Pick Of The Month February 『Marry Me A Little

2月5~8日=早稲田大学どらま館 2月9~10日=STAR PINE’S CAFÉ(Creator’s Lab Tokyo『Marry Me A Little』番外編)
『Marry Me A Little』

『Marry Me A Little』

【見どころ】

ミュージカル作家で演出家でもある藤倉梓さん(『氷刀火伝』)と上田一豪さん(『WORKING』)。かたや慶應義塾、かたや早稲田のミュージカル・サークル出身で、これまでにも交流のあった二人が、同じ作品をそれぞれに演出するという面白い企画が立ち上がりました。

二人の共通素材はスティーヴン・ソンドハイム作のオフオフ・ブロードウェイ・ミュージカル『Marry Me A Little』。NYのアパートでそれぞれ一人住まいをする男女が、孤独なその内面を吐露してゆく様が、ソンドハイムのこれまでの作品と未発表作の中から選んだナンバーに彩られつつ、展開してゆきます。

キャストには木村花代さん(『ミス・サイゴン』)や清水彩花さん(『レ・ミゼラブル』)ら、大作への出演経験のある俳優も含まれ、演出家一人につき2組、合計4組のキャストで上演。さらには今回、新人発掘の意図で若手俳優が演じるバージョンも、場所を吉祥寺に移して上演されます。次世代のミュージカル作家・演出家として期待される二人が、様々なキャストとともにソンドハイムという「巨人」の作品にどう取り組むか。これは見逃せない試みです!

【稽古場レポート、演出・藤倉梓さん&上田一豪さんインタビュー】
『Marry Me A Little』稽古より。(C)Marino Matsushima

『Marry Me A Little』稽古より。(C)Marino Matsushima

2バージョンの稽古は、スタジオの2室を使って同時進行。まず藤倉梓さん演出のAチームの部屋にお邪魔すると、ダブルキャスト(番外編公演を含めるとトリプルキャスト)のうち西川大貴さん、清水彩花さんがダンスシーン「A Moment With You」を稽古中。「飛んでいける ただ君といるだけで」と恋する気持ちを、タップを踏みながら軽やかに歌い上げるナンバーです。西川さん、清水さんはアイコンタクトも多く、すでに息はぴったり。楽しい気分で階上の上田一豪さん演出・Bチームの部屋に行くと、歌稽古に続いてクライマックス・シーンが展開していました。うつむき加減の木村花代さんに歌いかける上野聖太さん。重く、ほろ苦く、切ない空気が充満します。異なる場面とはいえ、Aチームとはあまりに対照的な空気感に驚きつつ、二人の演出家にお話をうかがいました。
『Marry Me A Little』稽古より。(C)Marino Matsushima

『Marry Me A Little』稽古より。(C)Marino Matsushima

――二人の演出家が一つの作品を「競作」する今回の公演アイディアは、どこから生まれてきたのでしょう?

上田「プロデューサーの発案ですね。僕らは日頃、今の日本のミュージカル市場はお客様の層が限定的でなかなかそれ以外の層に届いていかないなという危機感を持っています。でもきっかけがないだけで、実際観てみたら『こういう作品もあるんだ、面白い』と思っていただける筈。出演者ではなく作品が魅力で足を運んで下さるかたが増えれば、という思いで今回の企画を立ち上げました」

藤倉「以前、ストレートプレイで野田秀樹さん脚本の『パンドラの鐘』を野田さんと蜷川幸雄さんが競作され、なんて面白いんだろうと思った記憶があって、今回のお話しをきいてぜひやってみたい!と思いました」

――題材として選んだ『Marry Me A Little』、どのように取り組んでいますか?
左から藤倉梓さん、上田一豪さん(C)Marino Matsushima

左から藤倉梓さん、上田一豪さん(C)Marino Matsushima

上田「これもプロデューサーと3人で、なるべくシンプルな形にしようということで男女一人ずつのミュージカルからこの作品を選んだのだけど、難しいですね」

藤倉「決めた時には資料が全ては揃っていなくて、いざ台本が届いたら、ここに登場するナンバーは本作のために書かれたのではなく、他の作品でカットされたり企画倒れになった作品のナンバーだったりするので、内容的に(それぞれの曲がきっちり)繋がっているわけではないんです」

上田「まずはどういう作品として成立させるかということで、僕のバージョンでは、アパートの別々の部屋に住み、それぞれに別の相手に失恋した男と女が、偶然同じ時間にそれぞれの部屋で、自分の失恋と向き合っている物語としてとらえることにしました。だから一見、二人は同じ空間にいるように見えても、実際に二人がコンタクトする場面は一か所しかないんです」

藤倉「私は本作で『ストーリー』を見出すことは早々に諦めまして(笑)、男女の「もしも」をテーマにした「Song Cycle」形式=一曲で一話完結のミュージカルとして作っています」

――登場するナンバーでは彼らの恋愛に対する理想があれこれ歌われていて、私なぞは「この人たち、大変だな~、いつか結婚できるのかな~」なんて思ってしまいますが、お二人は彼らの恋愛観についてどうお感じですか?
『Marry Me A Little』稽古より。(C)Marino Matsushima

『Marry Me A Little』稽古より。(C)Marino Matsushima

上田「結婚は難しい人たちでしょうね(笑)。本当の幸せはささやかなものだと頭ではわかっていても、妥協ができないばかりにチャンスをダメにしている。今回は若手キャストもいますが、30代のキャスト版では特に、最後のナンバーでそんな大人の「痛さ」「ほろ苦さ」を感じていただけるのではと思います」

藤倉「Aチームは超・夢物語として作っていますね(笑)」

――配役はオーディションで決まったそうですが、ポイントは?

