9月12~27日=東京国際フォーラムホールC、10月3~8日=梅田芸術劇場メインホール
『SUPERGIFT!』
【見どころ】
梅田芸術劇場10周年を記念した宝塚歌劇OGたちのセレブレーション公演。第一部では同劇場で上演された作品を中心に、宝塚歌劇の名作や名曲、そして日程によってジャズあるいはラテンのナンバーを、剣幸さん、杜けあきさん、安寿ミラさん、姿月あさとさん、湖月わたるさん、こだま愛さん、森奈みはるさん、星奈優里さん、彩乃かなみさんほかスペシャル・ゲストたちが披露。特に月組トップコンビだった剣さん、こだまさんの久々の『ME AND MY GIRL』ナンバーは誰もが楽しみにされているところでしょう。大阪公演では宝塚歌劇団の美穂圭子さん、華形ひかるさん、沙央くらまさんも特別出演。三木章雄さんの構成・演出で、華やかな中にも懐かしさに胸躍る公演となりそうです。
『Super Gift!』撮影:岸隆子
【観劇ミニ・レポート】
華やかな真紅のコスチューム勢揃いから、モノトーン、そして2幕では色とりどりの衣裳へ。色彩もラインも様々なコスチュームをみごとに着こなしつつ、スターたちは歌劇団時代の持ち歌から歌劇団、海外ミュージカルの名曲を休憩込で3時間、次々と披露します。剣幸さんの天性の朗らかさ、杜けあきさんの大きさ、安寿ミラさんの惜しみない歌声、姿月あさとさん、湖月わたるさんの不変のカッコよさ、こだま愛さんの魂の歌唱、森奈みはるさん、彩乃かなみさんの張りのある歌声、星奈優里さんの気品あるダンス…。この日のゲスト、和央ようかさんは「緊張します」と言いながらも『Never Say Goodbye』のナンバーはじめ3曲を披露。
『Super Gift!』撮影:岸隆子
それぞれの個性きらめくナンバーの連続ですが、中でも1幕の剣さん、こだまさんコンビ復活『ME AND MY GIRL』コーナーは圧巻です。出演者たちが客席を歩きながら歌う「ランベス・ウォーク」では作品の無邪気さと今回の公演主旨、そして出演者たちのお人柄があいまって、場内がえもいわれぬ幸福感に包まれました。2幕の情感あふれる剣さん、こだまさんの「川霧の橋」、洋楽のリズムに日舞を和えたダンスを息もぴったりに魅せる杜さん、星奈さんの「深川」も印象的。OG公演特有のリラックス感も心地よく、“最高の贈り物”とのタイトルに相応しい公演となっています。
9月19日~11月23日=自由劇場
『コーラスライン』撮影:下坂敦俊
【見どころ】
ダンサーたちへの実際のインタビューをもとに演出家・振付家のマイケル・ベネットが舞台化。リアルストーリーという素材の衝撃も手伝って76年のトニー賞では最優秀ミュージカル作品賞はじめ9部門を受賞、90年まで6137回というロングラン記録を樹立した名作が再び自由劇場に戻ってきます。
コーラスラインとはメインキャストとその他の出演者を隔てる舞台上のライン。ここより前には出ないバックダンサーの仕事を求めてオーディションにやってきた男女に、演出家のザックはそれぞれのライフストーリーを尋ねます。当惑しながらダンサーたちが話し始めたのはダンサーを目指したきっかけ、恵まれない家庭環境、そして将来への拭えない不安…。実話ならではのインパクトに、マーヴィン・ハムリッシュによる70年代フィーリング漂う音楽、そしてベネットのダイナミックな振付が融合した舞台は見応えたっぷり。劇団四季の座内オーディションを勝ち抜いたキャストたちが、彼ら自身の実感を重ねながら演じることで、“誰もが特別な一人=the one”だと感じさせてくれそうです。
【観劇ミニ・レポート】
『コーラスライン』撮影:下坂敦俊
