A元一級建築士による耐震強度偽装事件が大きな社会問題になってから、早くも丸10年が過ぎました。無事に建て替え工事が完了したマンションも、それですべての問題が解決したわけではなく、住民には大きな負担がのしかかったままでしょう。
2015年10月には横浜市のマンションで杭打ちデータの偽装が発覚して、マスコミなどで大きく取り上げられていますが、2014年には同じ横浜市の別のマンションでも杭の施工不良による傾きが明らかにされています。どちらも問題が解消するまでには相当な年月がかかりそうです。
耐震強度偽装事件の後の出来事を少し振り返ってみると、別の建築士の構造設計によるマンションやホテルでも強度不足が判明したり、一戸建て住宅の筋交いが不足していたりといった問題の発覚もありました。
しかし、耐震強度偽装事件の大騒ぎの後で “新たに” 大掛かりな構造計算書偽造をする建築士は出てこないだろうというのが一般的な見方だったでしょう。
ところが、審査の強化を伴う改正建築基準法施行(2007年6月)を前にした駆け込み申請で再び偽造が発覚するなど、なかなか根深いものを感じさせる状況でした。
当時の報道でいつも気になっていたのは、大手デベロッパーによるマンションでも構造設計や構造計算が下請け、あるいは孫受けに出されていたり、一つの「個人設計事務所」が全国的に、かなり広範囲でマンションやホテルなどの構造設計を請け負っていたりしたことです。
また、2007年12月の朝日新聞報道によれば、国土交通省が認定した「構造計算適合性判定員」有資格者1,929人のうちの多くが、設計事務所や大手ゼネコンの設計部門に勤務する一級建築士であり、判定機関に勤務する “常勤の” 判定員は約120人に過ぎなかったようです。現在、どうなっているのかは不明ですが……。
つまるところ、複雑化した業務に対して人材が圧倒的に不足していると考えられるわけで、国や政治家が建物の安全のために一定のルールを作っても、そのルールを遵守、遂行するために必要な対策がしっかり練られたとはいえません。
人材の育成に重点を置いてこなかったことや、構造設計者あるいはゼネコンの下請け業者などにしわ寄せがいきやすい業界構造を放置してきたことに対する、国や政治家の責任も大きいと感じるのですが、いかがでしょうか?
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2008年1月公開の「不動産百考 vol.19」をもとに再構成したものです)
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