不動産登記の業務を専門としているのが司法書士です。私は司法書士試験の合格を目指している方に、不動産登記法をはじめとする法律を指導する講師をしています。普段の講義では、不動産登記について何も知らない方に「不動産登記とは何なのか?」「不動産登記は何のためにあるのか?」といったことから説明しています。
そこでこの記事でも、不動産登記のことをほとんどご存知ない方向けに、「不動産登記の基本部分」と「不動産登記は何のためにあるのか?」という2つの意義に絞って説明していきたいと思います。
そもそも「不動産」とは?
不動産登記は「不動産の登記」のこと。そして「不動産」とは、ご存知のとおり、土地または建物のことです(不動産登記法2条1号)。土地は人為的に分けられている
たとえば、一軒家であれば、その一軒家が建っている土地が1つの土地、隣の一軒家が建っている土地はまた別の1つの土地とされています(※)。
※「3つの土地の上に一軒家が建っている」などということもありますが、あまり細かい話は考えないでいきましょう。
また、「建物」は、一軒家、マンション、ビルなどのことです。こちらのほうが、土地よりはイメージしやすいと思います。
「不動産登記」って何?
不動産登記は、不動産の「物理的状況」と「権利関係」を公示するものです。これらを説明していくにあたって、まずは「登記」を実際に見てみましょう。後述しますが、法務省の地方機関である「法務局」という役所で、以下のような登記を見ることができます(※画像はサンプルなので架空の不動産です)。
登記は、大きく3つのセクションに分かれています。
表題部
1つ目(1番上)のセクションが「表題部」というものです。この表題部には、不動産の物理的状況が記録されます。色々と書かれていますが、以下の赤でくくった箇所だけご覧いただければ結構です。
初めて得る知識は、「いきなりすべてを知ろうとしない」ということが重要です。根幹部分(基本)を知れば問題ありません。また、実は、登記の専門家である司法書士になるための司法書士試験の合格にも、以下の赤でくくった箇所だけがわかれば問題ないくらいなのです。
不動産の物理的状況が記録されており、内容は以下のような情報です。
・所在:その不動産がどこにあるかという情報です。住所と一致している地域もあるのですが、一致していない地域もあります。
・家屋番号:建物を特定するために付された建物の番号です(不動産登記規則112条1項)。
・種類:どのような用途の建物かということです。上記の建物は「居宅」、つまり、居住用の建物ですが、他にも「店舗」「事務所」「工場」などと登記されることもあります(不動産登記規則113条1項)。
・構造: 建物の構造です。上記の建物は「木造かわらぶき2階建」となっており、なんのことがわかりにくいと思いますが、構造には「建物の主な部分の構成材料」「屋根の種類」「階数」が記録されます(不動産登記規則114条)。上記の建物は、「建物の主な部分の構成材料」が「木造」で、「屋根の種類」が「かわらぶき」で、「階数」が「2階建」ということです。
・床面積: 建物の面積です。上記の建物は2階建てなので、1階と2階の床面積が記録されています。このように、階ごとに記録されます。
不動産の物理的状況の一部ではありますが、上記のような情報が登記記録の「表題部」というところに記録されます。
権利部(甲区・乙区)
登記の2つ目と3つ目のセクションが「権利部」というものです。「権利部(甲区)」と「権利部(乙区)」というセクションに分かれています。
■権利部(甲区)
権利部(甲区)に記録されるのは、「所有権」に関する事項です。不動産など物に対する権利は、様々なものがありますが、物に対する権利で最も基本的なものが所有権です。
みなさんが、この記事をスマートフォンやパソコンでご覧いただいているのであれば、それはおそらくみなさんの物でしょうから、そのスマートフォンやパソコンにはみなさんの所有権があります。目には見えないのですが、民法という法律で所有権という権利が認められています。
所有権があると、その物を、売ることもできますし、タダであげることもできますし、壊したければ壊すこともできます。みなさんが、今、お持ちのスマートフォンやパソコンを壊しても問題ありません(みなさんは困るでしょうが)。
