ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

『RENT』2015の魅力をユナク、アンディが語る(4ページ目)

2012年公演から3年ぶりに帰ってきたロック・ミュージカル『RENT』。初日を前に、稽古場では白熱したリハーサルが続いています。初出演キャストと前回からの続投キャストが混在する今回、どんな舞台になりそうでしょうか。ロジャーを演じるユナクさん、そして日本版リステージを行うアンディ・セニョールJr.さんにお話を伺いました!*観劇レポートをUPしました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


『RENT』観劇レポート

誕生から20年近い時を経て今、新たなステージへと突入した
“唯一無二”のミュージカル

『RENT』写真提供:東宝演劇部

『RENT』写真提供:東宝演劇部

夢を追う貧しい若者たちの町、NYイースト・ヴィレッジ。古いロフトでルームメイトのロジャーと暮らすマークの開幕第一声「1991年のクリスマスイブに始める。」によって、観客には本作が、当時現地で“よく見受けられただろう日常”を切り取ったドラマであることが印象付けられます。

映像作家を目指すマークがカメラを向けるのは、HIV感染者であったりゲイ、レズビアン、バイセクシャルといったマイノリティ(少数派)の人々。彼らはそれぞれに強烈な個性と創造性、そして溢れる愛を持ち、時には衝突し、傷つき、大きな喪失を経ながらも “今しかない今(No day but today)”を生きようとします。
『RENT』写真提供:東宝演劇部

『RENT』写真提供:東宝演劇部

96年にブロードウェイで開幕、日本でも98年に初演された本作は当初、ロックを主体としたメロディアスな音楽が人々の心を掴むいっぽう、当時世界を震撼させていたAIDSを正面から扱っていたため、決して通常の観劇ではありえない、リアルな衝撃を与える作品として受け止められました。それから20年近くが経っての、今回の『RENT』。AIDSに関する知識が浸透し、当時まだ激しい差別の対象であった性的マイノリティは「LGBT」としてトレンド・ワード化、理解も進みつつあることで、作品は新たなステージへと突入。若者たちの生活への鬱憤が叫びとなってゆく「RENT」やクリエイティブな人生を称える「ラ・ヴィ・ボエーム」、そして人生を愛で測ろうと歌う「シーズンズ・オブ・ラヴ」といったナンバーが、9.11以降憎悪と暴力の連鎖に歯止めがかからず、破滅的な道を辿る世界において、人類は多数派・少数派を争う場合ではなく、愛し合い、創造する本能を蘇らせるべきではないかと、観る者に鋭い問いを突き付けるのです。
『RENT』写真提供:東宝演劇部

『RENT』写真提供:東宝演劇部

こうした問いかけに繋がる個々のドラマをヴィヴィッドに演じているのが、際立った個性の持ち主でありつつ、“RENTファミリー”として確固たる絆で結ばれていることが感じられる、今回のキャスト。周囲の人々が抱える問題をカメラを通して傍観することしかできず、引け目を感じるマーク役の村井良大さんは、驚くべきナチュラル感でちょっとオタクなマークを体現。その歌声も、台詞がふと音に乗ったような自然さで、生まれながらのマーク?と錯覚するほどです。ロジャー役の堂珍嘉邦さん(超新星・ユナクさんとwキャスト)は抜群の歌唱センスで本作の楽曲の美しさを際立たせつつ、ミミに誘惑される「Another Day」では、音楽に逃げ込もうとするなかでのふとしたギターのあしらいなどにアーティストらしさが溢れ、人生を賭けてOne Songを書こうとする姿に説得力が加わります。ミミ役のジェニファーさん(Soweluさんとのwキャスト)は今回が4回目の出演ですが、体当たりで役に身を捧げ、「運命より命の強さを信じたい」と絶唱する彼女を応援せずにはいられないでしょう。

本作で唯一その“死”が描かれる登場人物、エンジェル役には平間壮一さん(IVANさんとのwキャスト)。持ち歌の「Today For You」では鋭いパフォーマンスも見せますが、恋人のためコートを入手しようと奔走したり、仲たがいしそうなロジャーとミミをなだめる箇所などで、エンジェルならではの優しさ、心遣いを滲ませます。魅力的すぎて男にも女にもモテてしまうパフォーマーのモーリーンと、彼女に振り回される弁護士ジョアンヌのカップルを演じるのはソニンさん(上木彩矢さんとのwキャスト)、宮本美季さん。やや尖がった、この“格好いい女”たちが互いに“私を認めて”と激突する「Take Me Or Leave Me」は、迫力満点です。
『RENT』写真提供:東宝演劇部

『RENT』写真提供:東宝演劇部

マークのかつてのルームメイトで、富豪の娘と結婚し“大家”の側に翻ったベニーを演じるのはSpiさん。自分なりに筋を通そうとするも嫌われてしまうこの役を、彼は微妙なもどかしさと自信をブレンドして演じています。そして今回、筆者が最も心を打たれたのが、コリンズを演じる(Skoop On Somebodyの)TAKEさん( 加藤潤一さんとのwキャスト)。教職を捨て、一文無しになったコリンズを包容力溢れるインテリとして演じ、きっと叶わぬと知りながらもレストランを開く夢を歌う「Santa Fe」ではペーソスを、続いてエンジェルとの愛の形を歌う「I’ll Cover You」ではささやかな幸福感を、そしてそのエンジェルを失っての哀歌「I’ll Cover You Reprise」では胸張り裂けんばかりの悲しみを含ませて歌い、カラフルな群像劇にいっそうの陰影を加えています。

リステージを担当したアンディ・セニョールJr.さんが観客に対して「ただ楽しむだけでなく、人生を変えるような何かを感じてほしい」と祈っていた今回の『RENT』。舞台は確かに、観る者ひとりひとりに“あなたは今を生きているか”““愛”と“創造”を糧に生きているか“と力強く問いかけます。時代を超え、国を超えてなお痛切に響くメッセージ。発表時にはセンセーショナルな“社会現象”であった本作は、20年近い時を経て今やtimelessな、そして唯一無二のミュージカルとなったのだと言えましょう。
『RENT』写真提供:東宝演劇部

『RENT』写真提供:東宝演劇部

*イベント情報*シアタークリエでは『RENT』上演を機に、10月9日迄1階エントランスにて、LGBTをはじめとするセクシュアル・マイノリティにスポットライトを当て、多彩なポートレートを様々なフォトグラファーが撮影する「OUT IN JAPAN」プロジェクト第二弾を展示。4月に公開された第一弾では『RENT』でエンジェルを演じているIVANさんが参加、今回の第二弾では演出のアンディ・セニョールJr.さんが参加しています。観劇日にはぜひ本展鑑賞の時間も見積もっておいては?


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