広告によく使われる言葉「幸せと希望」
土曜日、日曜日の朝刊新聞には必ずと言っていいほど住まいに関連したチラシが入っています。これはここ20~30年ずっと変わりません。そしてそのチラシの内容といえば、「家族が幸せになる家事ラク間取り」「幸せをつくる住まいがココにあります」とか「希望あふれる〇〇タウンに堂々と完成」などのキャッチコピーが並びます。特に幸せとか希望という言葉はよく使われます。どうしてなのでしょうか。本当に幸せを与えてくれるのでしょうか?それとも希望をつくってくれるのでしょうか?
幸福と希望の違い
幸福と希望は人生に喜びを得るための二つの大きな要素ですが、この2つの言葉の間にはどんな違いがあるのでしょうか?たとえば幸福を感じさせる例として結婚式の披露宴があります。祝福のスピーチを聞きながら二人は顔を見合わせ微笑みあったりします。その姿をみるとこの幸福は永遠に続きますようにと本気で信じているようにも見えます。
しかしながら、幸福な状態はいつまでも続かないのです。幸福とはいつもそうあってほしいと「継続」を求めるものなのです。
一方希望はどうでしょうか?継続を求める幸福に対し希望は「変化」と密接な関係があります。過酷な現状から良い方向に改善したい、苦しみながら少しでもラクになりたい、そんな想いが希望という言葉には宿っています。希望は現状の維持を望むというよりは、現状を未来に向かって変化させていきたいと考える時に表れるものなのです。
幸福とはいつもそうあってほしいと継続を求める。
希望とは、現状維持というよりは未来に向かって変化させていきたい。
住まいにおける幸せと希望のつくり方
家を建てる際、設計者は「どんな住まいを希望していますか?」と聞き、決して「どんな幸せを求めていますか?」とは聞きません。希望であれば修正をしながら一緒に未来に向かってまとめあげていけるからです。むしろ幸福は一緒に向かった行き先で満足した住まいが竣工した時に感じられるかも知れません。しかし幸福は継続を求めるものですから、ずっと同じ状態ということにはならないでしょう。将来、夫婦2人あるいは1人、車椅子生活といったこともあるかも知れません。しかしそんな将来の事は誰もわからないので、その都度対応して生活をしていかなければなりません。
設計者の「どんな住まいを希望していますか?」という質問の裏側には、「どんな暮らし(人生)をしていきたいのですか?」ということもあり、施主は考えておく必要があるということです。
希望だけだとどうしても外観の好みや部屋数になったりするので、「幸せに近い希望」と考えてみてはいかがでしょうか。幸せはこれまでの生活を維持し、希望は修正しながら変化に対して対応していけるからです。幸せの永続性を考えるのであれば時がつくる空間の美しさをかもし出す内装材の選択をすることでこれまでの家族の楽しさを思い出すことができます。
さらに希望となればリビングの大きな窓から見える新築時に植えた記念樹などです。希望はその都度その都度で変化していきますので、木の成長と共に家族の物語がつくれるからです。
ガイド佐川旭のメッセージ
近年大きな災害が多く発生し住まいに求められている重要項目のひとつに「安心・安全」があります。安心とは確実にそれが保証されているということです。安心が確実な結果を求めるものだとすれば希望は模索のプロセスそのものです。安心・安全をあまり意識すると住まいはややシェルター的になり幸せな家づくりといっても概念的でよくわかりません。そういった意味で希望という言葉は想像力をかきたててくれるので設計者は住まいに対する希望は何ですか?と聞きやすいのかも知れません。
ただ家を持つということは一生に一回のことなので、こういった機会をとらえてただ単にうすべらい言葉に騙されることなく自分なりに言葉の裏側にひそむ意味を読み解き、そのプロセスを楽しむことも家づくりならではの喜びでもあるのですよ。