建築家フランク・ロイド・ライト設計の旧帝国ホテルを偲ぶオールドインペリアルバーと椅子のある風景
どこにいても、「何気なくある椅子」が気になる。そして、その場所、空間の一部になりきっている風景がそこにある。
今回の椅子のある風景は、日比谷、帝国ホテル東京、創建当時の時間が漂う老舗バーに佇む椅子風景。
帝国ホテルといえば、言わずもがな日本を代表するホテル、千代田区内幸町にある帝国ホテル東京だ。この帝国の2階に老舗バー:オールドインペリアルバーがある。
創建当時の空気感というか、独特の世界観が漂う空間は、重厚で心地いい。
照明の明かりがほのかに映る低い天井、モスグリーンのタイル壁、エンジのカーペットに鈍く浮かぶ幾何学模様の背を持つ椅子たち。平日の午後というまだ陽のある時間だが、ここは既に「夜の場」と、なっている。
おとなりの席では、初老の男性が息子らしい若者と談じている。「こんな時期から親父と此処かぁ・・・」と羨ましい。
ライトが残した遺産空間
以前此処に来た時に支配人に尋ねたことがある。『此処は、アメリカ人建築家:フランク・ロイド・ライト(以下ライト)がデザインした「ライト館」。当時のままなんですか?』と。
すると流石気の利く支配人、古い建築雑誌や本を出してきて色々と説明いただいた。
ライトは使用する石材から調度品に使う木材の選定に至るまで、徹底した管理体制でデザインした、という。ライトがデザインし紆余曲折を経て完成した1920年代(正確には1923年7月)当時のものは、店内奥の壁面と壁画、カウンター背面の壁、スタンドライトとサイドデスク、テーブルなどライトの遺産が残る空間だ。
後は復元品だが、ライトの新館は1967年に閉鎖され、跡地に建設された近代的外観の新本館は、1970年の日本万国博覧会開会に合せて、同年に竣工したから半世紀近くにはなる。復元品と言っても味のある「顔」になっている。
(ちなみに、ライト館の玄関部分は博物館明治村(愛知県犬山市)に十数年の歳月をかけて登録有形文化財として移築再建されている。)
ライトの視点、息遣いが伝わってくる当時の壁面と家具
改めて「当時」が残っている奥の壁を見る。造作した大谷石の枠に幾何学模様の壁画。風化や変色はあるが、それは本物の証。
ぐっと近づいてみると、もっとリアルにモノが見えてくる。壁画の構成や色使い、大谷石の彫刻造形など植物や生物のディテールに造詣が深かったライトの視点、息遣いが深々と伝わってくる。
支配人から差し出された古い建築雑誌に掲載された当時の室内写真がある。
店内に残されている「当時」の壁面はロビーか通路の一角にある暖炉だろうか、まさに当時の空間を切り取るように此処にある。
壁画の前で同調するテーブルと椅子のセット(すべてライトのよるデザイン)は、時間が止まったように佇んでいる。
椅子は当時のものではないが、テーブルは20年代当時のもの。テーブル天板にズームすると長年の使用による傷や変色が、「顔」になっている。
六角形背の幾何学模様が特徴のフォルムの椅子はまさにライト・デザイン。まだスチールパイプ(鉄管)が普及使用されてない時期、木材が主素材である。通常木材を使用した椅子や家具といえば、まだまだ猫脚の曲線、新工法の曲木の時代。そこに木製による幾何学模様の椅子は、斬新でインパクトのあるデザインだった。
実は、椅子には兄弟がいる。
以前の記事になるが、【ライトが残した「帝国ホテルの椅子」1922年】で椅子や当時のライトのエピソードなど紹介しているので是非読み返していただきたい。
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