所有権が、不動産に対する所有権であった場合(不動産を所有していた場合)、基本的にはそのことが不動産の登記に記録されます。所有権について記録するのが、権利部(甲区)です。所有権に関する情報も色々とあるのですが、最も重要な情報は、その「不動産の現在の所有者は誰か」という情報です。上記の建物の所有者は、山田太郎であることがわかります。
■権利部(乙区)
権利部(乙区)に記録されるのは、「所有権以外の権利」に関する事項です。物に対する権利には、所有権以外もあります。不動産に対する所有権以外の権利で最も重要であり、実際にも最も使われることが多い権利が「抵当権」というものですので、上記の登記の例では抵当権の登記の見本を示しました。
抵当権が使われる典型例は、住宅ローンを組むときです。マイホームを購入するときには、銀行から数千万円程度借りることが通常です。その際に、いわば人質(担保)として購入するマイホームを差し出し、抵当権という銀行の権利を、購入するマイホーム(建物と土地)に設定します。
ただし、「差し出す」といっても、抵当権という銀行の権利が上記の登記の例のように登記に記録されるだけで、実際に銀行が建物と土地を使うわけではありません。しかし、住宅ローンの返済が滞れば、マイホームは競売されてしまいます(裁判所の手続を利用して強制的に売っ払われてしまいます)。
つまり、上記の登記の例から、「山田太郎が株式会社シンチョウ銀行から4000万円を借りており、山田太郎の返済が滞ったら、株式会社シンチョウ銀行が競売してしまう可能性があるよ」ということがわかるのです。法律的には、お金を借りている山田太郎を「債務者」、お金を貸して不動産を担保にとっている株式会社シンチョウ銀行を「抵当権者」というので、「債務者」「抵当権者」と登記されています。
このように、不動産についての権利関係(所有権、抵当権など)が記録されるのが、権利部です。
不動産登記は何のためにあるの?
上記のように、不動産についての「物理的状況」(表題部に記録)と「権利関係」(権利部に記録)が記録されるのが不動産登記なのですが、これは何のためにあるのでしょうか?主に、以下の2つの目的があります。
■国家が不動産の情報を把握する
日本史の授業で、「太閤検地」や「地租改正」といった話があったと思います。この国では昔から、不動産(かつては農地)が非常に重要な財産です。バブル時代には「日本の土地をすべて売ればアメリカが3つ買える」「千代田区の土地を売るだけでもカナダが買える」と言われていたくらいです。
現在でも、不動産には固定資産税、不動産取得税など、様々な税金がかかります。不動産は、国民の重要な財産であるとともに、国家にとっても重要な財産なのです。
そこで、国家としては不動産の情報をできる限り正確に把握しておく必要があります。国家が、不動産登記だけで不動産の情報を把握しているわけではありませんが、不動産登記は非常に重要な位置を占めています。
■不動産の取引に入る人のために権利変動の過程を公示する
不動産登記は、「法務局」という役所で公開されています。市役所や区役所と違って、ほとんど行く機会はないと思いますが、法務省の地方機関として「法務局」というものが全国にあります。法務局にいけば、数百円の手数料はかかりますが、他人の不動産の登記も見ることができます。なお、今はインターネット上で請求することもできます(以下のサイトから請求できます)。
登記事項証明書/地図・図面証明書の交付請求(登記ねっと)
何のために公開されているかというと、その不動産の取引に入る人のためです。
たとえば、みなさんが不動産を購入しようと考えた場合、人生で1回あるかどうかもわからない高額な買い物ですから、当然慎重になりますよね。このとき登記を見れば、「今、誰が所有者なのか」「抵当権など担保はついていないのか」「過去にトラブルがあった危なそうな不動産ではないのか」などといったことがわかります。
ある不動産を、AさんがBさんに売って、その後にBさんがCさんに売ったのならば、登記には「AさんがBさんに売ったこと」「BさんがCさんに売ったこと」、つまり、その不動産の権利に関する歴史が記録されます。「登記は不動産の履歴書である」と言われています。よって、登記を見れば、どのような不動産かがわかるのです。先ほど「権利は目には見えない」と記載しましたが、権利を目に見えるようにしたのが、この登記なのです。
これを法律的に言うと、「権利変動の過程を公示している」といいます。
不動産登記は社会のインフラ