荒木飛呂彦
荒木飛呂彦さんは、超有名漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『ジョジョ』)の作者であり、映画を研究して作品作りをしていることでも知られています。その評論本では「なぜ人は映画を観るのか」「映画をおもしろいと感じるのはなぜか」「そもそもおもしろいとはどういうことか」という根本的なところまで分析をしています。
たとえば『奇妙なホラー映画論』においては、「生きていればどうしても人生の醜い面や暗いところを見てしまう。そうした暗黒面を誇張して描いたのがホラー映画であって、それを観ることが現実世界と向かう予行演習となる。それこそがホラー映画の意義である」というふうに語っています。これには膝を打ちました。映画に限らず世の物語がハッピーなものばかりでないのは、現実と戦うための力になることが理由なのかもしれません。
個人的に感動したのは『超偏愛!映画の掟』における、クリント・イーストウッド監督について論じたセクションです。『ミスティック・リバー』をはじめとした作品群が傑作である理由、職人芸を感じる演出の妙、イーストウッドの後継者となる監督は誰かなど、その魅力が多角的に語られていました。
評論本は『ジョジョ』を読んでいなくても楽しめますが、読んでいるとよりその内容により感動できるでしょう。たとえば『超偏愛!映画の掟』においては、空条承太郎というキャラのモデルや、リンゴォというキャラが重んじていた「男の美学」の元ネタなどわかります。そのほかにも「『ジョジョ』のドキドキするバトルのおもしろさは、サスペンス映画を深く研究していたからだったんだ!」と納得できる記述がたくさんあります。
中川翔子
「しょこたん」の愛称でおなじみの彼女も、かなりの映画マニア……というよりもジャッキー・チェンやブルース・リーなどのカンフー映画マニアです。その著作『しょこたんの秘宝遊戯』(ブルース・リーの『死亡遊戯』と雑誌『映画秘宝』が混ざったタイトル)では、そのパトスが溢れ出まくっています。語られている内容は決してマニアックではなく、「ビックリした!」「あの役が格好良かった!」「あのシーンを巻き戻して何回も観ちゃった!」「ジャッキー様に出会えて感動した!」などの親しみやすいものが中心。ただし彼女のオタク気質も爆発しているので、決して浅すぎるということもありません。その上手すぎるイラストも相まって、むしろ映画をあまり知らない人にこそオススメできる本になっています。
ただ、紹介されているのは『ドラゴン怒りの鉄拳』とか『サスペリア』とか『死霊のはらわた』とか『ブレイン・デッド』とか、しょこたんと同世代の女子はまず観ていないであろう映画も多い(笑)のですが、そこも含めて魅力的。ちなみに、しょこたん自身が声優を務めていた『塔の上のラプンツェル』についても書かれています。
個人的に笑ったのは、『ホーリー・マウンテン』のページ。彼女は12歳のときに母親から「この映画、パパが大好きだからあなたも観なさい」と言われていたそうです。あの映画はエログロ描写がすさまじくて、とてもじゃないけど子どもに観せられないんですけど(笑)。すごい家族ですが、そういうところがしょこたんの素晴らしきオタク気質を産んだんでしょうね。
有名人だけど、みんな映画オタク
ここに紹介したのはタレント・著名人ばかりですが、どの方も映画への愛情に溢れています。自分には「映画はオタク(愛する人に)にこそ論じてほしい」という気持ちがあるので、こうした有名な方々がそうした「映画愛に満ちた、映画を論ずる一人者」となってくれることがうれしいのです。ライムスター宇多丸さんや江頭2:50さんはときに厳しい言葉で映画を論じますが、それも「映画を愛するがゆえの厳しい言葉」であることが、きっとわかるでしょう。作品を論ずるときには、そういう姿勢でありたいものです。