キャラ幅広め。「ひらりひらり」にも間に合った
チタンマフラーから響き渡る、野太く重奏的なV8サウンドを楽しみつつ走り出すと、まず思い出したのが、旧型のモデル末期に発表されたスーパースポーツだった。コンチネンタルにしては、存分に軽くノーズを左右に振ることができる。重量感はかなり抑え込まれており、軽々しいという表現も可能だ。それでいて、電気的に軽やかな演出をしているふうでもなく、しっかりと路面からのインフォメーションを受け取ることもできる。軽快だけれども、確かな手応えがあった。
特筆すべきは、常にフラットさを保つシャシー性能である。21インチタイヤの旺盛なグリップと、ダイエットしたとはいえ2.2トンもある巨体をしなやかに受け止めるシャシー、そしてトルクベクタリングシステムのおかげで、本来なら苦手なはずのタイトベントでも、自信をもってスムースに駆けていける。ひらりひらりという表現が、ぎりぎり間に合っていた。
ギアシフトをSモードにすれば、バリバリバリと破裂音もけたたましい。豪快なエグゾーストとともに発揮される加速は、硬いが上質なライドフィールと相まって、ちょっと他のブランドでは味わえない性質のものだ。過激さと冷静さがほどよくミックスされているため、フライングBにふさわしい、抑制の効いた高性能を楽しむことができる。
それでいて、その気になれば、振り回してドライブするような楽しみ方もできるから、キャラクターの幅はかなり広め。もちろん、日常域のテイストは十分にベントレーの範疇で、感覚的には、ちょっと小さめのコンチネンタルGTを駆っている気分といえばいいだろうか。
全体的にいって、コンチネンタルGTという名前の示す領域に、きっちりと留まっているという印象が強い。つまりは、よくできたグランドツーリングカーである。けれども、ひとたびドライバーがその気になれば、スポーツカーとしても十分に楽しむことができる。そして、そうなったときのドライブテイストは、音、動き、速さのバランスの取り方がとてもユニークで、印象的である。つまり、愉快なスポーツカーにもなりえる。
正真正銘のベントレーのGTカーでありながら、スポーツカーとしてのキャラクターも際立つ。この成果がマイナーチェンジ後のV8Sにももたらされていることを知ると、いっそう、GT3-Rのレゾンデートルに納得もいくことだろう。
世界限定300台。もう売り切れてしまったこともあって、われわれが二度目の試乗を果たすチャンスはもうやってこないと思うが、“二度と乗れないかも”という事実がちょっと悔しい、印象的なモデルであったことは間違いない。