高血圧の入浴は危険か否か
最近では日常生活においても、自宅に血圧計を置いている方も多いですし、温泉やスーパー銭湯などでも血圧計を置いてあるところがあります。こうした機器を使ってお風呂の前に何気なく血圧を測ってみたという方もいるのではないでしょうか。
介護や医療の現場でも、お風呂に入る前に血圧を測定することがあります。例えば、介護保険でのデイサービスやデイケア、訪問入浴といったものです。通常、お風呂で体調を崩さないよう、入浴の前に看護師等が体調チェックのために血圧を測定します。
<目次>
- 入浴前の血圧は医師も判断が難しい
- 入浴前の血圧が「160/100mmHg」超えの場合、事故リスク増
- 入浴時の事故・体調不良で多いもの……発熱、呼吸困難、意識障害など
- 科学的根拠に基づく高齢者の安全な入浴とは
高血圧時の入浴が危険かどうかの判断は難しい
実際に介護現場では、入浴前の血圧が高い場合は「今日のお風呂はやめておきましょう」となることがあります。しかし、この判断が実は難しいのです。上の血圧(収縮期血圧)の正常値は、家庭では135 mm Hgまでですが(家庭と診察室では数値が異なることが多いため「家庭血圧」として区別することがあります)、これが例えば170mmHgならダメなのか?160mmHgくらいならお風呂に入っても健康面で大丈夫なのか?ということです。
お風呂が好きな高齢者はぜひ入浴したいと言い、介護者はなにか体調不良があってはいけない、と慎重になります。実際に私が以前行った調査では、実に介護職員の89%がこの判断は難しいと回答していました。そのため、86%の介護者が入浴を可とする「基準」が欲しいと答えています。
入浴前の血圧は医師も判断が難しい
入浴可否に関して介護者が判断できない場合、普段受診している人については主治医が判断を問われることになります。こうした問い合わせを私も診療現場で何度も受けました。しかし、これまではこの「お風呂に入って良いかダメなのか」というシンプルな問いにすっきり応えるだけの調査研究がありませんでした。そのため、医師も個々人の経験や実験的な研究結果から「おそらく大丈夫」と判断せざるを得なかったのです。お風呂を研究する私にとっても、長年抱えていた研究テーマでした。
入浴前の血圧が「160/100mmHg」超えの場合、事故リスク増
こうした中、私たちの研究グループでは以下の研究結果を発表することができました。入浴前の160/100mmHgを超える血圧は、入浴に関連する事故のリスクになることがわかったのです。
具体的には、入浴前の上の血圧が160mmHg以上であることが入浴事故の発生と3.63倍の関連がありました。また入浴前の下の血圧が100mmHg以上であることは、同様に事故と14.71倍の関連がありました。
この結果は全国の2,330カ所の訪問入浴を実施している事業所に対して調査を行ったもので596件の入浴事故事例、及び1,511件の正常事例を比較解析した統計学的な結果です。
入浴時の事故・体調不良で多いもの……発熱、呼吸困難、意識障害など
それでは入浴に関連する事故や体調不良はどのようなものが多いのでしょうか。今回の調査では、多かった症状順に、発熱、呼吸困難、意識障害、嘔吐などでした。なぜ血圧が高いと入浴でこれらの症状が出るのか、その詳細の解析はこれからですが、血圧が高い事はなんらかの体調不良を発生しやすい兆行になると考えられます。
科学的根拠に基づく高齢者の安全な入浴とは
これまで安全な入浴が可能か否かについての判断は主に介護者や医師の経験に任されていました。しかし、この研究の結果は、今後の科学的根拠に基づく判断の参考になると考えられます。もし、血圧が高い場合でも、介護の現場で家族やご本人が強く希望され、入浴サービスを提供しなければならないときは、そのリスクを説明し、同意してもらう(インフォームドコンセント)根拠にもなるでしょう。
また、この結果は介護の現場だけではなく、高齢者が自宅で安全にお風呂に入る時の参考になると考えられます。
ただ、この研究結果による血圧値はやはり絶対的なものではありません。個人差があり、入浴の可否判断は普段の体調などを踏まえて個別に行われるべきものであるということをご考慮ください。
この研究結果を参考に、ぜひ安全な入浴を楽しんでいただきたいと考えています。
■参考リンク
【東京都市大学・研究成果】高齢者160/100mmHg以上の高血圧 及び37.5℃以上の発熱時、入浴事故のリスク増
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