福井晶一 1973年北海道生まれ。95年劇団四季研究所に入所し、『ドリーミング』で初舞台。『アイーダ』ラダメス『ライオンキング』ムファサ『エビータ』ペロン等を務め、12年退団。翌年『レ・ミゼラブル』バルジャン、ジャベール役、以降も『船に乗れ』『何処へ行く』『ジャージー・ボーイズ』等で活躍。今年初CDをリリース。(C)Marino Matsushima
印刷機発明を巡るミュージカルの作者コンビが、出資者を募ろうとプロデューサーたちの前で演じて見せる二人ミュージカル『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』。06年にオフ・ブロードウェイで開幕後、英仏豪に加えて韓国でもヒットを飛ばし、今回、日本に初上陸します。劇中に登場する20あまりの役を、帽子を変えるだけで次々に演じ分けてゆくという高難度芝居に挑むのが、日本を代表するミュージカル・スターの福井晶一さん、原田優一さん。普段は帝劇を始めとする大舞台で大役を務める俳優と小劇場でのコメディという組み合わせは、どんな化学反応を起こすのか? 稽古場を訪ねてみました。
“王道俳優”が本気で挑むコメディ・ミュージカル
『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』
『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』稽古より。(C)Marino Matsushima
お二人はその後も“作者たち”としてのトークを差し挟みつつ、めまぐるしく役を演じ分けてゆきましたが、この日はなんと稽古が始まってまだ数日目だとか。“無”からあっという間に芝居を立ち上げ、輪郭を固めてゆく彼らの技量に驚嘆しつつ、本番はいったいどんなことになるのだろう、と期待は倍増。さくさくと進んだ稽古終了後、二人に手応えをうかがいました。
福井晶一×原田優一wインタビュー
「“ミュージカルあるある”がちりばめられた
斬新舞台を、リラックスして楽しんで欲しい」
『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』で強力タッグを組む福井晶一さんと原田優一さん。(C)Marino Matsushima
原田 「歌稽古はその前からやっていましたが、歌入りの読み合わせはまだ五日目で、やることがいっぱいなのにさらっとやっているように見えなければいけない。実は僕らは必死です(笑)」
――今回、この作品をやろうと思われたのは?
福井「今年、僕は『レ・ミゼラブル』に長く出演するので、その前に一本、何か面白いことをやりたいなと思っていたんです。そんな折にこの作品のお話をいただいて、資料を拝見して単純に面白そうだと思いました。(帝劇とは)規模も全く違うし、僕が一番信頼している優一君と一緒だということで、これはやってみたいな、と」
原田「男性二人のミュージカルって他に『スリル・ミー』ぐらいしか思い浮かばない中で、『グーテンバーグ!』はミュージカルコメディで、しかも“ミュージカルとは何ぞや”というところまで踏み込んでるのが面白いと思いました。大きな舞台で共演してきた僕らだからこそ、こういう作品をやったらまた面白いものが出来上るのでは、という気もしましたね」
――お二人は互いにどんな存在でしょうか?
『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』稽古より。大真面目なお二人、写真ではカッコいいナンバーに見えますが、歌っている内容は……本番をお楽しみに!(C)Marino Matsushima
福井「彼もずっと(ミュージカル界の)真ん中に立ってきたのに加えて、自分で企画や演出をして、面白い舞台を発信して来られた方です。(原田さん演出の)『歌会』に出演した時、それまで経験したことのないキャラクターをやらせていただいたし、他のキャストについても新たなものが出てくるのを目の当たりにして、人の魅力を引き出すのがうまい方だなあと尊敬しました。何かできることがあれば一緒にやりたい、とずっと思ってきましたね」
原田「僕は普段から人の観察がすごく好きで、アンテナを張り過ぎるところがあります。例えば『ミス・サイゴン』でクリスを演じていても(当時のインタビューはこちら)、どうしたら相手役がきれいに見えるかばかり意識してしまったり。“もっと自分を向きなさい”と言われることがあるのだけど、全幅の信頼を置いている福井さんが相手なら、アンテナを張らなくても全然(芝居が)できる。自分の課題を克服するうえでも、今回の二人芝居はすごくいい機会だと思っています」
――稽古が進む中で、お互い、新たに見えてきた面もありますか?
『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』稽古より。古典的なトリックで笑わせるシーンも、手を抜かないお二人。(C)Marino Matsushima
原田「演出の板垣恭一さんは“役者から出てきたものが一番筋が通る”という考え方の方で、しばしば“ここ、自分で考えてやってみて”とおっしゃるのですが、そういう時に福井さんが出してくるアイディアが、僕の中にはないもので、“あ、やっぱり福井さん、面白い!”と思う瞬間がたくさんありますね」
福井「それは僕も思います。優ちゃんはすごく引き出しを持っていて、見ていて勉強になりますね」
――同じ振付で踊っていても、お二人のテイストが全く異なるのが面白いですね。
原田「例えば『レ・ミゼラブル』だったり、同じ作品を経験していても、培われてきたものが違うんですよね。今回はそれが凸と凹になって、とても面白い芝居が出来てきていると思います」
――様々なキャラクターを演じ分けますが、お互い“彼のこのキャラクターは必見”というものはありますか?
原田「福井さんは、“見習い修道士”ですね。演出の板垣さんから“2メートルくらいのぼーっとした男としてやってみて”と言われて、福井さんが挑んでいらっしゃるのだけど、ここ数日で日に日に変わってきていて、完成までの過程が物凄く面白いですよ」
福井「原田さんの必見キャラは断然、“修道士”(笑)。悪役だけど憎めない。共演しながら、思わず素で笑ってしまいます」
原田「板垣さんから言われた修道士のテーマが“小粒感”なんですよ(笑)」
――劇中、“ミュージカルあるある”的な台詞がたくさん登場しますね。
『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』稽古より。キャップを左右の手に二つずつ持つ原田さん、同時に4人!の人物を演じるという離れ業。(C)Marino Matsushima
福井「“ミュージカルってこうやって作るんだな”と改めてわかる作品でもあるんですよね」
――ご自身の中で今回、テーマにされていることはありますか?
福井「型をぶち破ること、ですね。この後、ジャン・バルジャンという大役を控えているけど、“バルジャンをやる福井さんがこういうことやっていいの?!”と思われるくらい、思いっきりこの空間、この二人芝居を、お客さんと一緒に楽しみたいと思っています」
原田「この作品は劇中劇とプレゼンテーションを行き来するという斬新なつくりで、演じる側としては単に物語を演じるより格段に難しいけど、お客様はさらっと観られる。とっても難しいことをやっていても、お客様には構えず、自由に楽しんでいただけるような芝居を目指したいです。そんな中でちょこっと“そうか、ミュージカルってこういうふうになってるのね”と気づいていただけると嬉しいですね」
*公演情報*『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』
2017年3月17~20日=新大久保・R’sアートコート
*次頁では福井さんに、3月1日にリリースしたCDの話題をはじめ、最近のご活動についてうかがいます!