“LGBTマーケット”に起きている疑問
注1)市場規模算定に当たっては、家計調査・家計消費状況調査(いずれも総務省)のデータ、および世帯数に関しては「国勢調査」(総務省)を参考にした。 注2)市場規模は単独世帯と2人以上世帯のそれぞれについて算出し合計した。
6兆円といえば、世界でも有数の資産家であるFacebook CEOのマーク・ザッカーバーグの個人資産額に相当するのですが、なかなか想像しにくいと思います。株式会社電通におけるダイバーシティ(多様性)課題対応専門組織「電通ダイバーシティ・ラボ」(以下、DDL)は、この4月(2015年4月)に全国69,989名を対象に、LGBTを含む性的少数者=セクシュアル・マイノリティ(以下、LGBT層)に関する広範な調査を実施しました。その結果、LGBT層に該当する人は7.6%、LGBT層の商品・サービス市場規模は5.94兆円となりました。
出典:電通ダイバーシティ・ラボが「LGBT調査2015」を実施 ― LGBT市場規模を約5.9兆円と算出―
LGBTというくくりはセクシャリティによるくくりですから、いわば「男性マーケット」だとか「女性マーケット」などというくくりと同じようなものです。「アパレルマーケット」「飲食のマーケット」だとイメージしやすいですが、LGBTマーケットと言われてもなかなか想像しにくいですよね。
これは私がLGBT関係のビジネスをしている身として実感しますが、そう感じている人は少なくありません。「LGBTマーケットはあると言われている。だが、それは本当にあるのか?」という感じです。
世界一有名なゲイアプリ “Grindr”
ゲイの間ではゲイアプリの存在は常識に近い
それは、ゲイアプリです。
GPS機能を使って周りにいるゲイの人を探す出会い系アプリなのですが、これに最も成功している“Grindr” は2009年にリリースされて以降世界で爆発的にヒットし、今では500万人ものアクティブユーザーが世界中にいます。私は大学に入学した頃、iPhone が日本に来たばかりでまだまだスマホを持っている人は多数派ではなかったのですが、ゲイバーに行くとゲイの人の多くがiPhoneを所有しており、 ゲイアプリを使いこなしていたのを覚えています。
“Grindr”、今年2015年に約50億円の売上見込み
この“Grindr”の衝撃的なデータが今年の10月にリークされました。2015年に4,000万ドル(現在の価値で約50億円)の売上見込みだということが判明したのです。出典:Leaked documents show Grindr expects nearly $40 million in revenue for 2015
2012年に1600万ドルの売上を計上しているので、毎年ざっくり1000万ドルの売上成長をしています。2018年には7,700万ドル(約95億円)の売上を目指すそうです。
どうやって売上をあげているの?
Facebook は1日のうち平均してユーザーが合計42分アクティブなのに対して、“Grindr”は合計54分です。ちなみにゲイ同士の出会いも可能な出会い系アプリ“Tinder” ですら1日15分です。同じ出会い系といえども、ゲイアプリの方がアクティブな時間が長いということですね。またアクティブユーザーは世界中に1,000万人います。ではどう売上をあげているのでしょうか?彼らの売上方法は2つあります。
1つ目はユーザー課金モデルです。ユーザーは“Grindr”は無料で利用できますが、一定以上の機能を利用したい場合はGrindr Xtra という有料版Grindr(月1000円程度) を利用します。有料版ではメッセージが来たら通知がくるようにしたり(これは今時の出会い系アプリでは無料でも当たり前の機能ですね)、カップルで1つのアカウントを共有したりすることができます。
もう1つは広告モデルです。“Grindr” を利用していると、「かっこいいメンズパンツをゲットしよう!」みたいな広告がポップアップでときどき出てきます。またバナー広告は他のアプリと同じようにありますね。
“Grindr” の売上内訳は不明なので、どちらがどのくらいの割合で売上につながっているのかはわかりません。ちなみに日本では “Jack’d”や“9 Monsters”というゲイアプリの方が人気の印象がありますし、ゲイアプリを調べると様々な種類のゲイアプリがある事がわかると思います。
たとえば中国では“Blued”というゲイアプリが最も人気のようですね。アメリカなどではゲイアプリを通じて旅行会社や不動産会社などから広告が出されており、ゲイマーケティングが行われているようです。
日本ではどうか?
“Jack’d”や“9 Monsters”などといったゲイアプリは日本でも利用されていますが、アメリカほど広告を出稿したいという企業が日本では少ないようです。日本でも、ゲイの消費性向に合わせた商品やサービスをこういったアプリで広告をすることでゲイマーケティングを始めることは可能だと思いますが、「出会い系アプリに広告を出すことで、自社のブランドに傷がつくのでは?」という不安や「まだゲイアプリがあまり一般的に知られていない」ということから、このようなゲイアプリに広告を出したいという日本企業は、まだ多くはないのが現状のようです。