輸入車/注目の輸入車試乗レポート

なぜ日本人は乗らない!?「3ペダルMT車」厳選16台

ATや2ペダルMTに取って代わられつつある絶滅危惧種・3ペダルのシフトレバー付き変速機=マニュアルトランスミッション。しかし、MT車は習熟していく自己鍛錬的な楽しみのある“官能的な乗り物”。選べる今のうちに、味わい深い輸入車の3ペダルMT車を試してみてほしい。2018年3月に最新版に改訂!

西川 淳

執筆者:西川 淳

車ガイド

3ペダル+シフトレバー=悦楽のスティックシフター

ポルシェ 718ケイマン

ポルシェのミッドシップ2シーター、ケイマン。718ボクスター&ケイマンはポルシェのリアルスポーツラインを担うオープン&クーペモデル

ポルシェ 718ボクスター

こちらがオープンモデルの718ボクスター。両モデルは全グレードに6速MTが用意される

ポルシェ 718ボクスター

ベーシックグレードのインテリア。ポルシェでもMTは718ボクスター&ケイマンと911の一部グレードのみとなる

クルマの進化を振り返ってみれば、動力性能のあくなき追求のみならず、快適性や安全性、環境性といった周辺性能や諸機能の強化にも常に大きな力が注がれてきた。そして、その過程において、テレビや電話の“ダイヤル”のように、今ではもっと便利で簡単で安楽な装置や方法に取って代わられ、“テンキー”しか知らない世代には、いったいどうやって扱っていいものなのか分からない仕組みもあったりするものだ。否、もはやモノとしての“テンキー”さえ古くなってきた。

3ペダルのシフトレバー付き変速機=マニュアルトランスミッション(MT車)などは、その際たる例だろう。通はスティックシフト(アメリカ英語でギアレバーの意味。転じてMT車のこと)と言ったりする。

おそらく、もう何年もしないうちに、足元にペダルが3つもあって、センターコンソールに棒(=スティック)まで生えたクルマに乗せられて、“なにこれ? いったいどうやって動かせばいいの?”と、パニックになる人ばかりという時代になるかもしれない。

フェラーリやランボルギーニといったハイパワーを誇るスーパーカークラスでは、3ペダルMT車の生産をやめて久しい。2ペダルのセミMT(シングルクラッチシステムやデュアルクラッチシステム)に取って換わられた。その理由はシンプルで、操作が簡単なうえに、だんぜん速いし、しかも安全だからだ。

つまり、3ペダルをあえて残さなければならない“合理的”な理由などもはやない。残されたのは、「クルマってもんは、マニュアルで乗らなきゃツマラナイ」などという、もうほとんど感傷ともいうべき感情論だけ、である。

裏を返せば、MT車には官能的な楽しさがある、ということもできる。運転そのものを楽しみたいクルマ。単なる移動手段ではなく、機械を操り、運転を習熟させるという自己鍛錬的もしくは自己成長的な楽しみが期待できる。MT車は、趣味のひとつとして、なるほど面白い存在になってきた。
BMW M4

北米市場でのニーズに応えるため、高性能モデルにも一部、MTモデルが用意される。こちらはBMW M4

BMW M4

BMW M4のシフト。MTは従来より軽量コンパクトな仕立てとされている

99%が2ペダル=AT限定免許で運転できるクルマ、などという自動車先進国は、実は日本だけ。それだけ“先を行っている”とも言えるが、それゆえ国産車で愉快な3ペダルMTモデルを探すとなるとひと苦労だけれど、輸入車ならまだ比較的、いろんなタイプのMT車を探すことができる。

ヨーロッパの多くの人々は未だMT車に好んで乗るし、アメリカにも根強い(=メーカーが決して無視できない数の)MT車ファンがいるという。そのためのラインナップが、エントリーカー(スモール&コンパクト)やラグジュアリー・クラスに、今ならまだ充実している。

誤発進しないなど安全性では見直されている、とはいうものの、この先、電動化や制御技術の進化に伴って2ペダル化はいっそう進むとみられる。ピュアな内燃機関モデルとともに、3ペダルMT車が衰退するという大きな流れは変わりそうにない。

