三代目襲名 直行から隆次郎へ
関西を中心とした大衆演劇ブームが白熱するさ中、父から名跡を継ぎ『三代目 小林隆次郎』を襲名した小林直行。兄・小林真とともに小林劇団を盛り立てる彼の想いを解き明かしてゆく。ガイド:三代目襲名おめでとうございます。この話はいつくらいから決まっていたんですか?
隆次郎:ありがとうございます。襲名は去年の後半には決まってましたね。
ガイド:「お兄さんの真さんが継ぐんじゃなくて直行さんが継ぐのか」と思いました。どんないきさつがあったんでしょうか?
隆次郎:前々から祖母や両親から僕が"隆次郎"を継ぐようにと言われていたんです。兄も「俺は"隆次郎"は合わないから」と僕に襲名をすすめてくれてました。
ガイド:真さんはどちらかと言うとお母さんの真弓さんタイプですね。しかし代々受け継いだ名前だけに良くも悪くもイメージというものが強いと思います。重みを感じてしまうことはありませんか?
隆次郎:重みはあるんだけど僕はプレッシャーに強い方だから(笑)。祖父や父のイメージも全部うけおえるかはわからないし、自分らしさを大事にしていきたいと思っています。
演出を練り直した関西公演
ガイド:2014年に小林劇団を初めて観た時は、他にくらべてすごく真面目な泣きの芝居をする劇団だと感じました。その魅力は基本的には変わらないと思うのですけど、今年の関西公演(2016年2月明石・三白館、3月大阪・庄内天満座)ではけっこう笑いの要素が入ったり崩している部分がありましたね。隆次郎:そこは意識した部分ですね。地域によって好まれる芸風は違ってくるんですが、2年前に関西に来た時はちょっとガチガチに固すぎたかもしれないなという反省があったんです。それが好きなお客さんもいてくれたけど、一般的にウケたかというとそうじゃなかった。
ガイド:入り口として観やすい芝居を増やすというのはいい考えだと思います。何回か観れば自然と小林劇団の神髄もわかってくると思いますし。今の方向性を決めるまでに、劇団の中ではどんなやりとりがあったんですか?
隆次郎:同じことばかりやり続けていても仕方ないですしね。真面目な芝居ばかりだと役者も神経をすり減らしてしまうし、ちょっと肩の力を抜いていこうということになったんです。僕はどちらかというとなんでも崩したがるほうだから、向いているかもしれないです。
ガイド:反響はどうでしたか?
隆次郎:当たったと思います。2月の明石にしてもものすごい大入りで来年の公演も決めてもらえました。「受け入れられた」という気がしましたね。
真と隆次郎
ガイド:真さんとはいくつ離れてるんですか?隆次郎:4歳ですね。
ガイド:ちょっと離れていますが、どんな関係ですか?
隆次郎:昔からケンカとかはあまりしなかったですね。今もよく二人で飲みに行くし、仲はいいほうだと思いますよ。
ガイド:演目とか決めるときにぶつかることはありませんか?
隆次郎:それはないですね。ライバル心はお互いあると思うけど、ぶつかって空気が悪くなったら意味がないですからね。協力して小林劇団を良くしていきたいと思っています。
ガイド:お互いに立て合ってる部分があるんですかね。
隆次郎:そうですね。僕は基本的に兄を立てるようにしていますし、兄もなにかと僕に譲ってくれる部分があるんです。
ガイド:これからは二人とも座長だから大事な心がけですよね。
隆次郎:二人ともあまり似てないからうまくいくんだと思いますよ。別に「劇団をこうしていこう」とか話することはないですけど、自然に理解し合えているんだと思います。
酒と隆次郎
ガイド:真さんもそうですけど、隆次郎さんもお酒や飲みが大好きなイメージがあります。隆次郎:大好きです……けど大半がお付き合いですよ(笑)。今年の関西では新地やミナミには飲みに行かずに劇場の近所ばっかりですしね。
ガイド:自分で行くならどんなお店が好きですか?
隆次郎:料理にこだわってて偏屈な感じの居酒屋が好きですね。一見「このオッサンまともな料理つくれるんかな?」みたいな怪しい店のほうが当たりだった経験が多いです。
ガイド:庄内ではいいお店ありましたか?
隆次郎:『一期一会』っていう、まさにさっき言った通りのお店に通いまくってます。たぶん食べログにも載ってないし怪しい店なんだけど、魚が美味しいし、工夫していろんな料理を作ってくれるんですよ。気さくなマスターだから、カウンターの中に入れてもらって生ビールついだり皿洗いしたりしてます(笑)。
今後の隆次郎
ガイド:5月25日には座長襲名の記念公演が熊本の片岡演劇道場で開催されますね。玄海竜二さん初め、九州演劇協会の座長たちが勢ぞろいする豪華イベントですが、緊張とかありませんか?隆次郎:がんばろうと思うだけで緊張やプレッシャーはないですね。こんなに大きなイベントをやらせてもらうのは初めてなので「緊張するかな?」と思ってたんですが、今のところ全然ないです(笑)。
ガイド:タフですね(笑)
隆次郎:我ながらそうですね。うまく活かせていけたらと思います。兄は芸術家肌ですごい才能がある役者ですけど、繊細でうたれ弱い部分があるから、そこは神経の太い僕がカバーして、みたいな具合に。
ガイド:真さんと隆次郎さんの相舞踊は他にない緊張感やコンビネーションがあると思っていたんですけど、やっぱり今おっしゃったような意識があるからこそのものなんですかね。
隆次郎:自分たちではわからない部分だけどそう思ってもらえたなら嬉しいです。
ガイド:隆次郎さんが一役者として、今後力を入れていきたいと思う部分ってありますか?
隆次郎:基本かもしれないけど、男がやる男役はとても奥深くて難しいと思うんです。ただの男っぽさ以上のものを見せないといけませんしね。綺麗なだけではいけないけど汚くなってはいけない、力強くなくてはいけないけど乱暴になってはいけない。今はそこらへんを極めていくことにとても興味があります。
※一部の写真を「よりより」さんからご提供いただきました