人間は嘘をつく生き物
嘘をついたり、秘密を持ったりするのは、子どもの正常な発達過程です
このような戒めが定着しているのは「人間(子ども)は、よくうそをつく生き物」だからだ、と捉えることもできます。子どもにうそをつかれると、親はショックです。わが子に裏切られたように感じて腹が立つかもしれません。でも、見方を変えてみると、うそは子どもが順調に発達していることのあかしなのです。
嘘は成長のあかし
子どもがうそをつきはじめるのは、早い子で3歳くらいと言われています。多くは「自分を守るためのうそ」です。かっこ悪さをごまかしたり、叱られないためのうそ。また「大人の関心を引くためのうそ」もありますね。もっと自分を見てほしい、さみしい、甘えたい、という気持ちから出るうそです。こうしたうそをつくためには、自分の行動や状況を客観的に見て、善悪を判断し、うそが相手に与える影響を予測できなければなりません。ただ、小さい頃の子どものうそはその場しのぎのものが多く、うしろめたさが仕草や行動に出やすいため、大人にはすぐにバレてしまいます。辻褄の合ったうそを一貫してつけるようになるのは、小学校の3~4年生くらいでしょうか。うそを巧みにつけるようになる前に、うそについて子どもと話し合っておくことが大切だと思います。
嘘の種類について考えてみましょう
私たちの生活を見回すと、たくさんのうそにあふれています。意図的なうそから、無意識なうそ、思い違いが結果的にうそになってしまうこともあります。「言わない」「隠す」といった、うそのつき方もあります。どこからどこまでを「うそ」とするかにもよりますが、全てのうそが悪いわけではないですよね。「うそも方便」ということわざもありますし、作曲家のドビュッシーは「芸術とは、最も美しいうそのことである」という言葉を残しています。「うそから出たまこと」といったこともありますよね。ハッタリをかまし続けているうちに、自分の実力が追いついてきて、うそではなくなるといったことも多いものです。
「うそをつくのは悪いこと」だと問答無用で叱るのはおすすめできません。「お前はうそつきだ」とレッテルを貼ったり、厳しく叱りすぎるのも、うそを重ねさせることにつながるので厳禁です。うそをついたことの良し悪しは後回しにして、どのような結果を予測してついたうそなのか?という切り口で、まずは子どもと一緒に「うそをカテゴリー分け」してみるのはどうでしょうか。
嘘の種類を分析してみよう
どのような結果(メリット/デメリット)をもたらすと予測してついたうそなのかを、相手と自分を軸にした座標に当てはめるとどのようになるでしょうか。どのような結果をもたらすと予測してうそをついたのかを考えてみよう
A)自分にも、うそをつく相手にもメリットをもたらすうそ(相手+自分+)
誰も傷つけないうそです。芸術やドラマ、お笑いのコントなど、この領域に入るものは多そうです。お互いにうそ(フィクション)だと分かっているからこそ、楽しめるといったものもありますよね。しかし、そのうそが結果的に第三者を傷つけることがなかったかという点には注意する必要がありますね。
相手を喜ばせたいと思ってつくうそもあります
B)相手のために、自分を犠牲にするうそ(相手+自分−)
相手が怖いために自分の気持ちを偽るうそ、相手の罪をかぶる、といったうそです。本当はNOを言いたいのに、言えずに相手に合わせて言う通りにする、というのも、このカテゴリーです。
子どもの場合は、友だちを守ろうとして「自分がやった」と言ううそや、虐待を受けている子どもが、親をかばおうとして「叩かれていない」とうその証言をしたりといったことがあてはまります。親に心配をかけまいとしてつくうそも、ここですね。
C)相手も自分も傷つけるうそ(相手−自分−)
自暴自棄になったときのうそです。相手も自分も傷つくと分かっていて「死んでやる!」と言ったり、子どもに「あんたなんか生まれてこなければよかったのに!」と言ったりするのはここに入りますね。子どもの場合は、お友だちに「○○ちゃんなんかキライ!」と言うようなことが入るでしょうか。後悔やうしろめたさを抱えるうそです。
自分を傷つけるB)やC)のうそには、自分を大切に思えない、低い自己評価が根っこにありますので、うそをついたとガンガン責め立てるのは逆効果。うそをつかざるを得なかった気持ちに寄り添い、うそをつかなくて済む自分になることを援助しましょう。
D)相手を傷つけて、自分を守るうそ(相手−自分+)
自分の利益のために相手を利用したり、相手を陥れたりするうそです。ここに入るものが「うそつきは泥棒のはじまり」と戒められるうそではないでしょうか。合意だったと言い張るセクハラの加害者や、公約を守らない政治家、事実をねじまげて伝えるメディアなども、ここに入りますね。子どもの場合は「○○ちゃんのせいでこうなった」などと、自分の失敗を友だちになすりつけるといったうそなどが当てはまると思います。
こうしたうそが発覚したときは、保身のためのうそはダメだという一貫した態度を取ることが大切です。親の方はついカーッとなってしまいがちですが、冷静に伝える方が効果があります。
しかし、子どもが自分のミスを認められない背景には、強すぎる親の期待や、親に叱られることへの恐怖があることも少なくありませんので、親子関係を見直してみましょう。うそを認めた勇気を認めつつ、だれかを傷つけるうそはダメだと教えることが大切です。
だますより、だまされる方がいい?
正直でいるためには勇気が必要です
人を信じるというのは尊いことです。「信じてくれている」ということが、勇気を与え、人を強くします。しかし、人からの信用を悪用する人は「だまされる方が悪い」と主張するのが常。また、私たち大人は人を信じることの大切さを教えながら、「悪い大人にだまされないように」と、見知らぬ大人を疑うことを子どもに教えています。子どもは混乱するでしょうね。
しかし、現実問題として、世の中にはうそがあふれています。自分や相手に正直であることはとても大切ですが、相手のうそを見抜くためには、うそをついた経験がないと難しいのではないでしょうか。
子どもは誰でも成長の過程で、秘密を持つことを覚え、うそをつきます。ですから「うそをついて、叱られる」ことにより、うそがどんな結果をもたらしたのかを振り返り、うそが自分や相手に与える影響について子ども自身が考える機会にしたいものです。うそをついてばかりいると肝心なときに信じてもらえなくなることや、うそをついたときの嫌な気持ちなどに気付けるよう手助けできるといいですね。
うそをつかない(つけない)子どもに育てようとするより、うそをつこうとした時に「うしろめたさ」や「罪悪感」を感じて、うそをつかない勇気を持てる子どもに育てていきましょう。そのためには、親自身が自分の気持ちをごまかしたりせず、うそのない誠実な態度を見せることも必要ですね。子どもはよく見ていますから。
うそをつくことはできる。でも、自分にも他人にもうそをつかない人生の方がシンプルで快適なものだということを、うそをつく経験を通して学んでいけるよう、関わっていきましょう。
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