この先、たとえヨーロッパ市場で生きながらえたとしても、日本のインポーターがいつまでも3ペダルグレードを導入してくれるとは限らない。選べる今のうちに是非、味わい深い輸入車の3ペダルMT車を試してみて欲しい。
プジョー 208GTi

コンパクトハッチバック、プジョー208のハイパフォーマンスバージョンがGTi。ベーシックモデルには上級グレードとして高性能モデルが用意される場合が多い

プジョー 208GTi

プジョー208GTiのシフト。プジョーのハイパフォーマンスバージョン、GTiはMTのみが搭載されている


欧州ではMTが常識、ベーシックスモール・クラス

ルノー カングー

導入以来、国内のルノー車販売の半数を占める人気のカングー。ゼンに6MT(249.9万円)を、エントリーグレードのアクティフに5MT(215.8万円)をラインナップ

どこかの国のフツウは、違うどこかの国ではフツウじゃなくなる。海外旅行が面白かったり、余所の国の食べ物に驚いたり。文化や伝統が違えば、そこにいろんな個性がにじみ出る。
ルノー トゥインゴ

RRレイアウトを採用した個性的スタイルの“シティコミューター”トゥインゴ。1Lエンジンを搭載したゼンに5MTモデル(177万円)をラインナップする

ルノー ルーテシア

ルノーの新デザインアイデンティティを採用したスタイリッシュなルーテシア。エントリーグレードのゼン(204万円)に5MTを搭載する

だったら、そこを徹底的にアピールすればいいじゃないか。そう割り切って、日本人にとって“面白い”クルマを提供し続けているのが、フランスのルノーだ。

フランスにおけるトヨタのようなブランド、なのに、カングー、トゥインゴ、ルーテシア、というベーシックなモデルに全て“ゼン”グレードのMTを用意する。どのモデルも、どこかポップな雰囲気で、乗って楽しい。初めてクルマを運転したとき(AT免許ではなく)の、感動が蘇る。
DS3

独創的な内外装をもつDSブランドのコンパクトハッチ、DS3。MTモデルは上級グレードのスポーツシック(299.6万円)とカブリオ スポーツシック(343.4万円)で用意

同じような楽しさが、プジョー208やDS3にもある。ルノーより、ちょっと生真面目でしっかりしていて肩に力が入るけれど、ドイツ車に比べれば、まだしも当たりが柔らかい。フランス車は、総じて、ドライバーとの距離が短く、親しみがもてる。3ペダルならいっそう、親近感も沸く。ペット的な可愛げがあるのかも知れない。

ドライブが最も楽しい、スモールスポーツ・クラス

プジョー 208GTi

208のホットハッチ、GTiは6MT(322万円)のみを用意。プジョーのモータースポーツ部門(プジョースポール)が手がけたGTi by PEUGEOT SPORT(368.66万円)もMTとなる

ベーシックシリーズの人気モデルには、上級グレードとして、少しばかり高性能なエンジンに積み替えたスポーツモデルが用意されている場合が多い。そのうえ、このクラスの高性能エンジンであれば、十分、MTで自由に操っていけるレベル。3ペダルでドライブして、最も楽しいセグメントかもしれない。
VW ポロGTI

5ナンバーサイズのコンパクトハッチバック、VWポロ。そのスポーツモデルがGTI。192psの1.8L直4ターボを搭載、6MTモデルの価格は327.9万円

MINI JCW(3ドア)

ミニのハイパフォーマンスバージョンを受けもつJCW(ジョン・クーパー・ワークス)では、3ドアモデルにMT(412万円)を用意。ちなみに3ドアモデルは他グレードにもMTが用意されている

定番はポロGTIとミニクーパーJCW、だけれど、ここでもオススメはプジョー208GTi、フランス車“高性能銘柄”だ。

ベースモデルの素性の良さは、そもそも高性能グレードの仕様を想定してのこと。ボディやシャシーのデキが、クラス平均以上だ。それゆえ、このMTには、操ることの根源的な楽しさ、たとえばギュンギュン回るエンジンと繋がっているという感覚や、自分の思い通りにクルマが鼻先を向けているという実感、を存分に味わわせてくれる余裕が、クルマそのものにある。

