『スコット&ゼルダ』観劇レポート
“宿命の男女の悲劇”を丁寧にひも解く
華やかで儚い、追憶のミュージカル
『スコット&ゼルダ』撮影:渡部孝弘
作品の舞台は精神病院。グレーで統一され、荒涼とした空気の漂うそのラウンジで作家のベン(山西惇さん)が電話をかけていると、白い衣服の入院患者たちが不気味に動く様子が目に入ります。冒頭からストレート・プレイに違和感なく溶け込むダンスは、その後も台詞劇と並行したり自然に大ナンバーへと発展したりと、変化自在に物語をバックアップ。
ベンが訪ねたのは天才作家フィッツジェラルドの妻で、今は入院患者であるゼルダ(濱田めぐみさん)でしたが、目の前に現れたのは彼の予想に反し、至極まっとうな語り口の女性。いささか拍子抜けした彼の前で、スコット(ウエンツ瑛士さん)とゼルダの運命の出会いから破滅までが、彼女の語りと過去の再現が交錯する形で描かれてゆきます。
『スコット&ゼルダ』撮影:渡部孝弘
「ゼルダの狂気がスコットを転落させた」という、陳腐なストーリーを予期していたベン。しかし鮮やかな構図とポーズが次々繰り出し、一瞬も目を離せないビッグナンバー「唸るほどの金」を頂点として二人の栄光が描かれた後は、急転直下、まるで取り出す度に異なる顔が覗くマトリョーシカのように、次々と意外な事実が露呈します。スコットの作家としての業の深さ、そして彼への愛ゆえに精神を崩壊させるほかなかったゼルダの悲劇に、ただただ圧倒されるベン…。
『スコット&ゼルダ』撮影:渡部孝弘
スコットを演じるウエンツさんは、若く野心的な好青年が、ゼルダの人生を歪めていることにも気づかず自らの「作家像」に溺れ、零落してゆく過程を、持ち前の朗らかさを活かしながら熱演。特にゼルダを監禁しながら代表作『グレート・ギャツビー』を執筆するシーンでは、加賀谷一肇さんらが踏むタップと、タイプライターで“競演”し、鬼気迫る「創作」の瞬間を見事に視覚化しています(振付・松田尚子さん、木下菜津子さん)。
『スコット&ゼルダ』撮影:渡部孝弘
対して、これまで幾多の“強い”ヒロインを演じてきた濱田さんは、今回は“フラッパー”として時代のアイコンとなるほど奔放だったが、最終的には自身の人生をあきらめざるを得なかった彼女の悲しみを、叫びからつぶやきまで自在の台詞術で表現。それにもかかわらずスコットへの愛を歌うナンバー「追憶」も胸を打ちます。20年代の象徴として、颯爽とした燕尾服で登場する中河内雅貴さんのシャープなダンスと多くの役を演じ分ける“達者ぶり”、はじめはやる気のないライターとして登場するもののゼルダの話を聞いて触発され、人間的な成長を感じさせるベン役、山西惇さんのリアリティ溢れる演技、また歌にダンスに、一部の隙も無く舞台をカラフルに彩るアンサンブル…と、すべての出演者が躍動。傍目には悲劇的な物語ではありますが、最後にはもう一度二人の強い絆が印象付けられ、“宿命の愛”について、深い感慨を与える作品となっています(演出・鈴木裕美さん)。