藤倉「核と決めた2曲『Happily Ever After』と『Marry Me A Little』にはまるかどうか、です」

上田「歌詞では伝えきれない部分もある作品なので、恋愛観にこだわりを持っていることがにじみ出てくる人とやりたいと思って、オーディションではかなり恋愛観をうかがいました。あとはセクシュアリティが感じられるかどうか、ですね」

――上田さん、藤倉さんはお互いをどんな演出家ととらえていますか?
『Marry Me A Little』稽古より。(C)Marino Matsushima

『Marry Me A Little』稽古より。(C)Marino Matsushima

藤倉「私は最初、出演者として上田さんにお会いしたので、私にとって上田さんは絶対的な演出家です。(ヴィジョンが)見えている感じが凄いです」

上田「僕自身は最近、なるべく俳優に任せる傾向にあるけど、彼女はとても賢いし、細かく演出するタイプ。俳優はそのほうがやりやるいだろうと思います」

――今回の舞台、お客さんにどう御覧いただきたいですか?

藤倉「2バージョンでセットなども全く違いますし、ミュージカルって総合芸術なのだと改めて感じていただけると思います。ぜひ多面的に御覧いただきたいです」

上田「ミュージカルって華やかでただ楽しいだけのもの、と思っている人がいらっしゃるけど、そういう方に、こんなに(文学的で)面白い作品もある、ということを知っていただければ、ミュージカル人口も増えるかもしれないですよね。そんなことを思いつつ、難しい作品だけどみんなで頑張っています」

少しだけお稽古を覗き、お話を聞いてわかったのが、今回、同じ台本を使いながらも、全く異なる二つの舞台が生まれるであろうこと。何とも刺激的な『Marry Me A Little』本邦初演、2ヴァージョン鑑賞は必須でしょう。演出家のお二人も、早くお互いの舞台を観たくてたまらない!のだそうです。

【観劇ミニ・レポート】
舞台芸術の無限の可能性を示唆する
刺激に満ちたダブル公演

『Marry Me A Little』A1チーム。写真提供:TipTap

『Marry Me A Little』A1チーム。写真提供:TipTap

アパートの一室に若い男が、その真下には若い女が住んでいる。彼らは同時刻にそれぞれの部屋で、恋愛観や恋愛体験をつぶやく(=歌う)。ミュージカル・ナンバー一つ一つの内容は具体的だが、それらを通しての一貫したストーリーは、無い。

そんなミュージカルがあったとしたら、どんな演出が可能だろうか。二人の演出家はこの命題に対し、対照的なまでに異なる舞台を仕上げることで答えています。

Aチームの藤倉梓さんが採ったスタイルは、1曲完結の「ソングサイクル」形式。楽曲の関連性、つまり作品の“辻褄合わせ”に気を取られることなく、とある男女が想像、あるいは回顧する恋愛の諸相を、軽やかに描写しています。A1チームの西川大貴さん、清水彩花さんはタップダンスも取り入れて恋の喜びを歌うナンバー「Am Moment With You」をハイライトに、まだまだ恋愛に寄せる期待感が大きい、若い世代を体現。伴奏を手掛ける音楽監督・
松村湧太さんの、情感豊かなピアノ演奏も耳に残ります。

『Marry Me A Little』B2チーム。写真提供:TipTap

『Marry Me A Little』B2チーム。写真提供:TipTap

いっぽう、Bチームの上田一豪さんは敢えてストーリー性を追求。それぞれ失恋によって傷ついた男女が方やこの場所を去ろうとし、もう一人は最近引っ越してきたばかりという設定を、室内の段ボール箱を一人は荷造りし、もう一人はガムテープを剥がして中身を取り出す仕草で表現したり、舞台中央に“失われた恋人”を象徴するポールを2本建てるなど、観客がストーリーを読み取るための工夫が細やかになされています。同じBチームでも、登場時にB1チームの上野聖太さんは相手に渡せなかった指輪ケースをジャケットから取り出す際、「こういうふうに渡したかった」といった仕草を見せるのに対し、B2チームの染谷洸太さんは直情的にテーブルの上に投げ出すなど、個々の役者の感性に委ねた部分もある模様。予測不可能で難解な旋律の中に、時折ふっと美しい一節を織り込む「ソンドハイム節」をじっくりと聴かせつつ、“あきらめきれない恋”を情念たっぷりに全身で表現するB1チームの「女」役・木村花代さんの存在感が圧倒的です。

上演終了後には毎回、演出家による10分程度のトーク・タイムがあり、作品の成り立ちや演出意図についてコンパクトかつ丁寧に解説。また全員に配布されるプログラムにはかなり詳細な演出ノートが掲載され、観客の知的好奇心に十分に応える形となっています。

舞台芸術鑑賞において、伝統芸能に恵まれた日本では「演出の固定化」に慣れているためか、「出来上がった作品」がそのまま受容されがちです。しかし舞台芸術は本来、無限の可能性を持つものであり、観客の側も能動的に、クリティカルに相対することがあってもいいのではないか。そんな意図がうかがえる今回のダブル上演、客席には一般的なミュージカル公演ではなかなか見かけない中高年男性の姿も少なくなく、アカデミックな空気さえ漂っていました。公の劇場でこうした企画がなされないことが不思議に思えるほど、意義深く、純粋に興味深くもあるこのCreator’s Lab Tokyo。ミュージカル・ファンであるならぜひとも注目していただきたいシリーズです。