上手い騎手の条件……騎手にとってもっとも重要な技術とは?

上手い騎手の基準とは

騎手と馬が力を合わせて戦うところに、競馬の魅力があります(写真 JRA)

スタートが切られたら馬に気合いをつけ、理想的なポジションへと誘導する。勝負所になったら合図を出してスパートを開始する。そして最後の直線では、ムチを入れ、先頭を目指す。

騎手は馬の司令塔であり、ドライバー。1着になるために最適なポジション、コース取り、仕掛け所を見極め、パートナーの馬を導くのが彼らの仕事です。

しかし、これらを行うのは容易ではありません。相手が生き物である以上、車のように指示通り動くわけではありませんから。そこで求められるのが、「馬とのコミュニケーション」。これこそが、騎手にとってもっとも重要な技術なのです。
 

騎手と馬が意思疎通できないと、勝利には近づかない

競馬のレースは、人間でいう中長距離走。100m走のように、最初から全力で走って勝てるレースはありません。競馬では最短距離となる1000mのレースでも、ペース無視で飛ばせばバテてしまいます。となると必要になるのが、ペース配分。そこで騎手の出番になります。

馬からすれば、ペース配分なんて知ったこっちゃない。コースの上を全力で走りたい。しかし、それではバテてしまいますから、馬を適切なペースで走らせるよう、騎手がコントロールするわけです。

「折り合い」とよばれる騎手のコントロールはきわめて重要で、馬が騎手の指示に従っていれば、「折り合っている」と表現されます。ただ、思い切り走りたい馬は、往々にして騎手の指示に従わずオーバーペースになりがち。そのような、騎手と馬のリズムが合っていない状況、制御が利かない状況を「引っ掛かっている」といいます。

この折り合いこそ、騎手のコミュニケーション能力が発揮される場。同じ馬でも、指示を出される相手(騎手)によって、従ったり従わなかったりするのです。当然、従わせる騎手はレース結果もよくなりますから、「上手い」と評されるわけです。
 

騎手の上手さが発揮された、あるレース

騎手の上手さを語る上で、ぜひ見てもらいたいレース映像があります。主役となるのは、メイケイぺガスターという馬。2013年日本ダービーに出走する素質馬です。
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能力は高いのに、とにかく気が荒いメイケイぺガスター(写真 JRA)

ただこの馬、難点があります。とにかく気性が荒い。騎手の指示など構わず、好き勝手に走りたい。そんな馬を相手にする場合、騎手のコミュニケーション能力が問われることになるのです。

3月16日にメイケイぺガスターが出走した若葉ステークス。この荒くれ者は、1番人気にもかかわらず、騎手の制止を振り切り暴走。その結果、11頭立ての8着に沈んでしまいます。

スタート後、一番後ろにポジションをとったメイケイぺガスターですが、途中から一気に前へ上がっていきました。これは、騎手の制止を振り切り、馬が全力で走ろうとしている状態。騎手の背が丸まり、手綱を引っ張っている時はそういう状況です。
 

あるジョッキーが乗るとここまで違う!

このレースに限らず、デビューから頻繁に暴れていたメイケイぺガスター。ですが、実は若葉ステークスの1カ月前、ベテランの横山典弘騎手が乗って挑んだレースでは、別馬のような優等生ぶりを見せていました。

スタート後、先頭の直後につけたメイケイぺガスターは、横山騎手の指示に従いスッと落ち着きます。レース中は暴走する気配など微塵も見せず、見事に快勝。騎手の指示に従い、力まず落ち着いて走ったので、最後までしっかり伸びたのです。

競走馬の中には、誰の指示でも素直に従うマジメ君もいれば、「走りたいように走らせろ」と荒ぶる馬もいるもの。いや、それだけではありません。本気で走ろうとしない馬、まっすぐ走ろうとしない馬、レースに集中せずよそ見ばかりしている馬など、性格は多種多様。そういった馬たち1頭1頭に対し、どうコミュニケーションを取って馬を納得させ、クセを修正するかが、騎手の腕の見せ所と言えるのです。
 

日常生活で考える「騎手と馬の関係性」

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武豊騎手が乗ると、別馬のように素直になったトゥザヴィクトリー(写真 JRA)

とはいえ、乗馬経験のない人にとっては、いまいち分かりにくい馬とのコミュニケーション。そこで、日常生活から、騎手と馬の関係を強引に考えてみました。

一番近いのは、ペットである犬との関係でしょう。たとえば犬との散歩。その中で、騎手と馬との関係、あるいは「折り合い」の意味を知ることができます。

知りたくもない情報でしょうが、私の実家には大型犬がおり、小さい頃、よく父と私と犬で散歩に出かけました。我が家の犬リリー(メス)は、立ち上がれば私と大差ないほどの体格で、力も相当。それでも、父がリードを持っているときは至ってマジメで、一家の主に歩調を合わせ、大人しく歩きます。

しかし、リードを持つ相手が私に変わると、リリーは豹変したのでした。

ある日のこと。好奇心が高まった少年の私は、散歩の途中に「自分もリードを持ってみたい!」と父に懇願。父も納得し、ドキドキしながら、憧れのリードを受け取ります。リリーは、自分をつないでいるリードが私へと渡った瞬間を、ジッと見ています。

そして、私がリードを持って歩き出したその瞬間、異変が起きました。今まで大人しく歩いていたリリーが、意気揚々と全速で走り出したのです。面喰った私は最初こそ必死に抵抗したものの、所詮、小学四年生の泣き虫小僧。犬のパワーに圧倒されて転ぶと、思わずリードを離してしまいました。

リリーは、何とも気持ちよさそうに、早朝の誰もいない山道を駆け抜けていきましたね。その後すぐに父が呼ぶと、リリーは一仕事を終えた爽快な表情で戻り、私の顔をペロペロなめたものです。

騎手と馬の関係を考える時、私はいつもこの瞬間を思い出します。リリーからすれば、父と少年の私はまったく別の存在。父はボスですから、逆らわずに大人しく歩く。対して私は友達。いわば弟。だから言うことを聞かず、自由奔放に走ろうとする。

さすがにプロの騎手同士なら、父と私ほどの差は生まれませんが、あながち遠くもない話。馬にとってその騎手がどんな存在であるかが、レースでの態度の差につながるのです。
 

レースを知らない馬をマジメに走らせるのが騎手の仕事

考えてみれば人間同士も同じ。相手によってマジメになったり、甘えたり……。たとえば仕事を頼まれるにも、頼まれ方によって「分かりました、やりましょう!」となることもあれば、「えー、めんどくせえな」となることも。上手い騎手は、馬をやる気にさせ、マジメに走らせる能力に長けているといえます。

競走馬はレースの価値を知りません。となると、全力を出そうとするか、マジメに取り組もうとするかは、その指示を出す騎手への信頼で決まります。だからこそ、騎手の役割はとても重要。昔から、競馬は「馬7割、騎手3割」といわれますが、時には「馬5割、騎手5割」と思えるくらい、騎手によって馬の走りは変わります。

そんなことを考えながら、競馬のレースを見ると、面白さはさらに増すはず。騎手と馬が関係を築いていくさまを見続けることこそ、競馬というスポーツにしかない、最大の魅力なのです。

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