誰もが最初は“ルーキー”だった
寒さも和らぎ、いよいよ新社会人がデビューする日が近づいてきた。新生活を控えて、ルーキー達の多くは、期待と不安が入り混じっていることだろう。社会人になったからには、マナーを守って身なりを整えるといった基本はもちろん、仕事を難なくこなし、周囲との人間関係も良好で、プライベートも充実しているといった、誰かに憧れの念を抱かれるような存在=男前な存在を目指したい。
「そんな“憧れの存在”になるなんて、夢のまた夢」と思っているかもしれないが、待ってほしい。つい忘れがちだが、どんなに男前な大人にもルーキー時代はあったのだ。たとえば名声を手にした経営者であっても、著名人であっても、だ。ではどんなルーキー時代だったのか? 憧れの大人になるような片鱗を当時から見せていたのか?
約900名いるAll Aboutガイド。その中には、担当編集が思わず惚れ込んでしまう人たちも少なくない。専門家としての活躍に加えて、ビジネスの分野でも結果を残す彼らは、言うなれば「男前社会人」である。いったい彼らはいかにして、その充実したステータスを得たのか? ルーキー時代のエピソードを通じて、「男前社会人」の作り方を探ってみよう。
ストイックさと行動力の男前:小寺良二さん
大学生の就職活動ガイドの小寺良二さん
就活のプロである小寺さんだが、担当編集者が男前と感じるポイントはどこにあるのだろうか。
「2014年に一念発起してプロボクサー試験を受け、年齢制限ギリギリで合格。これは一例ですが、小寺さんはつねに目標を決めて、ストイックに突き進んでいます。加えて、臆せず人に会って、意見を引き出す姿も男前です。(詳しくは『ザックJAPAN通訳に聞く!W杯につながるキャリアの脱線』などをご覧ください)。北海道で生まれ育ち、大学進学時に渡米、その後アクセンチュア、リクルート、そして独立と、輝かしい経歴の持ち主で、その人生における決断力もカッコいい!」
目標に対してストイックで編集者から男前と評される小寺さんだが、リクルートで求人広告の営業をしていたルーキー時代を振り返っていただいて出てきた言葉は、ちょっと意外なものだった。
リクルートで営業をしていた頃の小寺さん
実は問題児だったルーキー時代
「新人ながら漫画喫茶によく通う生意気な問題児だったと思います(笑)」現在の小寺さんからは想像しにくい話だが、そのルーキーらしさに少し安心感を覚えてしまう。そんな問題児も、仕事をする時はいつも熱い思いを抱いて働いていた。それは、「どうすればもっとうまく企業と応募者をマッチングさせることができるだろうか」ということだ。
「求人広告の会社なのでたくさん広告を出してもらうことがビジネス的には解決策ですが、応募者が増えても採用したい人材がいなければ意味がない。企業側だけでなく、応募者の意欲や能力を高めたり、視点を広げることもマッチングにつながるのではないかと思ったのが、若者の就職支援分野のプロになろうとしたきっかけです」
「もっとうまく企業と応募者のマッチングできないか」と考えていた
肩の力が抜けているけど、パフォーマンスは高い人が男前
自身が男前であることはもちろん、キャリアインストラクターとして若者の就職支援をする中で、数多くの男前を輩出してきたともいえる小寺さんは「男前社会人」をどのように考えているのだろうか。「どんな分野であれ「自分の仕事に誇りを持って圧倒的なパフォーマンスを発揮している人」。「ワークライフバランス」という言葉が最近よく使われていますが、私は仕事が中途半端でプライベートだけが充実している人にあまり魅力は感じません。逆に仕事で肩の力が抜けていてリラックスしてやっているけれど、パフォーマンスが高い人ってカッコイイと感じる。そして、仕事を通じて自己実現できている人はやはり男前だと思います」
絶対に「無理」と言わない男前:森俊憲さん
筋肉トレーニングガイドの森俊憲さん
“髪型やファッションと同じように、ボディケアも自身の個性を表現する重要な手段”と提唱。自らそれを実践してきていることは言うまでもない森さんだが、ただストイックに身体と向き合って、見た目が男前というだけではない。
担当編集は、「周囲を前向きに明るくしてくれて、実行力もある。それに、トレーニングに関しては、多忙なビジネスパーソンなど読者の気持ちをよく分かってくれているところがステキ! 『無理な食事制限ダイエットなんて続かない。締めのラーメンだって美味しいから、筋トレして美味しいものを食べるほうがいい……』。そんな考えが男前」と評する。
毎日終電帰りの生活で見つけた筋トレのノウハウ
森さんは大学を卒業後、大手電気機器メーカーに就職。携帯電話のマーケティング業務に従事するルーキー時代を過ごした。「朝7時前に会社の寮を出て、帰りは終電近く。ジムに行くなんて、夢のまた夢。それでも、学生時代につけた筋肉は落としたくない。そうなると、自分で道具を使わずにできる運動を考えるしかなかった」
会社員時代の森さん。その後独立をする
「ふと周囲を見渡すと、世の中は生活習慣病や、ダイエットの失敗に苦しむ人たちで溢れている……。ひょっとしたら、自分が実践してきたトレーニングメソッドが、役に立つのではないか」