その点、MTで少し期待外れになるルノートゥインゴGTなどは、“新人類”向き、ということだろうか。

ちなみにMTが用意されていたアウディS1/S1スポーツバックは販売終了。メルセデス・ベンツの国内ラインナップで唯一MTグレードの存在したSLKも、SLCに代替わりしてMTモデルはなくなっている。
アバルト595

現代に復活した名チューナー、アバルト。フィアット500をベースとしたのがこのアバルト595。1.4L直4ターボを搭載する。5MTモデルはベースグレード(293.76万円)と595コンペティツィオーネ(365.04万円)に用意された

過激でホットな走りが自慢のアバルト595も未だオススメの一台だ。エンジンを掛けたとたん、じっとしていられない気分に。血が騒ぐ、とはこのことだ。小さな心臓から大きなビートを響かせつつ、ハードな乗り心地とクイックなハンドリングでドライバーを急かし続ける。ひたすらファンなクルマである。

この2台に比べると、ポロやミニは定番だけあって、コストパフォーマンスに優れ、誰もが安心して楽しめる内容になっている。そのぶん、面白みには欠けるけれども、間違った選択になるリスクもほとんどないだろう。

メーカーがMTを出している間に。コンパクトスポーツ・クラス

ロータス エリーゼ

究極のライトウェイトスポーツ、世界最速のコーナリングマシーンとも呼ばれるロータス エリーゼ。1.6Lと1.6Lスーパーチャージャーを搭載、全グレードがMTモデルとなる。価格は496.8万~745.2万円

このあたりから人気モデルの高性能グレードは、絶対性能においてもかなりハイレベルになる。逆にいうと、今後さらに高性能を目指した場合、そうなることは確実だが、2ペダル化が進むことは必至。メーカーがまだ、MTで操っても平気だと判断するクルマを造っている間に、味わっておいた方がよさそう。

真剣にマニュアルドライブをモノにしたい、スティックシフトを極めたい、スポーツ走行を本格的に楽しみたい、サーキットでのタイムアタックレベルまで取り組んでみたい、という向きには、ミドシップのロータス エリーゼが、すべての上達への早道だろう。
BMW M2

最もコンパクトなMモデルとなる、2シリーズクーペのハイパフォーマンスバージョン。前後トレッドを拡大したボディに専用チューンの3Lターボを搭載する。6MTの価格は802万円

BMW M2もホンキの一台だ。よくできたFRのスポーツカーで、豪快なドリフト走行もお手のもの。普段使いにも快適な乗り心地で、エリーゼよりかなり実用的というのも魅力。
VW ゴルフGTI

セグメントのベンチマークとなるVWゴルフのスポーツグレードがGTI。220psの2L直4ターボを搭載、MTモデルの価格は389.9万円。4WD仕様の“小さな高級GT”のRにも6MT仕様を用意、こちらは549.9万円となる

定番中の定番、ゴルフGTIのMTもオススメ。ゴルフRにもMTが用意されたが、こちらは4WDということもあって、どちらかというとグランドツーリング志向が強い。FFのGTIの方が、元気なホットハッチ走りが楽しめるだろう。

最もスポーツカーらしい、ミドルスポーツ・クラス

ロータス エキシージ

ロータスのスパルタンなミドシップ2シータースポーツ、エキシージ。アルミモノコックボディに3.5Lスーパーチャージャーを搭載、ミッションは6MTのみとなる。価格は972万~1366.2万円

ミドルクラスのミドシップカーは、ある意味、最もスポーツドライビングに適したロードカーのクラスかもしれない。ポルシェ718系を軸に、ロータス、アルファロメオ、アルピーヌ(18年中)と、粒も揃ってきた。けれども、3ペダルを用意しているのは、ポルシェとロータスのみ。ここでも性能の向上に伴って、2ペダル化が進んでいる。

ロータス・エキシージか、718ボクスター&ケイマンか。キャラクターが全く違うので、極端な話、たとえばケイマンとエキシージを同じガレージに並べてあってもいいくらいだ。普段乗りがケイマンで、エキシージはサーキット用だね、などと、無理なく想像できる。
ポルシェ 718ケイマン

