木村花代 大阪府出身。97年に劇団四季研究所に入所、翌年『美女と野獣』で初舞台。『キャッツ』『オペラ座の怪人』『ウィキッド』等多数のミュージカルでヒロインを演じ、11年退団。『パルレ』『ミス・サイゴン』などの舞台出演の他、コンサート活動も積極的に行う。『アニー』グレース役は15年に続いての出演となる。(C)Marino Matsushima
少女が主人公ということで「子供向け」と思われがちですが、実は「大人もはまってしまう」ミュージカル、『アニー』。その見どころの一つに、アニーと関わることによって大きく変貌してゆく人々のドラマがありますが、中でも「キーパーソン」と言えるのが大富豪ウォーバックスの秘書、グレースです。
チャリティ目的で彼の屋敷へ招く子供を孤児院に選びに来た彼女は、アニーをひと目見て気に入ってしまう。ウォーバックスとの交流をさりげなく後押しするいっぽうで、自身も思いがけないロマンスを経験してゆくこのグレースを昨年から演じているのが、木村花代さん。14年間在籍した劇団四季では『ウィキッド』グリンダ、『キャッツ』ジェリーロラム=グリドルボーン、『オペラ座の怪人』クリスティーヌなど数々の大作でヒロインを勤め、退団後は小劇場公演を含め、様々な演目に精力的にチャレンジ中です。そんな彼女にとって、『アニー』はどんな魅力を持つ作品でしょうか。
演技の原点を再認識できた昨年の『アニー』
『アニー』2015年公演より
――昨年の『アニー』初出演、木村さんにとってどんな体験でしたでしょうか?
「これまでお母さん役を演じることはあっても、実際に子供と共演する経験がありませんでしたので、子供たちのエネルギー、パワー、お芝居に対するひたむきな思いに心打たれました。初心にかえって子供たちとまっすぐお芝居に向き合い、作ってゆくことができたなという印象ですね」
――「子役さん」は平均的な子供より大人っぽいイメージがありますが。
「私もそう思っていたのですが、実際にはとってもストレートでした。変化球を投げてくるかなと思うけどまっすぐな球が来るので、こちらもまっすぐに向き合っていましたね。それは演出のジョエル・ビショッフさんの意図でもあって、何かことさらにお芝居をしようとすると「それは違うんじゃないかな、アニーはまっすぐな女の子だよ」と指摘していらっしゃいました。(演技指導を受ける子供たちを観ていて)シンプル・イズ・ベストというか、「聞いて答える」という作業が一番難しいんだな、と改めて思いました。役者ってどうしても発信することに気をとられるけど、子供たちが「一生懸命聞く」ことを教わっている光景は大人の私たちにもとても勉強になりましたね。「聞く」ことによって、心が動いてお芝居になっていくんです。「聞く」ことは大事とわかってはいましたが、改めて実感できたのは大きな財産です」
――子役たちは9000人を超えるオーディションを勝ち抜いて選ばれるそうですが、大人のキャスティングは?
「オファーをいただきました。実は私は、映画版の『アニー』は観たことがありましたが、舞台版のほうはなかなかタイミングが合わず、それまで観る機会が無かったんです。どこかに子供向けのミュージカル、という意識があったのかもしれないですね。でもやってみると全くそういうことはなくて、大人がとっても楽しめる作品なんですよ!世界大恐慌という時代背景を踏まえたうえでドラマがしっかり作られていて、観に来てくれた大人の方が本当に喜んで観てくださっているのが、舞台の私たちにもすごく伝わってきます。
役作りについては、一昨年の映画『ANNIE/アニー』が参考になりました。この現代版の映画に出てくるグレース(ローズ・バーン)がお茶目でキュートで、秘書という肩書にとらわれず、アニーと一緒に悪戯しちゃうようなグレースで、とても素敵だったんですよ。私も格式ばった秘書ではなく、こういう親近感のあるグレースを演じたいと思いました。もちろん大富豪の秘書ですし、30年代のワーキングウーマンとして優秀な一面もあるとは思いますが、ウォーバックス邸の召使の人たちも親しみを持っていただけるよう意識しまして、召使役の方々が「新鮮」とおっしゃってくださったのは嬉しかったです。ウォーバックスに対しては「しっかり」、アニーに対しては「優しく」。何か起こっても怒るのではなく一緒に笑えるグレースでありたいと思っていました」
――ウォーバックスの慈善事業の一環として、クリスマスに招待する子供を孤児院に選びにきたグレースは、そこでアニーに「たまたま」出会ったのにも関わらず、すぐさま「この子を」と強く希望します。なぜ、彼女だったのでしょう?
「演出家からは、まさしくそこがグレースのポイントだと言われまして、ずっと『何なのだろう』と考えてきましたが、あれは一瞬の一目ぼれなんですよね。パッと目が合った時のフィーリングというか、例えばペットショップに入った時に、ひと目で「この子!」とひらめいたりする、そういう感覚なのだと思います。自分に共通するものを感じたということもあるかもしれません。小説版を読みますと、グレースについて「昔、アニーのようなキャラクターだった」という描写があるんですよ。だから彼女の言動がすごく理解できる。運命の出会いなのでしょうね」
*『アニー』トーク、次頁にまだまだ続きます。アニーのストーリーの陰(?)で人知れず育まれるグレースのロマンスは第二の見どころですが、実は台本に詳述は無し。役者の想像力が試される部分・大なのだそう。