稽古場に立ち、音楽を聴くと
演じる役の「必死の思い」が自然に追体験できる
「RENT」という作品
RENT2015年公演のキャスト。Photo by Leslie Kee
「韓国も同じです。でもHIV感染者の映画はけっこう作られているので、そういう作品とか、NYのホームレスの方がたのドキュメンタリーは、稽古の休みの日に集中して見ています。僕がこの人だったらどういう風に質問に答えるかなと想像したり、かなり入りこんで見ていますね」
――明日自分の命が終わるかもしれないという逼迫感は?
「素の自分に戻れば抱きませんが、稽古で『RENT』の曲がかかり、みんなのエネルギーを感じた途端に変わります。心から、人生が終わる前に“この一曲”と思えるものを書き残したいと思えるし、死への恐怖も、心の高揚も感じます。みんなの歌もすごくて、『RENT』に出るってこういうことなんだ、と分かって、楽しいですね」
――ロジャーは恋人がエイズで自殺し、悄然としていたところにミミと出会い、再び生きる希望を掴みかけるものの、また別れてしまう。感情の振り幅が非常に大きいキャラクターですね。
「クレイジーな人というか(笑)、激しい人生を過ごした人です。ロックスターだったのがすぐ売れなくなって、お金もなく、つきあってた彼女は“私たちはエイズよ”という紙を残して死んでしまう。1度の人生でありえるかというくらい、いろいろなことを経験します。そんな中で、死ぬ前にいい曲を残したい、と切実に思っているんです」
――その“One Song”を、彼は長い間書けないのですが、ミミを思うことで、遂に書けるのですよね。
「ロジャーという人はとても愛情深い、パッションを持った人物。でも恋人に死なれ、6か月もひきこもったあげくにギターを出し、“もう俺は女もドラッグもいらない、1曲だけ書き残して死のう”と決意するんです。でもミミという女性との出会いを通して、みんなと交わったり周りを見回すことも出来るようになる。『RENT』という作品では、ミミが光のような存在なんです。消えそうに見えた光が、最後に明るくなって輝き、希望を与える。それがミミ。僕はあの最後の歌でミミがまた輝くのを助ける、燃料のような役目かな(笑)。
ロジャー役のユナクさん Photo by Leslie Kee
――カンパニーはどんな雰囲気ですか?
「みんな優しくて家族みたいな感じですが、一方で皆さん“プロ”。役作りをきちんとなさっています。素晴らしいキャストの方がたばかりなので、あとは自分さえ頑張れば、と思ってやっています」
――どんな舞台になりそうですか?
「これまでは自分が一人で“主演”という形の作品ばかりでしたが、今回はみんなが主役でそれぞれに個性があり、とても面白くなりそうです。未知数の部分もあって楽しみですよ。K-POPスターが出ているミュージカルって、韓国では物凄く盛り上がるし、そのいっぽうでキスシーンは(「そんなことしないで」というファン心理で)“しーん”となってしまったりするけど(笑)、今回はK-POP界の僕を知らない方もたくさんいらっしゃると思うので、どんなリアクションになるのか。韓国ではアドリブをやる舞台も多いけど、今回は全部細かく決まっている作品ですし、集中してちゃんとやらないと!と思っています」
――ユナクさんは大学路(韓国ソウルの演劇のメッカ)のミュージカルに初めて出演したK-POPアイドルなのですよね。もともとミュージカルを希望していたこともあり、舞台への思いは格別かと思いますが、表現者として、今後どんなビジョンをお持ちなのでしょうか?
「当時、大学路ではアイドルを見る目は厳しく、11年に『キム・ジョンウク探し』に出た時も、稽古では歩き方から徹底的にしごかれ、辛かったけどとても勉強になりました。
そして今回、『RENT』に出たことで、それまで自分には限界があると思っていたけど、ちょっとレベルアップできたような気がします。30代に入ったところですが、これからもいろんなことができるような気がするんです。超新星の活動はとても楽しいし、6人グループなので自分の思い通りに動くわけにはなかなかいかないのですが、今後も機会があれば積極的にミュージカルに出たいですね。ミュージカルの世界でも“ユナク”の名前を刻んで、僕のことをご存知でなかった方がたにも認めていただいたり、プロデューサーの方々が“この役、ユナクにやらせてみたらどうかな?”と思っていただけるような存在になりたいです」
*次頁で『RENT』リステージを行っているアンディ・セニョールJr.さんのインタビューをお送りします!