馬の個性を浮き上がらせる「名キャッチフレーズ」
スポーツなどを見ていると、名選手には「キャッチフレーズ」や「愛称」、「異名」があてがわれることがあります。有名なところでいうと、長嶋茂雄さんは「ミスター」、スキージャンプの葛西紀明選手は「レジェンド」と言われます。それと、先日引退したプロレスラーの天龍源一郎さんなら、「風雲昇り龍」というのもありますね。その天龍さんと引退試合で対戦したオカダ・カズチカ選手は「レインメーカー」と呼ばれています。また、天龍さんとともに活躍した川田利明さんは、「デンジャラスK」なんて言われました。
プロレスの話はこれくらいにして、競走馬においても「キャッチフレーズ」をつけられることがあります。それらは、アナウンサーが実況中に名付けたものもあれば、新聞がきっかけになったもの、あるいはファンから出てきたケースもあるでしょう。なかには、誰が言い出したかわからないが定着したものもあります。
こういったキャッチフレーズは、名馬たちの個性を浮かび上がらせ、競馬の盛り上がりを支えたと言っていいでしょう。ということで、代表的な名馬のキャッチフレーズをいくつか紹介していきたいと思います。
「皇帝」から「帝王」へ。競馬史に残る親子ドラマ
昭和の競馬史において、「史上最強馬」として必ず触れられる馬がいます。それが、シンボリルドルフ。生涯成績16戦13勝であり、G1を7勝した名馬。それも、レースぶりは完璧無比であり、スキなし。「人よりも競馬を知っているのではないか」と恐れられるほどの存在でした。あまりにレース運びが完璧でスキがないため、「シンボリルドルフのレースはおもしろくない」と嘆くファンさえいたようです(※競馬好きな酔っ払いオジさん談)。
さて、そんなシンボリルドルフに付けられたキャッチフレーズとは……ずばり、「皇帝」です。もともと、馬名の由来は、生まれ故郷の「シンボリ牧場」の馬に付けられる“シンボリ”に、皇帝ルドルフ1世の“ルドルフ”を合わせたもの。そのことから、いつしか「皇帝」と呼ばれるようになりました。
しかし、たとえ“ルドルフ”の名が付いていなくても、この馬のレースぶりや性格、戦績はまさに「皇帝」。それ以外にありません。だからこそ、このキャッチフレーズがハマったのでしょう。
シンボリルドルフは、引退後、繁殖用の種牡馬として血を伝える役目に回ります。すると、その皇帝のDNAを余すことなく受け継いだ名馬が1頭誕生しました。それが、トウカイテイオーです。
シンボリルドルフを父に持つトウカイテイオーは、父と同様、無敗のまま皐月賞・日本ダービーというG1を制覇。この快挙が達成されたとき、競馬界ではこんな言葉が生まれました。「皇帝から帝王へ」。そうです、トウカイテイオーのキャッチフレーズは「帝王」。こんなに美しいキャッチフレーズの物語があるでしょうか。
トウカイテイオーは、その後ケガに苦しみながらも、海外の強豪相手にG1を勝ったり、長期休養から奇跡の復活を遂げたり。父とは違った素顔を見せながら活躍したのでした。