古川雄大 87年長野県出身。ミュージカル『テニスの王子様』(07~09年)で注目され、10年にミュージカル『ファントム』に出演、12年に『エリザベート』に初出演、ルドルフ役を務める。13年『ロミオ&ジュリエット』14年『レディ・ベス』『ファースト・デート』など舞台で存在感を示しつつ、映像や音楽でも活躍している。(C)Marino Matsushima
フランス革命の勃発を描いたフレンチ・ミュージカル『1789』で、主人公ロナンを革命にいざなう若者たち。その一人で、後世に大きな名を残したロベスピエールを演じているのが、今最も目覚ましい活躍を見せるホープの一人、古川雄大さんです。涼やかな容姿は言わずもがな、ダンス量の半端でない『CLUB SEVEN』のような演目もさらりと(?)こなしてしまう実力の持ち主ですが、舞台に対してどんな思いを抱いていらっしゃるのでしょうか。まずは取材時、帝劇公演真っただなかだった『1789』についてうかがいました。
『1789』では革命家ロベスピエールを熱演
――今回の『1789』では、実にたくさん踊っていらっしゃいますね。フランス版は「歌う人」「踊る人」が分かれているという印象でしたが、日本版では「歌う人」自ら、ハードに踊っていらっしゃいます。「ダンスは非常に多いと思います。共演の方たちも“ダンス多いね”と言っていますし、僕自身もそう思います。今までこんなにダンスの多い舞台に出ることがあまりなくて、踊りたいなと思っていた部分もあるので、新鮮ですね。ハードですけれど、すごく楽しませていただいています」
『1789-バスティーユの恋人たち-』写真提供:東宝演劇部
「お一人ずつ振り付けていらっしゃるものもありますし、このナンバーはこの方とこの方、というようにタッグを組んでいるナンバーもありますね。それだけでもバラエティに富んでいるし、ジャンルもいろんなジャンルのダンスがあって、一言では“この作品の振付はこうです”とは言いにくいです。ジャズがあったりコンテンポラリー・ダンスみたいなのがあったり、クランプもあるし……」
――18世紀のフランスのお話ですが、表現は最先端、なのですね。
「ダンスに関してはまさしくそうですね」
――そして人物像についてですが、古川さん演じるロベスピエールは、平民出身だが“議員”というエリートです。農民である主人公ロナン(小池徹平さん、加藤和樹さんのwキャスト)とは、どんな距離感を意識していらっしゃいますか?
「ロベスピエールたちはロナンに出会ってすぐ、“印刷所に来い、君と話がしたい”と言います。おそらく彼の中に、民衆を動かす力があることを見抜いたのではないでしょうか。それからは彼と兄弟のように接しているけれど、どこか“民衆”と“プチ・ブルジョワ”の違いというものも分かっている、と思うんですね。革命が成功するには民衆の力が必要だから、うまく扇動したいけれど、自分には時に、感情的になってしまう部分がある。それがわかっているからこそ、ロナンは革命にとって必要な人物だと思ったのではないでしょうか。
その後、デムーラン(渡辺大輔さん)、ダントン(上原理生さん)とロナンはパレ・ロワイヤルのシーンで“(俺たちは)仲間だ、一緒にやろう”と気持ちをひとつにするのですが、ロベスピエールはそこには出ていないんですよ。彼は(議員として)三部会に出ているのですが、それが決裂してしまって、しかも第三身分は屈辱的な(差別的な)仕打ちを受け、怒りも頂点だし、自分の目指していた状態から遠のいていてしまったことに対する焦りもあって、(彼が次に登場する時には)非常に険しい表情になっています」
――“革命家サイド”ということでロナンとロベスピエール達3人は一見、横並びのように見えるかもしれないけれど、そう単純なものではないのですね。
ところで、フランス版と日本版の大きな違いという点で、主題歌ともいえる“サ・イラ・モナムール”の演出があるかと思います。デムーランがリードする“革命扇動”的な演出だったフランス版に比べて、日本版は若者たちがカップルになって歌う、とてもロマンチックな場面になっています。どんな意図なのでしょうか?
