「役100パーセント」で演じるということ
「宝塚BOYS」(2013年)写真提供:東宝演劇部
「tptの『地獄のオルフェウス』ですね。それまでの自分を壊してもらえた作品です。役者としてもっと自分を磨かないとダメだなと思いました。3幕もののストレートプレイで、演出の岡本健一さんが愛をもって厳しく接してくださったんですよ。“なんでそう思っているのか?お前じゃなく、その役が、だ”と言われて、わかってるつもりだったけどできてない自分がいたことに気が付きました。もともと(一つの役を演じるにあたっては)中河内50パーセント、役50パーセントくらいのつもりでやっていたんですよ。自分を残さないと、僕がやる意味がないと思って。でも岡本さんに“「中河内」はいらないから”と言われて、衝撃でした。それ以後は常に100パーセント、役のつもりでやっています。いろんな作品見てもらうとわかると思いますけど、全部違う僕だと思います」
――確かに、中河内さんは様々な役どころを的確に演じ分けていらっしゃいますね。一番振り幅が大きかったのが、昨年の『ビューティフル・ゲーム』、その直後の『イン・ザ・ハイツ』でした。
『イン・ザ・ハイツ』
――あの二役を拝見して“実際の中河内さんはどういう方なのだろう”と興味を覚えた方は私だけではないと思いますが、ご自身的にはどういう作品がお好みなのですか?
「何でもやりたいので、特にこういうのが、というのはないんです。だっていろいろな役をやることで、より多くの人生や感情を知ることができるじゃないですか。何でもやりたい。それが“何でもできる”に繋がっていくのかな、と思うんです」
後進たちに伝えたいこと
『スコット&ゼルダ』の後は12月に『ドッグファイト』で主人公の親友役(写真)を演じる。写真提供:東宝演劇部
「第一線をずっと走り続けていたい気持ちもある一方で、次の世代にバトンを渡していかなあかん、という思いもあります。ダンサー出身の自分としては、ちゃんと継承ということをやって、日本のエンタテインメント界をもっともっとレベルアップしていきたいんですね」
――30歳になったばかりなのに、“バトンを渡す”なんて早すぎませんか?
「そんなことはないですよ。説得力のある動きという意味では、体が動くのがあと20年と考えると、もっと早い時から出来たんじゃないかと思う。ジャズダンスの重要さをいまの若い子たちはあまり知らないから、それをちゃんと教えて、どこに行っても恥ずかしくないような状態にしてあげたい。欠点があっても、その人なりに“見せる”踊り方というのを教えて、育てたいんですよ。自分もずっと研究してきたから。でも第一線でやってるからこそできることもあるから、これからも出演しながら、というのがちょうどいいんだろうなと思っています」
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8月下旬、本作の製作発表記者会見でのこと。パフォーマンス、会見、フォトセッションとひととおり進行した後、ムービー用にもう一度パフォーマンスをする段になって、集まったダンサーたちに中河内さんが明るく「楽しんで行こう!」と声をかける場面がありました。直後のダンス・ナンバーでは目の覚めるような開脚ジャンプを見せ、溌剌とカンパニーをリード。今回お話をうかがって、彼の中には常にダンサーたちへの想いがあるのだと納得できました。今回の舞台についても、「ほんとにレベルが高いので、ぜひアンサンブルのダンスにも注目して欲しいです」という彼。これからも“第一線”で変化自在の役者ぶりを見せつつ、“継承”に心を砕く若き“兄貴”の活躍を、楽しみに見守っていきましょう!
*公演情報*ミュージカル『スコット&ゼルダ』10月17日~11月1日=天王洲銀河劇場
*次ページで『スコット&ゼルダ』観劇レポートを掲載しました*