。牧草といっても、無農薬の牧草であるため、オーガニック食品を好む海外セレブたちの間でも好まれているようです。

日本の牧場で育てられている乳牛は放牧や干草などの草も食べますが、ほとんどの乳牛が牧草に加えてトウモロコシ、大豆、綿実、麦といった炭水化物を多く含むえさを食べています。日本で一般的に手に入るバターとは脂肪酸の組成が違うと言われており、中鎖脂肪酸を多く含むので健康によいといわれています。しかし、このグラスフェッドバターは日本では簡単に手に入れることができません。そのため、代用品として飼料まで厳しく管理されている証であるAOP認証のあるバター(AOC認証のあるバター)、MCTオイルを使う人も出てきました。さらには、この2つも一般のスーパーでは手に入りにくいものであることから、普通の無塩バターを使ってしまっている人もいるようです。
 

代用は可能? 普通の無塩バターとグラスフェッドバターの違い

ここで、一般のスーパーで販売されているバターの脂肪酸組成についてお話します。実は、スーパーで売られている普通牛乳に含まれている乳脂肪の脂肪酸組成は他の油に比べて短鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸が多く含まれています。中鎖脂肪酸が消化吸収しやすいということが目的であれば、スーパーで売られている無塩バターで代用することも可能かと思います。

ただし、グラスフェッドバターが薦められているもう一つの理由として、グラスフェッドバターは無農薬の牧草で育てられた乳牛から取れた乳で作られている点があります。これに対して、一般のバターはトウモロコシ、大豆などの炭水化物を多く含むえさを食べる乳牛の乳で作られているので、それらのえさを育てる際の農薬で牛が汚染されており、効果が変わってしまうという考え方もあるそうなので、どこに焦点を当てるかによって選ぶべきバターは変わってくるのかもしれません。
 

病院食ではおなじみ!グラスフェッドバターの代用品「MCTオイル」

さらに、グラスフェッドバターの代用品として使われているMCTオイルですが、こちらも一般には聞きなれないオイルだと思いますし、スーパーにも取り扱いのないオイルです。しかし、実は病院の栄養士にはおなじみのオイルで、腎臓に負担のかかっている患者様のお食事を作るときによく使っています。

腎臓に負担のかかっている方に対しては、エネルギーは一般の人と同じくらいですが、エネルギー源のうちたんぱく質の比率を下げたお食事を提供します。エネルギー源は炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質の3つですから、たんぱく質を減らしてエネルギーを確保するためには炭水化物と脂質の割合を上げるしかありません。そこで活用できるのがMCTオイルなのです。MCTオイルは一般的な油に比べて中鎖脂肪酸が多く、消化吸収がよく、エネルギー源になりやすい油です。無味無臭なのでいろいろな料理に加えて使うことができます。私の職場ではMCTオイルよりも料理の味を変化させ辛い粉末状のMCTパウダーを使って、ご飯(お粥)に混ぜて腎臓病食のエネルギー源を確保しています。(なお、おかずに混ぜると、真っ白になってしまいます。粥等に混ぜても白さが強くなりますが、MCTパウダーが混ざったご飯だけを見ると「病態食だし、こんなもんかな? 」と思っていただけるようで、クレームをいただいたことはありません。)
 

「バターコーヒーでダイエット成功」は本当?

エネルギー源として使いやすいというものの、バターやMCTオイルを入れたら当然ですがその分、摂取エネルギーも上がります。10gカットのものを1つ入れたとしても、75kcal。なかなかのエネルギーです。

人間は寝ていたり座っているだけでもエネルギーを使いますが、運動で75kcalを消費しようとすると、体重50kgの人で速歩30分、ジョギング17分、ランニング12分程度が必要です。これだけの運動ができるエネルギーを余分に摂ってやせるとは管理栄養士としては考えにくいです。

おそらく、バターコーヒーダイエットに成功している人は、単にバターコーヒーを飲んでいるだけでなく、その他の部分で厳しい糖質制限や運動を同時にしているのではないでしょうか?

バターコーヒーの効果としては、他にも「空腹感を感じなくなった」「中性脂肪が下がった」「便秘が解消された」といった声が上げられています。いずれも個人の方の感想の域を出ないのではと思いますが、「便秘解消」に関してだけは、油脂類が腸内に増えることで腸内での食物の移動がスムーズになるので、油脂類の摂取が少ない人には効果があったかもしれません。それ以外は、別の理由によるものではないかと思います。

ダイエットは流行りものを追いかけても上手く行きません。食事と運動という地道ではありますが、王道である方法を使うほうが最終的には上手く行きます。

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