こうして自身の会社「ボディクエスト」を立ち上げ、これまでに10,000名以上への体型管理カウンセリングやパーソナルトレーニング指導を行ってきた。
「行動力と自信」に溢れた人こそが男前
身体を鍛えるメソッドを追求し、それを人のために伝えてきた森さんは、男前な社会人を「行動力と自信」に溢れた人と定義する。「新卒で入社するとき、新入社員はほぼ横並びのスタートです。それでも、年数が経つにつれ「できる・できない」の差がだんだんと開いてくる。そこには、社会人になってからのフットワークの良さや積極性といった「行動力」の違い、そして、見た目や内面を含めた「セルフイメージ(自信)」の描き方の違いが大きいと思います。こういった「行動力と自信」に溢れた人は、男前です。そして、その男前なイメージが定着すれば、任される仕事の量や質にも差が出てくるはずです」
こう語る森さんは、男前でありたいと常々思っているという。そうあるために心がけていることを教えてくれた。
「決して『それは無理です』と言わないこと。私が提唱する『へやトレ』などのメソッドのベースは、『マイナス(引き算)ではなく、プラス(足し算)の考え方』ですから、安易に『できない』と言ってしまうのは、私の信念に反することです。
挑戦には不安がつきものですが、リスクをとるから人は頑張れるし、成功した時の喜びは計り知れないものになる。この繰り返しが、自身を大きく成長させ、新たな理想の自分を作り出します。こうした生き方が、男前な生き方だと考えています」
自由を勝ち取る男前:四方宏明さん
テクノポップガイドの四方宏明さん
そんな「趣味人」としての充実の一方で、大手外資メーカーに入社し、しっかりと実績を出してきた。そうした“ビジネスの顔”をしっかり持ち合わせながら、「テクノポップ」だけではなく、音楽全般とその周辺文化に対する情熱が30年以上たった今も衰えない。これが、担当編集者が男前と評する所以だ。最近では「共産テクノ」の世界を掘り下げ、世界で(恐らく)唯一のガイドブックを発売した(Amazonでは4月1日から)。音楽に対する底なしの探究心も編集者を驚かせてきた。
「あの」ブランドとの出会いが人生を変える
1980年前後、テクノポップ・ブームの真っ只中に大学生だった四方さんは、YMOやKraftwerkはもちろん、近未来の世界を描いたBugglesやFilmsにもハマり、この原体験が“テクノポップガイド”になるきっかけになった。もう一つ、ルーキー時代の「あのブランドとの出会い」も、今のガイド活動にも大きく影響を与えたのだという。「入社3年後に渡米、アメリカのオフィスでも使い始める人が出てきたMacintoshが欲しくてたまらなくなり、 512Kを買ってしまいました。それ以降、Appleに散財するように……。時は経ち、90年代後半のインターネット黎明期にMacintoshを使って資料を集め、世界中のいろんな人とつながりながら、テクノポップのウェブサイト(techno-electro-synth POP ACADEMY)を作り始めました。これがAll Aboutでのガイドとしての仕事に結び付いていったのです」
アメリカの西海岸に憧れ、入社3年後に渡米。そこで、Macintoshとの運命的な出会いを果たす
好きなことに打ち込み「自由を勝ち取る」人こそが男前である
テクノポップとMacintoshという2つにとことん情熱を注ぎ、それを突き詰めてきた姿勢は、四方さん自身が持つ「男前論」に通じるところがある。「働いて経済的に自立することも大事だと思いますが、精神的に自立することはもっと大事ではないでしょうか? その2つを手に入れることは、自由を意味するからです。
だから、社会人になっても、本業以外にも好きなことがあれば、諦めないでください。忙しくても、好きなら時間は生み出せます。そんなことを知ってるの、そんなことをできるのは、あなたしかいないよと言われるくらい極めてください。上手くいけば、それ自体が仕事になる可能性もあります。そんな自由を勝ち取ろうとする人が、僕が考える男前な社会人です」
Macintoshとの出会いは、その後の活動に大きな影響を与えた
「ジェンダーにかかわらず、もっと男前な人達はいますので、自分がどこまで男前なのかはわかりません。会社にいた時も、会社を卒業してからも、好きなことに打ち込んできたので、男前に入れてもらえると嬉しいです。今の理想は、神戸=東京=海外、ほぼ3分の1の割合で住み分けすることですが、まだ実現には至っていません」
憧れの存在になるためには
三者三様のルーキー時代を送り、それぞれが思い描く男前論も違った。しかし、どこか1本の筋が通っているとすれば、三者ともにある種の“生き方”を発信しているように見える。小寺さんは若者の就職支援を通して男前の原石を磨き、森さんは自身のノウハウを伝えることで男前としての自信を養っている。四方さんも、好きなことに打ち込み、そのジャンルを発信することで男前を体現してきた。
自分自身が輝くことだけでなく、周囲にも影響を与えられる……いわば「男前のインフルエンサー」のような存在を目指すことこそが、憧れの存在になるための近道なのだろう。