「日本の建築シリーズ第1集」の発行概要
「日本の建築シリーズ第1集」は2016年1月8日に発行されました。発行枚数は150万シート。印刷は凹版1色とグラビア5色の掛け合わせとなっています。『郵趣1月号』(公益財団法人日本郵趣協会)によると、凹版彫刻担当者は平等院鳳凰堂82円が佐々木裕史さん、旧東宮御所82円が植松浩二さんです。両名とも国立印刷局職員(旧技芸官)であり、過去に紙幣、切手ともに手がけた実績があります。同時発売の切手帳は完売状態
通常の切手に加えて、「切手帳 日本の建築」(売価5,800円)も同時発行されました。茶色・青味灰色・赤色の単色で印刷された単色凹版切手となっていて、発行枚数は2万部。当初インターネットによる通信発売を2月8日までとしていましたが、1月14日の時点ですでにほぼ品切れと聞いています。すでにヤフオクなどでも販売価格5,800円を超える価格で出品されています。国立印刷局・佐々木裕史さんの過去作品
凹版切手を観賞する際、原版彫刻者の過去の作品をさかのぼって見ていくのも楽しみの1つです。平等院鳳凰堂の彫刻を担当された佐々木裕史さんは、E五千円券の裏面にある燕子花の彫刻を担当した方です。燕子花(かきつばた)の群生している様子や1つ1つの花びらの質感が巧みに表現されていますし、紙幣の格調高い印刷の装飾としての役割も果たしている、まさに通好みの作品といえるのではないでしょうか。もう1つは「中山道の妻籠宿・馬籠宿」(1990年)の連刷切手で、佐々木さんは妻籠宿を担当されています。筆者にとっては思い出のある切手で、2005年3月(くしくも名匠チェスラフ・スラニアが死去した翌日でした)にドイツ連邦印刷局職員で凹版彫刻者ヴォルフガング・マウアーさんにお会いする機会があり、その際にとてもすばらしい切手だと賞賛されていたのをハッキリと覚えています。
国立印刷局・植村浩二さんの過去作品
旧東宮御所を担当された植村浩二さんといえば、E千円券の富士山です。富士五湖の1つ本栖湖から見た富士山の様子を描いた作品で、紙幣らしい壮麗な凹版彫刻といえるでしょう。植村さんの手がけた切手としては「新文化人切手第12集」(2003年)の斎藤茂吉などが挙げられますが、個人的にイチオシは「日本の民家シリーズ第5集」(1999年)の岐阜県・白川郷です。ちなみに同じ第5集でガッターペアになっている富山県・岩瀬家住宅は佐々木裕史さんの制作ですので、今回の発行は17年ぶりのコラボといえるかもしれません。
凹版切手・リメイク作品としての面白さ
このように彫刻者の歩みに沿って見ていくのも凹版切手の楽しみですが、過去の凹版切手と比べるのも一興です。平等院鳳凰堂に関していえば、1950年に24円銭位切手が、1957年には24円円位切手が発行されていますし、1959年には30円切手が発行されています。24円銭位と24・30円円位では原版が異なりますが、いずれも栗原七三という方が原版彫刻を担当されています。これら過去と現在の平等院鳳凰堂の彫り方や構図の差異などを比較してみると、意外な発見があるかもしれません。旧東宮御所についても、戦前の記念切手で満洲帝国皇帝来訪記念の三銭と十銭切手(1935年)が発行されています。原版彫刻者は野間謙一という方です。記念切手の名称からも明らかなように、当時旧東宮御所は皇帝溥儀の在京中の宿舎として利用されていました。今でこそ一般参観が可能な建物ですが、かつては皇太子の住いだった御用地です。三銭・十銭切手にはその独特の近づきがたい雰囲気がデザインにも表れていて、時代を感じさせます。
次のページでは凹版切手をもっと知るためにはどうしたらよいかを紹介します。