“嘘のない芝居”に懸命に取り組んだ
『ユタとふしぎな仲間たち』東北公演
『春のめざめ』(2010年)撮影:下坂敦俊
「あの作品も思春期ならではの葛藤や、大人からの抑圧への反発を描いていて、種類はちょっと違うけどちょっと『ウェストサイド物語』と似たところがあるので、そのころの感情が今に役立っているような気がします。DVであったり自殺や性に関してなど、あまり自分たちの身近にはないようなことが題材になっていたので、みんなで調べたことを発表し合ったりということをよくやっていました。調べて、意見を出し合ってみんなで考えながら作ったという感じですね。出演者の平均年齢も若かったです」
――次の『キャッツ』ではマンゴジェリー役。泥棒カップル猫役で、アクロバットもあるお役です。
『キャッツ』撮影:佐藤アキラ
――11年、12年には『ユタと不思議な仲間たち』東北公演で全公演、ユタを演じました。被災された方々を招いた、劇団の手弁当の公演で、学校の体育館など舞台機構のないところで上演できるよう、演出も工夫されていたのですよね。
『ユタとふしぎな仲間たち』(2011年)撮影:荒井健
――舞台のない会場では、観ている子供たちの、文字通り目の前での演技だったわけですよね。
「言葉に言い表せない空気がありました。いじめられっ子のユタが“死にたくなって”という台詞を言うと、空間の色が変わるというか、それまで団扇を仰いでいた子供たちの手が、ぱっと止まるんですよ。死というものを本当に身近に経験した子供たちから素直な反応が出てくることが痛切に感じられたし、演出家からは“絶対に嘘をつくな”と言われました。嘘の芝居をしたらここに来た意味がないぞ、と。体力的にもハードでしたが、この作品を通して自分に何ができるのかとみんな考え続けて、ただただ嘘のない芝居を目指していました。本当に貴重な体験をさせていただいたと思いますね」
――ご覧になった方々に、何が出来たと感じますか?
「僕としては、作品の2時間だけでも、笑ったり驚いたりしてもらったりするなかで、少しでも生きる勇気を持ってもらえたらいいなと思っていたのですが、現地ではたくさん触れ合えたわけではないので、実際どう感じてくださったのかは正しく理解できているわけではないと思います。でもある日、お見送りの時にご高齢の男性が、何も言わずに泣きながら僕の手を握ってくれたことがあったんです。ああ、何かを感じていただけたんだな、参加してよかったなと思いました。僕自身、劇団の演目を観ていて感じますが、演劇には観る人を動かす力が確かにある、と思えます」
*次頁では『リトルマーメイド』『コーラスライン』、そして今後のヴィジョンをうかがいます!