労務管理/労務管理に関する法律

外国人労働者の社会保険加入の基礎知識

会社に入れば、健康保険や厚生年金保険に加入するのは義務なのだと働いている方はみなさんご存じだと思います。こうしたことも、外国人労働者の視点から見ると少々見方が異なってきます。外国人労働者についての健康保険や厚生年金保険の扱いはどのようになっているのでしょうか。

渋田 貴正

執筆者:渋田 貴正

企業経営のサポートガイド

社会保険の加入に国籍は関係ない

外国人労働者は年々増えていて、企業も対応が必要です

外国人労働者は年々増えていて、企業も対応が必要です

グローバル化とともに、ヒトの移動も国際化が進んできました。このような時代の流れとともに、日本でも外国人労働者の人数は年々増加しています。留学生などのアルバイトだけでなく、フルタイムで働ける在留資格を持って、正社員として働く方も年々増加しています。

このように、年々増えている外国人労働者を雇用する際に、ときどき問題となるのが、社会保険の加入についてです。外国人労働者の場合、いつまで日本にいるか分からないといったことも多く、医療を受けるための健康保険はまだしも、厚生年金保険に加入することへの抵抗感が強いケースがあるのです。

原則論からいうと、正社員で働く以上、健康保険・厚生年金保険への加入は義務であり、そこに国籍は関係ありません。また、健康保険と厚生年金保険は、年齢要件こそありますが、基本的にはセットの加入で、どちらか一方のみ加入ということもできません。

いつまで働くか分からないし、年金がもらえるようなときには日本にいないだろうから加入したくないという外国人労働者の気持ちや、雇用の確保のためできるだけ言い分を聞き入れてあげたいという会社の思いも理解できます。しかし、加入が義務である以上は、加入してもらうように理解を得る方向で話を進めることが大切です。

ちなみに文中では触れていませんが、雇用保険も国籍に関係なく、要件を満たせば加入の必要があります。

外国人労働者向けの給付で納得感アップ

とはいっても、義務だから加入してくださいというだけでは、すんなりと納得してもらうのも難しいでしょう。そこで、厚生年金保険料が掛け捨てとならないように、脱退一時金という制度が設けられています。

脱退一時金とは、6か月以上厚生年金保険料を支払った外国籍の労働者が、仕事を辞めて出国する場合に、社会保険の資格喪失後2年以内に請求することで、所定の計算で算定した金額を受給できる制度です。給与天引きされた厚生年金保険料が全て戻ってくるわけではありませんが、少なくとも厚生年金保険料が掛け捨てに終わるわけではありません。

また、健康保険については、一定の要件を満たせば外国在住の家族も被扶養者とすることができます。もちろん被扶養者である以上、海外であっても、日本で受診したなら健康保険の給付対象となる医療を受けた場合には、健康保険から給付を受けることができます。この場合、外国で日本の健康保険証は使えませんので、一旦自費で支払ったのち、日本で医療費の請求を行うことになります。また、その他出産などの際の給付も通常通り受けられます。

このように、社会保険は外国人労働者にも配慮した制度設計となっています。会社としては、こうしたことも説明した上で、社会保険の加入に理解してもらうように努めましょう。

社会保障協定とは?

また、世界的に外国での就業が当たり前となっていることから、国家間でも社会保障協定というものが締結されています。

人事制度の一環などで数年間の外国勤務がある場合に、自国と勤務先の国の両方で社会保険料を負担するとなると、二重払いが生じるだけでなく、場合によっては勤務先の国の制度によっては、保険料が掛け捨てになるということも考えられます。こうした問題を解決するために、社会保障協定が結ばれています。協定の主な内容は、二重払いの防止と、保険料の掛け捨て防止の2つです。

まず、二重払いの防止策として、5年以内の外国勤務については勤務先の国の制度が免除され、5年超の外国勤務については、勤務先の国の制度のみを適用するということが定められています。

また、掛け捨て防止のために、勤務先の国の支給を受けるための最低加入期間の計算に、自国での年金制度の加入期間を通算できるということが定められています。例えば、日本で20年勤務したのちに、アメリカで7年間勤務していた場合、アメリカの勤務期間のみでは、最低加入期間の10年を満たしていないため、このままではアメリカでの年金は受給できません。しかし、社会保障協定があることで、加入期間の算定にあたっては、日本の加入期間である20年を合算できるのです。あくまで加入期間を満たすための制度で、実際の年金額は現地での保険料支払額をベースに算定されますが、少なくとも掛け捨ての防止にはなります。

社会保障協定を締結している国については、こちらをご覧ください。グローバル化の進展とともに、対象国も順次拡大しています。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/shakaihoshou.html

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