「直接言われたわけではないのですが、一つには、革命が成功した後の世界のイメージなのではないかな。好きな人と自由に暮らせる、こういう世界を作りたいというイメージです。もう一つ、これから革命に行ってくるよ、というシーンという読み方もできるかと思います。(構成としては)ここはある意味、芝居の中にミュージック・ビデオのような“イメージ”が挿入されているようなものなのかもしれません。ロベスピエールにも突然、彼女が出てくるわけですから(笑)。(ロベスピエールについては堅物だったという説もあるけれど)僕も彼女はいただろうと思いますけどね。ただ革命に対する温度の方が他の人より高かったということなのではないかな」
『1789-バスティーユの恋人たち-』写真提供:東宝演劇部
「今回、この作品に入るにあたって読んだ文献が9巻ぐらいあるもので、その第2巻だったと思いますが、ロベスピエールが“独裁”に踏み出していくことを暗示する部分があるんです。ずっときれいなやり方で世の中を動かそうとしているロベスピエールに対して、ミラボーという人物に“きれいなだけじゃ理想の世界は作れない”というようなことを言われて、衝撃を受けるんですね。でも彼については今回の舞台ではほとんど描かれていないので、僕はロナンのラストをそれに変換できたらと思っています」
――革命というのは大きな犠牲を伴うものだ、と衝撃を受けて……ということでしょうか?
「もっとわかりやすいことを思い浮かべています。ロナンが大きな犠牲を払ってくれたことでバスティーユ監獄の門が開いて、武器が手に入る。それによって僕らが先に進めるんだ、という意識です」
――舞台では固い絆で結ばれているロベスピエール、デムーラン、ダントンですが、史実では数年後、とんでもないことになっていて、なんともやるせないですね。
「そうなんですよね。でも彼らは、お互いに求めているところは一緒なんです。ただ、目の前を見ているのか、先を読みすぎているのかという違いがあって、ロベスピエールは先を見すぎているのだと思います。まっすぐすぎる、ということなのでしょうね」
――華やかでスピーディーな中に重いテーマのある作品ですが、幕切れのナンバーの演出には強いメッセージ性を感じます。この作品を観客にどう観てほしいと思っていらっしゃいますか?
「あのナンバーは、全体的には“悲劇的な終わり方に見えるかもしれないけれど、これは悲劇じゃないよ”と語り掛けていて、人権宣言がなされて民衆が時代を変えたという明るい終わりを歌っているのだと思います。ただ、(演出の)小池(修一郎)先生は、一人一人、自分の役であの場面には出てくださいとおっしゃっているので、みんなが明るくポジティブというわけではないです。貴族には貴族の思いがあると思うし、僕もロベスピエールの心情で歌っています」
――今回は悪役をベテランの方々が担当されていて、厚みのあるドラマとなっていますが、カンパニー全体の空気はいかがですか?
「どの公演でもそうですが、すごくいい空気ですよ。ベテランの方も若手に混じってくださって、岡(幸二郎)さんなんてグループLINEに入ってくださっています。ベテランの方々が優しく、どしっと存在してくださるから若手も思う存分、芝居ができる。すごい方々が揃っていますから、稽古を観ているだけでもとても勉強になりました」
知識無しに飛び込んだ大作『エリザベート』
撮影終了時、率先して椅子を元の位置に戻して下さった古川さん。ちょっとしたところに気さくさが覗きます。(C)Marino Matsushima
「オーディションに合格して、初の本格ミュージカルがこういう大きな作品になったことで、知識がなくて逆に良かったと思いました。何も知らずに稽古に臨んだからはじめは、後ろから聞こえてくるアンサンブルの声で体が“おっ”となるほどの迫力に、ルドルフ役の3人(みな初役)だけが飲まれていました。“ここはすごいところだぞ、やばいぞ”と。歌にしても痛い目を見たけれど、そこで自分がダメだと思えたからこそ頑張れた。そういう意味で、無知のまま飛び込んでいってよかったのかなと思います」
――ルドルフ役はどのように作っていらっしゃたのですか?
