「逆ベクトルはないのか」
ところでである。ガイドは、はたと思ってしまった。これって逆向きはないのか。つまり、「地理→歴史の謎」という方向に対して「歴史→地理の謎」というベクトルの本である。あったらぜひ読んでみたい。でも、まさかねえ。ないよねえ。そう思いつつ、当たって砕けろ。地元、別府市立図書館、レファレンス担当とおぼしき係の方に尋ねてみた。
はい、ございます。/係の方
-でしょうねえ。そうそう、うまく……。ええっ、今、なんておっしゃいました?
はい、お客様のお探しのような本が当館にございます。/係の方
この係の方に後光がさした。うぅむ。信長の妹君は「お市の方」と呼ばれていたらしいが、このシチュエーションならば、この係の方を「お係の方」と呼ぶべきであろう。「お係の方」は書名を教えてくださり、「お持ちしませうか」とまで、のたまひける。
恐縮した私は分類番号をもとに自身で探すことにした。なんとならば、探し当てたときの喜びは格別なのだから。歩きながら、血眼で探すこの状況を「歩き目」と呼ぼう。皆さんにお願いがある。この「歩き目」という言葉は、あと4行ほど進んでいただくまで、寛大な心で覚えておいてほしいのだ。
館内を探検隊となって足を運ぶ私。ああっ!あったぞ!大発見だ。この瞬間も、私は「歩き目」です。そして叫ぶ、「エウリカ!」……私はアルキメデス。(はい、これが言いたかった訳です。すみません。だから寛大な心でってお願いしたでしょ)
さて、その書名である。ジャジャジャジャーン。
その名も『図説 歴史で読み解く日本地理』
おおっ!完璧である。「歴史→地理の謎」というねらい通りのタイトル。お係の方、すごいや。著者は歴史研究家・河合 敦氏だ。 ちなみに、表紙の絵もすごい。画像ご覧のように、江戸の町人、侍、そして鹿鳴館を思わせる紳士淑女。平安貴族に鎌倉武士。日本史を織りなしてきたオールキャストが空を見上げている。そこに浮かぶ白い雲。その形こそ、わが日本列島ではないか!なんか、めでたい気持ちにさせる、おみごとな表紙である。「なるほど、発見おめでとう。で、それが、将棋とどう関係があるの?」
そんな声が聞こえてきそうである。たしかに、『日本史の謎は「地形」で解ける』は将棋「持ち駒ルールの謎」を解き明かしてくれた。しかし、今回の『図説 歴史で読み解く日本地理』に将棋は関係ないではないか。たしかにである。実は、ガイドだってそう思っていた。しかしである。しかし、将棋の神様は2匹めのどじょうを用意してくださっていたのである。
愛棋家の皆さん、歓喜の歌を!
本書224ページの見出しを目にし、私の足は震えた。こう書いてあったのである。
ああ、アサちゃん(NHK朝ドラ『あさが来た』の主人公)なら叫ぶであろう。山形県の天童はどうして「将棋駒」で有名になった?/P224
「びっくりポン!」
「地理→歴史の謎」には「持ち駒」、「歴史→地理の謎」には「天童の将棋駒」。
すごいっ、両方にしっかりと採り上げられている将棋!これほどまでに研究者の関心を引く将棋。ああ、なんたる幸せ。愛棋家の皆さん、一緒に歓喜の歌を歌おうではありませんか!曲はもちろんこちら。
将棋駒生産日本一の天童、いったいなぜ
山形県天童市。将棋駒生産、日本一。驚くなかれ、9割以上を占めるほぼ独占状態である。イベント「人間将棋」や「全国中学生選抜将棋選手権大会」でも知られる将棋の聖地の一つだ。たしかに、この占有率の高さは尋常ではない。いったいなぜ「将棋駒は天童」となったのか。詳細は本書をご一読願うとして、ちょっとだけ。その秘密は、武士の貧困にあったと著者は解析している。ええっ!武士の貧しさと将棋駒に関係があるの?そう、あったのだ。ドサっ!またしても鱗が落ちた。ここからあなたは名探偵
「武士の貧困→将棋駒」このベクトルに潜むプロセスを、愛棋家のみなさん、どうか推理していただきたい。
『日本史の謎は「地形」で解ける』もそうだったが、一見、何の関係もない事象に、大いなる関りがあったのだ。「風が吹けば桶屋が儲かる」はこじつけばかりではない。それを知らされた本書。そして、この記事を読んでくださった将棋ファンならば、より楽しめるのがこの『歴史で読み解く日本地理』である。
さあ、推理が終わったら、ぜひぜひ、お読みいただきたい。本屋で買うも良し、お近くの図書館で「お係の方」に頼るも良し。あなたはホームズか、はたまた銭形のとっつあんか。その答えは本書にありますぞ。レッツゴー。
最後まで、おつきあい、ありがとうございました。
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追記
「敬称に関して」
文中における個人名の敬称について、ガイドは下記のように考えています。
(1)プロ棋士の方の活動は公的であると考え、敬称を略させていただきます。ただし、ガイドが棋士としての行為外の活動だと考えた場合には敬称をつけさせていただきます。
(2)アマ棋士の方には敬称をつけさせていただきます。
(3)その他の方々も職業的公人であると考えた場合は敬称を略させていただきます。
「文中の記述に関して」
(1)文中の記述は、すべて記事の初公開時を現時点としています。