現代的なスポーツカーらしさは911より上

ポルシェ718ボクスターS

2016年にマイナーチェンジを受け、名前を718ボクスターに。2Lのボクスター(6MT 658万円、7PDK 710.4万円)と、2.5LのボクスターS(6MT 852万円、7PDK 904.4万円)をラインナップ(写真はボクスターS)

憧れのポルシェを新車で買う。近道となるのが、ポルシェ全ラインナップのなかで最も安い価格帯からのスタートとなる、最新ボクスター(658万円~)&ケイマン(619万円~)の、718シリーズである。

なんて書きだすと、「あんなのしょせん安物ポルシェだよ」、とか、「911以外は意味がないねぇ」、とか、宣う人が必ず出てくるもの。意外と知らないんだよなぁ、ボクスター&ケイマンが911に負けず劣らず、素晴らしいスポーツカーだってことを。
ポルシェ718ボクスター

ボディサイズは全長4379mm×全幅1801mm×全高1280mm、ホイールベースは2475mm。ドライバー後方30cmにエンジンを搭載するミドシップスポーツ、1950年代、60年代にル・マンなど数々のレースで活躍した、4気筒を積むミッドシップスポーツのポルシェ718の名称を受け継いだ(写真はボクスター)

しかも。最新モデルは、718という新たな名前こそ与えられたものの、実際には“飛び切り”ビッグなマイナーチェンジで、それに伴い、6気筒から4気筒エンジンへのダウンサイジングが敢行された。911シリーズも既にダウンサイジングターボエンジンを積んでいるけれど、あちらは6気筒を維持した排気量のみのダウンサイジング。718シリーズでは、気筒数まで減らしてしまったものだから、ポルシェファンの“怒り( ? )”や“戸惑い”が収まらない。(ポルシェの)世の中的には、そういうことになっています。結論からいうと、そんなに目くじら立てて拒否するほど、前期型のエンジンフィールが官能的だったとは思わないし、後期型のそれが野暮ったいとも思えない、のだけれどね。

これから初めてポルシェを買うつもり、という人で、さほどマニアックな血の騒ぎもないカジュアル派なら、そんな小煩い諸先輩方の意見など軽く聞き流し、だまって718を買って正解。耳年増な六発派に、不幸にもなってしまった方は、前期モデルの中古を探してもらってもいいのだけれど、そこまでこだわるならいっそ中古の911を狙った方がいいと思う。2世代前、あたりの。
ポルシェ914

高価になった911に代わり、ポルシェの入門モデルとして登場したのがポルシェ914。VWの既存パーツを用いて価格を抑えつつ、設計や組み立てはこだわりをもってポルシェが行った

ポルシェといえば、水平対向6気筒。確かに、それがポルシェの、否、911のイメージ。けれども、ポルシェだってその昔は4気筒を積むモデルがあった。718という名は、50年代後半に活躍した、水平対向4気筒エンジンをミドに積む歴史的なレーシングカーに由来するものだし、そもそも356は水平対向4気筒であり、912という“4気筒の911”もあった。

スーパーカー世代には、ワーゲン・ポルシェの名でも知られるミドシップカー、914が有名(実質的にはその現代版がボクスターである)で、これにも水平対向4気筒を積んでいた。ただし、それがVWビートル用だったために不当に評価されてしまうわけだけれど、このクルマの成り立ちそのものは、スポーツカーとして非常に考え抜かれたものであったことを、もういちど思い出すべきだろう。

その他、水平対向ではないが、FRのよくできた4気筒ポルシェもあった。いずれにせよ、4気筒のポルシェが単なる“格安版”であった試しはなく、いかにして真のスポーツカーの楽しみを、より多くの人に楽しんでもらえるかを念頭に開発されてきたものばかりだ。“スポーツカーの民主化”という点では、ある意味、6発の911よりも、ポルシェ社設立時の信念に近い存在であるともいえる。

ボクスターそのものだって、そうだ。96年のデビュー以降、それは常に“楽しいポルシェ”であり続けてきた。911のパーツを可能な限り流用して、それは企画されており、近年、911シリーズとの性能差は縮まるばかり。今回の気筒数ダウンサイジングで、両車の差別化は明確となったとはいえ、ドライビングファンという点では、甲乙点け難い、否、むしろ現代的なスポーツカーらしさでは718ボクスターが優るとさえ、思う。

