『夢の続き』 12月4~7日=四谷・絵本塾ホール
『夢の続き』
ミュージカルカンパニー「イッツフォーリーズ」で活躍する女優・藤森裕美さんが、「説得力のある歌でメッセージを届けられる作品に出会いたい」と個人プロデュースを決意し、4年がかりでワークショップを重ね、作り上げたオリジナル作品がいよいよ、初演されます。
作詞・脚本・演出は佳田亜樹さん。輪廻転生をテーマに、一組の姉妹が様々な“夢”を次々に演じて行きます。wキャストの出演者は藤森さん&王子菜摘子さん、山崎佳美さん(元・劇団四季)&伽藍琳さん(『bare』)。林アキラさん作曲の音楽は実力派ミュージカル女優でないと歌いこなせないナンバーばかりとあって、ベテランの彼女たちが祈りを込めて歌い演じる夢のドラマには大きな期待が寄せられます。
『夢の続き』リハーサルより。(C)Marino Matsushima
自然光が柔らかなリハーサル室ではこの日、「ウェールズの王様」の夢シーンが展開中。敵国の王によって高い塔に閉じ込められた王様と、彼のもとを訪れる小鳥の優しくも切ないストーリーが山崎さん、伽藍さんによって歌い、語られます。その場で折った紙飛行機を小鳥に見立て、それを持った伽藍さんが、王様役の山崎さんの周りを軽やかに飛び回る光景の美しさ。続いてはキャストを替え、藤森さん扮する姉と、彼女に甘える妹(王子さん)が現実の世界で、互いへの愛情を切々と歌い上げます。キャラクターの心にそっと寄り添うような伴奏ピアノの音色も心地よく、もっともっと観て聴いていたいと思わせる稽古場です。(11月8日時点、残席僅少だそうです)
左から伽藍琳さん、山崎佳美さん、藤森裕美さん、王子菜摘子さん (C)Marino Matsushima
――個人プロデュースでオリジナル・ミュージカルというお話はあまり聞かないのですが、今回、この企画に挑戦しようと思われたのは?
藤森「俳優として、自分に最大限の負荷をかけることをいつかやりたいと思っていたんです。周りに相談すると“個人でオリジナル・ミュージカルなんて無理”とみんなに反対されましたが(笑)、私にはやりたいテーマがあったのと、もともと王子さんとは歌の相性がよくて、“何か一緒にやりましょう”という話をしていたのがきっかけでした」
王子「海外ミュージカルも好きなのですが、自分が演じる時に訳詞などの部分で(十分な表現という面で)難しさを感じていました。今回取り組んでみて、稽古場で音楽や台詞が変わっていったり、丁寧に一から作り上げてゆくのがオリジナルの醍醐味だなと感じています」
伽藍「私はこの世界に入った時からオリジナル・ミュージカルを作りたいと思っていましたが、時間などの点でなかなか実現しませんでした。テーマ的にも女性二人の物語って、“家族、友達、ライバル”といろいろ広がって面白いなと思っていたので、今回のお話をうかがって即、お受けしたんです」
山崎「私も劇団にいたころ、日本人の血ではないものを演じることも多くて“髪を染めるってどういうことかな”と考えたりしていたのですが、最近は日本人の感受性を反映した作品が少しずつ増えてきているような気がします。そんななかで今回のお話をいただいて、役者としてはかなり大変そうだけど、非常に凝縮されたお話でキャラクターがどんどん替わっていく台本が面白く、これはぜひやりたいと思いました」
『夢の続き』リハーサルより。(C)Marino Matsushima
藤森「私は妹が二人いるので、分りますね。血が繋がっていると照れくさい部分があるんですよ」
伽藍「私は妹で、ふだん自分の姉をなかなかわかってあげられないのですが、今、山崎さんとご一緒していていろいろ発見があります」
山崎「優しくしてますよ~(笑)」
伽藍「(山崎さんは)自分の姉とは全然違うので、“お姉さんてこんなふうにしてくれるんだ!”と。お芝居だからこそなのかもしれないけれど(笑)」
――この舞台をどんな方に、どうご覧いただきたいですか?
藤森「将来的には、日本中の方々に観ていただけたらと思っています。人間が必ず体験する“生と死”をテーマにしているので、この作品を観ていただくことで“死は終わりではない”ということや、生きている実感を持っていただいたり、そういった何かを感じていただけたらと思います」
王子「本作ではいろいろな世界が登場するのですが、その中でそれぞれに一生懸命生きている人たちがいる。その姿を私たちが演じることで、お客様に生きていくエネルギーとして伝わっていけばと思っています」
伽藍「とてもシンプルな作りで、小道具も必要最小限なのですが、人間の肉体と声とピアノの音だけで表現は無限に広がっていけるのだなと感じていただけたら。ミュージカル初心者の方を含め、観た方が自分の可能性を信じられるような舞台にできたらと思っています」
山崎「ちょっと不思議な空間のなかで、“あれ?”と思ったりいろんなことを感じながら、最後に心があたたかくなっていただけるような作品かと思います。色が固定されていないので、カップルでもお一人でも楽しんでいただけると思います」
【観劇レポート】
『夢の続き』
『夢の続き』
『夢の続き』
『夢の続き』
『夢の続き』
内容的には、例えば一連の“風変わりな夢”の合間に“現在”だけでなく“子供の頃”のエピソードを差し挟むとより共感を呼びやすいのではなど、さらなるブラッシュアップが期待できる部分も見受けられますが、丁寧に練り上げられ、役者の身体に十二分に染み入ってアウトプットされた表現を観る心地よさは、何物にも代えられません。ぜひそのタイトルさながらに再演を重ね、新たな命を得ていってほしいと思える作品です。
*次頁で『スクルージ』以降の作品をご紹介します!