座内オーディションの結果、清新な顔触れがそろった今回の公演。登場人物たちの必死な姿はそのまま、この作品を通して成長してゆこうとする若い出演者たち自身と重なり、過去の公演にも増して臨場感あふれる舞台となっています。たとえばこの日、上川一哉さんが演じていたマイクには、冒頭のダンスから終始「絶対にこの仕事を掴みとる!」と言わんばかりの、尋常ならざる気迫が。それが無事報われるのか否か、観ている側も最後まで目が離せません。いっぽうではこれまでにもキャシー役を演じてきた坂田加奈子さんが、スターの座から凋落した彼女の渇望を歌い踊るナンバー「The Music And The Mirror」で“音楽を体現する”とはどういうことかを鮮やかに見せ、圧巻です。
『コーラスライン』撮影:下坂敦俊
審査をする側である演出家のザックをこの日演じていたのは、荒川務さん。ベテラン・キャストとして舞台を引き締めながらも、優しさと人間味の滲むザックを演じることで、誰もが光と影の両面を持ち、迷いながら生きていることを改めて痛感させます。そして緊迫のオーディションの後、一瞬の暗闇の後に現れるのが、選ばれた者、落とされた者、そして選んだ側が等しくゴールドの衣裳に身を包んで歌うフィナーレ「One」。張りつめた空気から輝くばかりの人間賛歌へ、そのコントラストが一際効果的な公演となっています。
10月1~17日=紀伊國屋サザンシアター
『十一ぴきのネコ』
馬場のぼるさんの絵本『十一ぴきのネコ』といえば、子供の頃に読んだ記憶のある方も多いのではないでしょうか。大きな魚を目指して冒険の旅に出た十一匹のネコたちの姿に、人間の“ユートピア探し”を重ね、井上ひさしさんがミュージカルに仕立てた本作が待望の再演です。宇野誠一郎さん、荻野清子さん作曲の胸躍るようなメロディに彩られ、北村有起哉さんら、多彩な俳優たちを現代演劇の雄、長塚圭史さんが演出。「子どもとその付き添いのためのミュージカル」と銘打たれており、子ども(3歳~小学生)料金1100円という設定にも注目です。
【観劇ミニ・レポート】
『十一ぴきのネコ』撮影:田中亜紀
筆者の観劇日は夕方の開演時間でしたが、幼児や小学生の観客が大勢。タイトルに因んで子供料金が1100円というお手軽さのため、一家族につき二人、三人の子供連れも多く見受けられます。
『十一ぴきのネコ』撮影:田中亜紀
11匹の都会の猫たちを演じるのは、新劇や小劇場で活躍する30代以上の“おじちゃん”俳優たち。一癖も二癖もある(?!)11人が集まると、それだけでただならぬ気配が舞台にたちこめ、土管が一つに吊りもの一つなど、極力シンプルにそぎ落とした舞台デザイン(二村周作さん)の中での猫たちの“生”を浮き彫りにします。彼らが時に大汗をかきながらこなす歌、ダンスをこなす様には、生きづらい都会を生き抜く野良猫のリアリティがふんぷん。なかでも、リーダー猫のにゃん太郎をミュージカル俳優とはまた異なるキレのある動きで演じる北村有起哉さんは集団、ひいてはコミュニティを思う者が報われないどころか排除される社会の矛盾を、力強く体現しています。
『十一ぴきのネコ』撮影:田中亜紀
タイトルには「子どもとその付き添いのためのミュージカル」という副題がついているため、観客としてはつい一般的な、ハッピーエンドのファミリーミュージカルを想像してしまいますが、本作の作者は井上ひさしさん、しかも初演はベトナム戦争等深刻な社会情勢を抱えていた1971年。馬場のぼるさんによる原作絵本のストーリーには「猫たちのシリアスな背景」と「コミュニティ(国家)と個人を巡る不条理な現実」が付け加えられ、その結末はあまりにも残酷にしてブラックなものへと変わっています。作者としては子供たちが「どうしてこういう終わりなの?」と付き添いの大人に尋ね、その会話から、やがて子供たちのなかに“社会を見る視線”が育まれることを期待していたのかもしれません。休憩込2時間半、1幕は80分という長尺ですので、小さい子供連れならぜひ幕間用のおやつや飲み物もお忘れなく!
*次頁で『WORKING』をご紹介します!