将棋/将棋関連コラム

幻の駒が出現、NHK大河『真田丸』将棋シーン(2ページ目)

好スタートを切ったNHK大河ドラマ『真田丸』。もちろんガイドも観た。戦国物らしく将棋シーンが登場したが、そこに、ガイドは驚愕の目撃をする。あの幻の駒が、さらりと画面に登場したのである。その駒とは……

有田 英樹

執筆者:有田 英樹

将棋ガイド

酔い狂う、暴れ象

おおっ!出たあぁぁ!出たぞぉぉ!幸村が手にした駒は、やはり、その駒だった。老眼でかすみつつも、我が目はその姿をしっかり捕まえていたのだ。

酔象

酔象

現代の将棋は8種類の駒を持つ。「王将」「金将」「銀将」「桂馬」「香車」「飛車」「角行」「歩兵」である。しかし、かつては、上記以外の駒も存在した。長い将棋史の中で、その姿を消してしまった駒があるのだ。その一つに「酔象(すいぞう)」という名の駒がある。その名の意味するところは、酔い狂う暴れ象。その駒が『真田丸』に登場したのだ。それも、さりげなくである。ガイドは心の中で大きな拍手を送った。

「すごいぞ、NHK。よくぞ、ここまで、こだわってくれた。『真田丸』終了のその日まで、欠かさず視聴することを誓います」

『真田丸』スタッフの意気込みが痛いほど伝わる数秒だった。視聴者の中で、どれほどの人数が、この駒に気づいただろうか?おそらく、ほとんどいないだろうし(我が妻も娘も息子も気づかなかった)、この駒がなくとも将棋シーンは成り立つ。しかし、それでもなお、スタッフはこの駒を特別に用意し、盤面にそっと置いた。その努力と情熱に敬意を払い、幻の「酔象」についてガイドさせていただきたい。そして、この「酔象」こそ『真田丸』の針路を多いに示唆する駒だったのである。深読みすれば、だからこその「酔象」だったのではないか。

幻の駒「酔象」

既に述べたように、「酔象」は現代将棋には見ることができぬ駒である。一説によると室町・戦国の後奈良天皇が廃止した駒だというが、はっきりはしない。(仏陀さえも襲ったという荒れ狂う象のイメージがその原因ではないかとガイドは推測するのだが、どうでしょう?)

酔象の動き

酔象の動き

「酔象」は強い駒である。現代将棋に近い「小将棋」では「王将」の真上に配置されている。そして、真後ろ以外全て動ける、つまり周囲7マス。最初から「金将」を上回るパワーを与えられているのである。では、そんな強い駒が成り駒となった時は、どうパワーアップするのか。
「酔象」が成ると、「王将」と同じ動きができるようになる。前後左右斜め全てのマスに、最高位の駒と同じ動きを与えられるのだ。そして、ここからが最大のポイントなのだが、もう一つ、他の駒にはない特徴というか特権がある。


 

「酔象」の成り駒

太子の動き

太子の動き

酔象の成り駒は「太子(たいし)」である。明太子(めんたいこ)を思い浮かべたあなたは素敵だが、正解ではない。聖徳太子や皇太子の「太子」である。つまり、王位継承者、王に準ずる、あるいは、王の代理。こんな地位は「金」も「龍」も「馬」も与えられていない。「酔象」は「太子」となり、「王」へと続く道を用意された最上位の駒なのである。
だから、「太子」出現のあかつきには「王将」が詰まされても、負けにならない。「太子」ある限り、勝負は続くのである。これは、最初に述べた戦国の勝負論とは趣を異にする。そして、その相違点を俯瞰すれば、まさしく真田家のあり方ではないかと思えるのである。

深読み「酔象は真田丸の羅針盤」

幸村の父、真田昌幸。戦さの天才と称された武将。しかし、世は戦国、天才といえども、いつ討たれるかわからない。だが、我が子が成人すれば、父が倒れようとも負けではない。真田は今川の轍を踏まぬのだ。親子兄弟、誰かが倒れようとも戦い続ける。それが「酔象」が表す将棋だ。

真田の名は天下に響く

真田の名は天下に響く

真田が親子兄弟で敵味方に分かれた関ヶ原。これとて、誰かが生き残る戦術、つまり「酔象」「太子」温存策だったとも言われている。さらに、勝ち組となった兄・信之は、父と弟の助命を家康に嘆願し、実現させている。誰かが生き残れば、真田に負けはない。そして、天下に真田を知らしめた大坂の陣。幸村兄弟が「酔象」から「太子」へと変貌を遂げるプロセスこそ、『真田丸』なのである。「酔象」は『真田丸』スタッフが用意したダビンチコードではなかったか。ああ、感激。

なんて深読みまで楽しめた、思いがけぬ「酔象」の出現でした。最後まで、お読みいただき、ありがとうございました。

 

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追記

「敬称に関して」

文中における個人名の敬称について、ガイドは下記のように考えています。
(1)プロ棋士の方の活動は公的であると考え、敬称を略させていただきます。ただし、ガイドが棋士としての行為外の活動だと考えた場合には敬称をつけさせていただきます。
(2)アマ棋士の方には敬称をつけさせていただきます。
(3)その他の方々も職業的公人であると考えた場合は敬称を略させていただきます。

「文中の記述に関して」
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