そこが、マニアの声など無視して買っちゃいなさい、とプッシュする所以だ。で、どれを買う?
ポルシェ718ボクスター

インパネ回りもデザインを変更、新意匠のダッシュパネルが採用された。タッチスクリーンを備える新世代PCM(ポルシェ・コミュニケーションマネージメントシステム)を標準とした

ポルシェ718ボクスターS

試乗モデルにはオプションのレザー製スポーツシートが装着されていた。標準は中央部にアルカンターラを用いたスポーツシートを採用。オプションで軽量化されたスポーツバケットシートも用意される


どれも楽しい。だったらオススメはベーシックのMT

ポルシェ718ボクスター

最高出力300ps/最大トルク380Nmを発生する2L水平対向ターボをボクスターに搭載。ボクスターSには350ps/420Nmの2.5Lターボを積む。従来モデルより35psパワーを増しつつ、燃費を13%向上させた

718ボクスターのベースグレード(2L)+マニュアルギアボックスと、ハイスペックのS(2.5L)+PDK(2ペダルデュアルクラッチトランスミッションDCT)に試乗してみたが、実をいうと、エンジンとミッションの組み合わせで“これがベスト”というのはない。消極的ではなく、良い意味で、だ。つまり、どれを買っても楽しめる。それが結論だったから、個人的には、だったら最も安いベーシックのマニュアル、を選ぶことになる。
ポルシェ718ボクスターS

ファブリック製ソフトトップを採用。9秒で開閉、50km/h以下なら走行中も開閉可能に。Sの2.5Lターボには、911ターボ由来の可変タービンジオメトリーを採用

4気筒ターボとなっても、エンジンの力強さは決して従来モデルに負けていない。パンチがある。レスポンスよく、十二分な力を発してくれる。むしろ、車体全体の軽さを感じ取れるという点で、オープンミドシップカーであるボクスターのイメージにお似合いの、ちょっとしたライトウェイトカー感覚のドライブフィールを実現していた。それが、まず嬉しい。

シャシーはさらに磨きがかかった。手応えのいいステアリングフィールで、センターミッドカーにありがちな前輪の浮き足立った感覚を見事に抑え込んでいる。それでいて、自在感はまったくスポイルされていないし、かといって過敏さを印象づける所作も皆無。安心して“回せる”。

リアアクスルの食いつきも、ドライバーの腰や尻とやわらかに直結したフィールがあって、自身も下半身を使いながら曲がっていくような一体感を得ることもできた。峠やサーキットでの印象ではない。交差点をちょっと急いで曲がったときに、そう感じる。実用性の高いデイリースポーツカーとしての評価も高い理由だろう。
ポルシェ718ボクスター

リアライトには4灯のLEDブレーキライトを組み込んだ。左右テールライトをつなぐアクセントトリムが特徴的。電動パワステは従来より10%ダイレクトに設定されている

かといって、こちらに“スポーツ”する気のないときには、丈夫な骨格に守られているという、決してヤワではない乗り味ながらも、平穏なクルーズを楽しませるだけの懐の深さもあった。実用車として、椅子の数と荷物用スペース以外に、過不足はない。
ポルシェ718ボクスター

状況に応じて左右後輪にトルクを可変配分するPTV(ポルシェ・トルク・ベクタリング)や、ボクスター10mm、ボクスターS20mm車高が低いPASM(アクティブサスペンション・マネージメントシステム)をオプションで用意する

エンジンの音は、確かに雑味が増えた。6気筒のような精密さに欠ける。高回転域まで回していったときの、右足がそのままエンジンに吸い込まれるような気持ち良さはない。4気筒の水平対向らしい音だって聞こえてくる。とはいえ、そんなことが気になるのはしばしの間だけで、アッという間に耳の快楽を身体の享楽が打ち破るのだ。それは、ミドシップオープンカーとしての、全体的なバランスの良さに起因するものだと思う。

ボクは4気筒ターボの718ボクスターに、賛成だ。
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