エングレービングで活躍したアルブレヒト・デューラー

凹版印刷で最も活躍した芸術家といえば、16世紀ドイツの画家アルブレヒト・デューラーでしょう。デューラーはルネサンス期の雰囲気をたたえた自画像が有名ですが、凹版印刷の大成者としての顔もあります。金銀細工師の子として生まれた彼は直接金属に彫り込むエングレービング(直刻)を高度な芸術の域に昇華させたのです。絵画に詳しい方であれば、「メランコリア1」を思い浮かべるかもしれません。
メランコリア1

デューラー「メランコリア1」の17世紀初頭の模刻。

エッチングの技法を探求したレンブラント

凹版印刷でもう1人挙げるとすれば、17世紀にオランダで活躍したレンブラントでしょう。一般に光と影の表現に優れた油彩をイメージするかもしれませんが、銅版画も彼が一貫して取り組んだテーマでした。しかしデューラーとは違い、レンブラントが好んだのは防食処理をした銅版の表面を削り、酸性の薬品で処理するエッチング(腐蝕)というものでした。
レンブラント誕生400年の記念切手とコイン

レンブラント誕生400年の記念切手とコイン(オランダ・2006年・参考価格2,500円)

2つの方式がある凹版印刷

ここでは西洋美術史の上での細かな話は割愛しますが、ひとまず凹版印刷には非常に手間のかかるエングレービング(直刻)と、それより簡易にできるエッチング(腐蝕)があるという点を押さえていただければと思います。
ちなみに、世界最初の切手「ペニー・ブラック」も日本最初の「竜文切手」も同じ凹版なので、同じ印刷方式だと思われている方もいますが、世界最初の切手がエングレービングなのに対し、日本最初の切手はエッチングです。しかも日本独自に発展した印刷技術の延長線上で生まれたものですから、切手印刷の風合いにも当然大きな違いがあります。
竜文切手48文

日本最初の竜文切手48文の第1版(左)と第2版(右)(1871年・参考価格第1版15,000円、第2版25,000円)。

小判切手にも使用されている凹版の技術

やや専門的になりますが、明治9(1876)年に始まった小判切手にも凹版印刷の技術が活かされているということは盲点なように思います。もちろん、日本切手の専門家であれば、小判切手が凸版印刷であることは誰でも知っています。けれども、イタリア人のエドアルド・キヨッソーネがドイツからもたらしたエルヘート凸版(エルヘートはドイツ語で盛り上げるの意味)という技術を用いる過程で、一度は彫刻者の手で腐蝕凹版の型版を作らなければならなかったという点は意外に見逃されがちなのではないでしょうか。
エドアルド・キヨッソーネと小判切手

「郵便切手の歩みシリーズ第2集」のエドアルド・キヨッソーネと小判切手(日本・1994年)。

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