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「産む産まない問題」渦中の女性たちの焦燥感

産むのか産まないのか、産めるのか産めないのか。個人の選択であるはずの結婚や出産が、個人の枠を超えた問題となっている。社会的抑圧も加わって、渦中にいる女性たちの苦悩は増すばかりだ。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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「産む、産まない」が個人の選択の枠を超えて

産むのか、産まないのか。いや、産めるのか、埋めないのか。

女性が結婚、出産するのが当たり前だった時代から、社会制度は止まったままだ。

女優の山口智子さんが、「子どもを産まない人生を選択した」とインタビューで語ったことが話題になった。

「産む、産まない」は個人の選択ではあるが、社会的、あるいは周囲からの無言のプレッシャーを感じたことのある女性は多いだろう。そんな女性たちにとって、彼女の言葉はある種の救いになったのかもしれない。

逆に、つい先日、大阪市立中学の校長が、「女性にとって最も大切なことは、子どもをふたり以上産むこと」と言って物議を醸した。子どもを産んでから、キャリアを積めばいいと校長は言うが、そういう社会制度は整っていない。

「産まなければいけない」と女性に思わせるような社会に向かっているような気がしてならないのだが、実際、渦中にいる女性たちはどう思っているのだろう。



迷いと葛藤の日々、「産む決断はできない」

仕事、結婚、出産、子育て。すべてをやらなければいけないプレッシャー。

仕事、結婚、出産、子育て。すべてをやらなければいけないプレッシャー。

「迷いから抜けられないと、自分では思っています。開き直ることもできず、従うこともできず、中途半端なままでうろたえている気がする」

34歳になる会社員のミチコさんはそう言う。大学卒業後、中堅メーカーに就職して10年を超えた。この間、少しずつではあるが、会社の福利厚生は整ってきて、女性が働きやすい環境に近づいてはいる。

「それでも、出産を機に多くの女性がやめていく。仕事をばりばりやりたいと思ったら、産んで育てるのはむずかしい。私も2年前に結婚はしたんですが、まだ“産む”決断はできないでいます。もう時間がないと焦る気持ちが最近、どんどん強くなっている」

結婚と同時期に、夫の会社が他社と合併。夫はリストラされずにすんだものの、給与体系が変わって年俸制になり、残業代もなくなった。

「感覚としては給料は目減りし、夫は疲弊しています。こんな状態で産めるとは思えない。私も決して給料が高いわけじゃないしね」

産んで育てていくためには、以前のように専業主婦でもなんとか暮らしていける社会になるか、もしくは保育園などの環境が整っていなければならない。

しかも従来の性役割は、今は通用しない。たとえ夫の給料だけで暮らしていけるとしても、働きたい、仕事で自己実現したいと思う女性も増えている。生き方が多様化しているのに、社会の制度や環境は多様化していないのが現実だ。


「産む環境にないから産めない」どう生きたらいいのか

「産まなければ」というプレッシャーと、「産めない」環境がある。

産みたい気持ちがあっても、「産む選択」ができない環境。

「それ以前に、結婚しないと子どもを産む環境にないことがネックですね」

契約社員のアオイさん(36歳)はため息をつく。うっすらと子どもがほしい気持ちはある。ただ、シングルマザーの大変さを見るにつけ、自分には無理だという思いが強くなっていく。

「友人にシングルマザーがいるんです。彼女は出産直前に離婚して、ひとりで産み育ててきた。近くに親も親戚もいなかったから、私たち友人が手助けしたんですよね。私たちはむしろ子育ての手伝いを楽しんでいたし、ずいぶん手助けをしたつもりだったけど、やっぱり彼女自身はものすごく負担がかかっていたみたいで……結局、体を壊して今は生活保護をもらいながら療養中。この先、仕事が見つかるかどうかもわからない。女性の社会的立場や労働条件が変わらない限り、シングルでは産めないとつくづく思います」

だからといって、「産まない」宣言をする気にもなれないと言う。

「せっかく女にだけ備わった機能だから、出産をしてみたいという気持ちはある。ただ、産みっぱなしにはできないから、“機能を使いたい”だけで出産するのは違うと思うし。どうやって生きたらいいかわからなくなっているのが、私たちの世代かもしれませんね」


親の介護も加わって……予想外の出来事に悩む女性

介護など、家族の問題により、結婚や出産の選択ができない女性もいる。

介護など、家族の問題により、結婚や出産の選択ができない女性もいる。

もっと激しく懊悩(おうのう)している女性もいる。

「今年40歳なんです。仕事はそこそこ充実しているけど、結局、結婚せずにここまで来てしまった。もう産めないかも、というぎりぎりのところで今、焦っています。ただ、去年、父が倒れて、今は母と私で介護もしている状況。こんな状態では、結婚も出産も無理なんじゃないかと半分思いながらも、時間を見つけて婚活しているんです」

ミナさん(39歳)は、泣きそうな顔でそう話してくれた。一人っ子のため、親のめんどうは見るつもりでいた。ただ、父親の介護は予想外だった。

施設に入れたいと思っているが、母親は「それはできない。私が介護する」の一点張り。ヘルパーさんにも入ってもらっているが、70歳近い、体の弱い母はすでに疲れ果てている。ミナさんと母親とのいさかいも増えた。

「結婚できるの? 産めるの、産めないの? って、いつも頭の中で自分が自分に問いただしてる、そんな状況ですね。せめて仕事でミスをしないようにしないと。これで仕事を失ったら、なにもかも終わりだと思うから……」

結婚や出産が、個人の選択のキャパを超えてしまうケースもある。人生は予想通りにはいかない。

結婚して、産んで育てて、さらに仕事もしなければいけない。その上、親の介護まで自宅でせよ、という。そんなプレッシャーを社会が女性に与えるのは間違っている。

結婚も出産も仕事も、女性のライフスタイルの中のひとこま。何をチョイスするのか、すべてをチョイスするのかは個人の決断。それでも、自分ではチョイスするつもりのなかった介護などの問題が人生に入り込んでくる。生きていくというのは、ただそれだけで、非常にむずかしいのだとつくづく思わされる。

「産むリミット」が近づいている女性たちの迷いや葛藤は、第三者が想像するよりずっと深い。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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