食事をシェアできる関係づくりから
ここからは私の単なる経験談に過ぎないのですが、ひとつ提案をしたいと思います。実は私にも一人暮らしをする年老いた母がいます。私の家の近所に住んでいるので、時折食事も共にしていますが、基本的には毎日一人で食事をしています。父が亡くなった後すぐは、寂しさから気力がなくなったのか、また自分一人のために食事をつくるのが面倒になってきたのか、一時期は惣菜やお弁当をよく買うようになっていました。
ところが1年ほどたった頃、同じマンションの方で数人の面倒見の良い方が何かと声をかけてくださり、一緒にお茶を飲んだり、またおかずを持ち寄ってくださるようになりました。それが一つのきっかけとなり、母はだんだん自分でも食事を作る気力も湧いてきたように思います。
一人暮らしの高齢者同士でも、よほど気が合えば共食もできるでしょうが、なかなか人間関係は難しいものです。共食とまではいかなくても、身近な友人とおかずをシェアできる関係が築けたらよいのではないでしょうか。例えば1品ずつ交換できるメンバーが3人いれば、3品のおかずが食べられます。
お互いが負担にならないように、毎日ではなくても1週間に一度など、無理のないペースでやってみることの意味は大きいと思います。こうして声をかけあうことが、食事を作る張り合いになったり、お互いの体の調子を確認することにもつながります。
若いうちから社会との接点を
もちろんお料理が負担、苦手という方は、いろいろな介護支援のサービスを利用すればよいでしょう。しかし高齢者が増えて国民医療費の中でも介護に関わる費用が大きな負担となっている今、できるだけ自分でできることをする努力も必要です。科学的にも調理をすることが脳機能を活性化するという研究報告があります。男性の料理教室も増えて人気が高まっているようです。お買い物から、調理、盛りつけなど、いろいろと段取りを考えて行う料理のような日常的に繰り返す作業をすることが認知症の予防等に役立つと考えられます。
今は若く老後は想像できない人も、老いは必ずやってきます。こうした地縁は、自分だけが思っていても簡単にできるものではありません。健康寿命のために、行政的な取り組みだけでなく、私たち自身が家族や地域の知人と食事を楽しみ、また作る喜びをわかちあえる人間関係を築くことは大切なのではないでしょうか。
関連リンク/
・都市生活者も無縁ではないフードデザート問題(食と健康)
・世界で初めて確認! 料理で脳を活性化する(食と健康)
参考/
・日本能率協会総合研究所
・日本老年学的評価研究
その他