「台本はもちろん、歴史の本もいろいろ読んで準備しました。ルドルフの出番はほんの20分ほどしかないけれど、ずいぶん長い時間のことが20分に纏められていると思います。トートはじめ、登場人物一人一人との関係性を深めるのに、かなり歴史の本を参考にしましたね。
12年の初出演の時には、ルドルフが“悲劇の皇太子”と呼ばれていることもあって、自分の中では悲劇的な部分を強く押し出したルドルフになっていたかもしれません。小さいころに受けた待遇をそのまま引きずった弱い人物として作っていましたね。
『エリザベート』写真提供:東宝演劇部
――拝見していて、何かを成し遂げようとしていて、結果的に成し遂げられなかったという悲劇味が感じられました。
「(巻き込まれる悲劇でなく、自らの行動の結果)生まれる悲劇にしたいなというのはありました」
――トート役のwキャストのお一人は井上芳雄さん。ルドルフ経験者でしたが、アドバイスなどは?
「いくつか頂きました。芳雄さんのトートは人間らしいというか、死が人間の姿になるとこうなると思えるようなトートでしたね」
――今年はどんなルドルフに、と考えていますか?
「前回、新しくルドルフと向かい合って、一から作ってみようと思ったんですけど、今回は前回作ったルドルフをベースに作っていっていけたらなと思っています。そこからまた変化していく部分もあっていいと思うし、全く同じになってもいいと思っています」
『エリザベート』写真提供:東宝演劇部
「そうですね。なかなか同じ役を3回出来ることも無いと思うので、そうしていきたいですね」
年明けにはもう一つの代表作『ロミオ&ジュリエット』が待機
――『エリザベート』の後には『ロミオ&ジュリエット』も控えていらっしゃいます。14年にロミオ役で初出演されましたが、この時もオーディションだったのですか?「そうです。ロミオ役を受けて下さいと言っていただき、課題曲を勉強しました」
『ロミオ&ジュリエット』撮影:渡部孝弘
「どうなんでしょう。個人的には、やりたい役を選んでいいよと言われたら、僕はマーキューシオもやってみたいですね。魅力的な、いい役だなあと思います。さんざん喧嘩したりしているけれど、死ぬ前の最後の瞬間に、ロミオに対して一言だけ「ジュリエットを愛し抜け」と言う。その一言がマーキューシオのすべてを物語っているんじゃないか、素敵だなと思います。ロミオは毎回、ここで涙腺が脆くなります(笑)」
――歌とドラマが比較的はっきり分かれた形式のフレンチ・ミュージカルはこの作品が初めてだったのですよね。
「全然違和感はなかったです。まずはDVD版を観て曲が全部いいなと思いましたし、自分が出てみてもすごく好きな作品でした。共演者の皆さんも魅力的でしたし。」
――『エリザベート』『ロミオ&ジュリエット』『1789』と古川さんは小池修一郎さんの演出を数多く受けています。どんな演出家だと感じますか?
「はじめからイメージしていらっしゃるものがあって、それを一場面、一場面、丁寧に作っていらっしゃいます。ご自身でやって見せてでも役者に(細部のニュアンスを)伝えてくださることもあるし、時には役者が自分でわかるまでやらせてくださることもありますね。手をこういうふうに動かす、というような細かいところまでこだわりを持っていらっしゃると思います」
――ロミオ再挑戦にあたって、ご自身で課題にされていることはありますか?
「まずは歌ですね。言ったらきりがないですが、音程も、音圧も、表現ももっと高めていきたいです。今回“新バージョン”ということで、おそらく変わってくる部分もいろいろあると思うので、前回のルドルフみたいに、一から洗い直したいですね」
*次頁からは古川さんの“これまで”をうかがいます!