クーペモデルのポルシェ718ケイマン。ケイマンとボクスターには2Lターボのベーシックグレードと2.5LターボのSをラインナップ。両グレードに6MTを用意した

ポルシェ 718ボクスター GTS

オープンモデルのポルシェ718ボクスターの上級モデル、GTS。6MTはケイマンが993万円、ボクスターが1032万円となる

もっとも、ボクスター&ケイマンもグレードによってキャラクターが変わる。日常的に使えて、MTでも存分に楽しめるのは、ベースグレードかS。よりハードな領域(たとえばサーキット)でも楽しみたいというなら、GTSやGT4&スパイダーがいい。

ミドシップスポーツカーとして高い完成度を誇る。毎日使いにも不満はない。特にケイマンなら、荷物だってそこそこ積めてしまう。オープンエアが欲しいか、実用か、で、チョイスできるという魅力もある。

ベースモデルであればアクセルペダルを踏み切る楽しさがあるし、高性能グレードには上級スーパーカーを食う下克上的な悦楽がある。ボクスター&ケイマンは死角のないスポーツカーだ。

一方のエキシージはというとスパルタンスポーツカーの申し子のような存在。ほとんど公道を走るレーシングカーのようだ。つまり、乗り手を選ぶ。それゆえ、乗っていて決して退屈することはないが、それが毎日となるとツライ。セカンドカーとしてなら、これほど素晴らしいモデルはないと思う。

ラグジュアリースポーツ・クラスで選ぶなら?

BMW M4

4シリーズのハイパフォーマンスモデルとなるBMW M4。6MTモデル(1075万円)には、シフトダウン時に自動で回転数を上げスムーズなシフトチェンジを行うスロットル・ブリッピング機能が備わる

シボレー コルベット

世界最高レベルのハイパフォーマンスFRスポーツ、シボレーのフラッグシップとなるクーペ&コンバーチブルのコルベット。7速MTはクーペの全グレードに用意、価格は942万~1425万円

価格が一千万円を超える高性能モデルで3ペダルの選択肢はというと、指折り数えられる程度。MT車が残されている理由は、実をいうと、北米市場においていまだ無視できないボリュームのスティックシフター・ニーズがあるからだ。アメリカンスポーツの最高峰・コルベットがMTを諦めていないのが、そのことをよく物語っていると思う。ポルシェ911やBMW M3&M4にもMTグレードが存在する理由も、北米市場で無視できない数のニーズがあるからということらしい。

パワーがあるクラスなので、純粋にMTを駆使して楽しめるかどうかと問われれば、難しいと答えるほかない。実際、コルベットZ06にしても、あのパワーを満喫したいのであればMTではなくATを奨めたくなる。もはや、このクラスのパワフルさは、人が手足を駆使して楽しむという領域を逸脱しつつあると言っていい。

それでもこのクラスでMTのオススメモデルをチョイスしろと言われればポルシェ911、と、自然吸気エンジンを積んでいた991前期モデルならそう答えていた。けれども、マイナーチェンジでベースモデルが全てターボ付きに。MTで楽しいと思えるクルマではなかった。BMW M4もジャガーFタイプも、3ペダルより2ペダルのほうが面白い。

ロータスエヴォーラやポルシェ718系の上級グレードを選ぶという手もあるが、それならシンプルにエリーゼやベーシックな718を選んだ方が楽しいと思う。
ポルシェ 911GT3

ラグジュアリースポーツクーペの“スタンダード”、ポルシェ911。RRレイアウトを熟成、7世代目のタイプ991となる。GT3は500psの4L自然吸気エンジンを搭載した”公道とサーキットを両立する”スポーツモデル。価格は2115万円

ラグジュアリー・クラスに最早、楽しい3ペダルはないのか? 否、あった。かなり奮発しなければならないけれど、ポルシェ911GT3に3ペダルが帰ってきた。2ペダルよりも加速性能ははっきりと劣ってしまうけれど、4L自然吸気フラット6とダイレクトに繋がる感覚は、今しか味わえないかもしれない。ちょい乗りからサーキットまで、乗って楽しい最後の911マニュアルだ。
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